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FERCオーダー745の顛末-その6

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Early morning stillness

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10月に入り、そろそろ米国最高裁でのFERCオーダー745の審理が始まると思うのですが、まだニュースとしては入ってきていません。その審理が始まる前に、そもそも電力供給事業者協会(Electric Power Supply Association:EPSA)はFERCオーダー745(O745)のどういうところが気に入らず高等裁判所に提訴したのかを、詳しく調べて皆さんにご紹介しようと思っていたのですが、なかなか調査時間が取れず、今日に到ってしまいました。まだしばらくは、腰を落ち着けてO745を追いかける時間がないため、本日は、米国原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute:NEI)のホームページに掲載されていたニュース記事「Nuclear, Gas Industries Oppose FERC Approach to Demand Response」をご紹介します。
例によって、全訳ではありません(というか、この記事の中で「FERCオーダー745の顛末-その5」でご紹介したのと同様の、O745にまつわるこれまでの経緯が詳しく説明されていたのですがここでは割愛しました)。では始めます。

 NEIニュースリリース

原子力・天然ガス業界、DRに関するFERCの対応に反対

2015年9月10日

米国の原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute:NEI)および天然ガス協会(America’s Natural Gas Alliance:ANGA)は、FERCオーダー745(O745)が非合法であるとして、最高裁判所に上訴趣意書を提出した。

その趣旨は以下の通り:

  • O745の施行は、原子力発電所の廃止時期を早め、ガス火力発電所設備新設の障害となりかねない。O745は、電力の安定供給を妨げ、さまざまなエネルギー資源を用いることでエネルギーセキュリティを確保するという国策をも台無しにしかねないものである。
  • O745は、連邦エネルギー法(FPA)での電力価格設定の規定に反するものであり、優遇価格で消費者の負荷削減を求める結果、電力市場価格を押し下げ、原発および天然ガス火力発電事業者の市場での立場を悪化させる。結果、O745は、いくつかの原子力発電所の早期閉鎖や、天然ガス発電所の新設を阻害しかねない。
  • これをこのまま放置すると、多くの発電事業者が電力市場からの撤退を余儀なくされ、電力取引市場での価格弾力性が失われて、系統逼迫時の電力価格高騰や、系統の信頼性低下が懸念される。また、原発が閉鎖に追い込まれればCO2削減に関しても悪影響がでる。

O745に関するこれまでの経緯の説明を省いてしまった結果、ものすごく短い記事になってしまいました。
DR反対陣営の主張はこれですべてだとは思えませんが、反対内容の1つ、「CO2削減に悪影響が出る」という件は、O745はCO2削減に効果のある原子力発電所がなくなるかもしれないということでそのような主張が行われている訳ですが、CO2削減という意味では、DRの方がより優れているのではないでしょうか?
また、日本でもDR資源に対する不信感が根強く、DR資源は系統の信頼性低下をもたらすのではないかという議論が聞かれますが、それでは、米国で一番系統の信頼性確保に関して責任を持つPJMやMISOといった系統運用者がなぜ、DR利用に積極的なのか?これを考える必要があると思います。
確かにDR資源の採用は、経済調達(ニュース記事にあるように、発電事業者の電力市場価格に対する市場行使力を抑制し、電力市場価格を押し下げる効果がある)という面があります。
しかし、「DRはどこへ向かうのか-その16」でMISOの統計資料をご覧いただいたように、今や米国では、予備力提供時の信頼性に関しては、発電機よりもDR資源の方が高くなってきています。
2009年1月~2012年2月までのMISOが調達した予備力に関する「月平均予備力提供未達率:Monthly Shortfall (%) of Deployment」の実績データによると、発電機の予備力提供未達率4%に対してDR資源の予備力提供未達率が1.2%。それも、2010年8月に通信回線の故障でDRシグナルが届かなかったトラブルが大きく足を引っ張っており、これを除くと、DR資源提供による予備力提供未達率は0.1%くらいだったのではないかと言われています。

ただし、そのような信頼性を確保するためには、EnerNOCのような大規模DRアグリゲータが必要十分なDR資源提供者を抱え込み、たとえどこかのDR資源提供者が約束通りDR資源を提供できなくても、すぐ予備のDR資源提供者にDRシグナルを出せるような仕組み・体制を整える必要があります。
あるいは、アルミ精錬会社ALCOAのように大量に電力を消費する会社がDRに理解を示し、自社製品の卸価格の市場変動と、系統へのアンシラリーサービス提供から得られる収益を勘案して自社の生産工程をダイナミックに変化させられるような仕組み・体制づくりを行えるように、国が支援して実証実験を行うといった努力が必要だろうと思います。

O745関連のお話はここまでですが、これではあまりのも寂しいので、その他、本業以外で最近のスマートグリッド関連の流れでかかわったことをいくつか取り上げたいと思います。

 

TEチャレンジのキックオフミーティング開催される

米国東部時間2015年9月10日8:30amから、NISTのBuilding 101で総会が開催され、その模様はWebcastされましたので、リアルタイムで見守っていました。(最後は睡魔との格闘でよく覚えていませんが。。。) アジェンダはこの通りです。キックオフミーティングなので、TEチャレンジのビジョン、そもそもTEとは何か、TEチャレンジの進め方の説明の後、チャレンジ参加者から、何に関心を持っていてどんなことをしたいかといった意思表明が行われていました。 Webcastの内容も、ここからご覧いただけますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
また、NISTホームページ内のTEチャレンジのページも整備されてきましたので、一度訪問してみることをお勧めします。

 

グリーンボタンアライアンス(Green Button Alliance : GBA)

先週、突然、GBAニュースレターなるものが届きました。内容はこれ。GBAのニュースレター第1号で、カリフォルニア州では、Googleクラウドや、SaaSプラットフォームを利用したグリーンボタンアプリが利用できるようになったこと、電気の利用状況だけではなく、ガスや水道使用量のデータダウンロードにもグリーンボタンの利用が広がっていることが書かれていました。ここまではわかるのですが、今後、この標準の用途をさらに拡大して、不動産売買のリスティングサービスに利用できないかーというようなことが書かれています! 弊ブログでは、OpenADEに始まって、NAEBSのESPI(Energy Services Provider Interface)に引き継がれ、グリーンボタンイニシアチブとなって広まってきた経緯をご紹介してきましたが、2015年になって、このグリーンボタンの規格の利用促進を図るNPO団体ができ、その規格が不動産売買の情報授受の標準データ規格に発展しようとは思いもよりませんでした!!

 

KNX25周年記念イベント開催予定

最後は、インターテックリサーチとしてではなく、日本KNX協会事務局としてのお知らせ/お願いです。 今年5月、弊ブログ「KNX生誕25周年記念イベント開催予告」にて、KNXが、その前身であるEIBというビル制御規格が世に出て今年で25年になるのを記念して全世界40カ国で同時記念イベントを開催することをご案内しましたが、いよいよそのイベント開催日の10月20日が近づいてきました。 日本でも東京会場にて、10月20日に記念イベントを開催するとともに、10 月21 日以降も、東京、大阪、福岡にてKNXロードショーとしてKNXのご紹介をさせていただきます。 プログラム/参加登録手続きに関しましては、ここからご覧いただけますので、是非、東京、大阪、福岡 お近くの会場に足をお運びいただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。
#特に、10月27日(火)九州会場のイベントへのお申し込みが少ないので、このブログをお読みいただいている方で九州地域にお住まいの方のお越しをお待ちしています !!!

終わり


FERCオーダー745の顛末-その7

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The Summerhouse

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前回(10月10日)、このブログで「まだFERCオーダー745に関する米国最高裁判所での審理が始まっていないようだ」とご報告しましたが、その4日後の10月14日、最高裁での審理が開始されたようです。

本日は、Lexologyという、法律家その他各界のご意見番?の意見が掲載されているサイトで見つけた『SCOTUS entertains oral argument on FERC Order 745, the “demand response” rule』を抜粋してご紹介したいと思います。 ところで、本題に入る前に、今回ご紹介する記事のタイトルにある「SCOTUS」の意味をご存知でしたでしょうか? 人物の姓で『SCOTUSさんはデマンドレスポンスに関する規則を定めたFERCオーダー745に関する口頭弁論を楽しんだ』という意味ではありません。SCOTUSは、Supreme Court of the United Statesの略、すなわち米国最高裁判所でした。ご存じだった方には、何でもないことですが。。。 また、「entertain」という単語も、法務用語としては通常と違った意味合いを持つようです。

横道にそれてしまいましたが、では、はじめます。例によって、全訳ではないことと、個人の思い込みが含まれているかもしれないことをご承知おきください。

米国最高裁判所でDRに関する規則を定めたFERCオーダー745に関する口頭弁論始まる

Stoel Rives LLPJon B. Wellinghoff

USA 2015年10月14日

米国最高裁判所は、今朝、連邦エネルギー規制委員会(FERC)とエネルギー供給協会(EPSA)の間で争われている問題に関する口頭弁論の聴取を実施した。争点は、DR資源提供者への補償を規定したFERCオーダー745(以降O745)の有効性である。 本日の審議録はここからダウンロードできるが、ここでは、それに先立って今年はじめ私が先進エネルギー経済(AEE)のWebinarでマルコム・ウルフ上席副社長にお話しした、本件に関するコメントの概略を紹介したい。なお、この時のWebinarはここから、インタビューの筆記録はここからダウンロードできるので、詳細はそちらをご覧いただきたい。

デマンドレスポンス(DR)にはいくつかの役割がある。

1番目は、本質的に発電所が生成・提供する資源に等しいエネルギー資源であり、テクノロジーの進歩のおかげで、いまや発電機の電源に勝るとも劣らない堅牢な技術に仕上がっていることである。そのため、容量市場やアンシラリーサービス市場で、電源と対等に資源提供を行えるまでになっている。

より重要なことは、その柔軟性である。DRなくして太陽光発電や風力発電など出力変動の大きな電源を系統接続するにあたって、系統の安定性を確保し、かつ、本来、再生可能エネルギー導入を促進するための目的である低炭素社会を実現するのは不可能に近い。DRは、低炭素社会実現のための「接着剤」のようなものであると考えている。

ところで、ワシントンDCの高等裁判所は、3人の裁判官による審理の結果、2対1でFERCオーダー745が無効であるという結論を下した。私は、この判決をいささか疑問に思っている。

本件についてエドワーズ裁判長が示した、連邦エネルギー法(FPA)824条(d)、(e)項で規定されたFERCの権限と暗黙の承認に関して異議を唱えるものではない。しかし、DRが需要家の電気の使い方を変更するからと言って、FERCがFERCオーダー745によって需要家の電気料金決定権を有する州規制機関の権限を侵していると考えるのは、おかしいのではないかと考えている。

たとえてみると、「大量に石炭を(小売市場で)購入し火力発電所で使って、発電した電気を卸電力取引所に低価格で売りつけると卸売市場価格に影響を与えるので、石炭は小売り製品ではない」と言っているような論理のすり替えがあるのではないだろうか? DRアグリゲータは、確かに電力小売市場でDR資源を消費者から調達するけれども、そのようにして消費者から得られたDR資源を束ねて売り込む先は電力卸売市場であり、市場価格に影響するとしても、それは卸売市場価格である。DRアグリゲータが消費者から調達したDR資源を束ねて卸売市場に提供する「製品」は、州規制機関の監督反中である小売市場の製品ではなく、卸売市場の製品である。

最高裁判所で本件が再審理されることで、我々は勝利するだろう。

この意見を投稿したStoel Rives LLPというのは、米国の法律事務所のようですが、そこに籍を置いている筆者のJon B. Wellinghoff氏は、実はオーダー745作成時、FERCの長官でした。FERCオーダー745の正当性に関して絶対的な自信を持っていることがうかがえます。
最高裁での口頭弁論の内容はここを見なければならないのですが、71ページあり、まだ読了できていません。 さわりの部分だけご紹介すると、まず冒頭に

  • No. 14840:FERC (請願者) 対 EPSA他
  • No. 14841:EnerNOC他 (請願者) 対 EPSA他

とあり、FERC対ESPAだけではなく、EPSA他の高等裁判所で勝訴したDR反対派に加えて、EnerNOC等DR擁護派が、DR反対派に向けて出された最高裁への上告の口頭弁論も、同時に当日実施されていたことがわかります。

そして、当日の口頭弁論は、以下の通り執り行われたようです。

  • 4~17ページ:連邦の請願者を代表して米国司法局の法務次官Donald B. Verrilli, Jr氏の口頭弁論
  • 17~25ページ:民間からの請願者を代表してSidley Austin法律事務所最高裁担当主席弁護士のCarter G. Phillips氏の口頭弁論
  • 25~54ページ:EPSA等の被告側の代表としてPaul D. Clement氏の口頭弁論
  • 54~59ページ:Donald B. Verrilli, Jr氏の反論

実は来週海外出張が入っていて、次のブログ更新がいつになるかわかりませんが、飛行機の中での時間つぶしに、この口頭弁論の内容を追ってみようと思っています。

本日は以上ですが、最後に、KNXではなく、ビルオートメーション分野において、日本ではKNXよりもずっと以前からオープンデータ通信の国際標準ISO/IEC14908となっているLONWORKSネットワーク技術の国内普及活動を実施されてきたLONMARK JAPANのセミナーの案内をさせていただきます。

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『LONMARK SESSON 2015 東京』 開催のご案内
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いつもお世話になっております。

私どもLONMARK JAPANは、来たる平成27年11月26日に「LONMARK SESSION 2015 東京」セミナーを下記内容で開催する運びとなりました。

以下に概略を記します

会場:国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟416号室
費用:無料(講演資料付)
定員:先着150名 
開催時間:午前10時から午後4時40分  

講演内容:「オープンネットワーク新時代、IoTの実用化と課題」

第1部 「オープンネットワークのセキュリティ」
 基調講演 「ネットワークセキュリティ施策(仮)」
 経済産業省情報セキュリティ政策室長 瓜生 和久様(調整中)

 特別講演 「対日本、サイバー攻撃最前線(仮)」
 株式会社サイバーデフェンス研究所 理事/上級分析官 名和 利男様

 講演「CSSC活動の紹介と、オープンBAシステムのセキュリティ対策に望むこと」
 イーヒルズ株式会社       取締役    渡部 宗一様
 森ビル株式会社 管理運営部 技術2グループ担当課長  久保田 常人様

 講演「ネットワークから考えるIoT/M2M/BAフレームワーク」
 アライドテレシス株式会社 環境ソリューション推進部 執行役員 作本 直樹様

第2部 「オープンネットワーク、IoTの実用化事例とその技術」
 講演 富士電機株式会社 部長 増渕 正裕様
 講演 日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 太田 寛様
 講演 Belden/ヒルシュマン 山田 茂晴様
 講演 Echelon Corporation Rich Blomseth様

特に、第1部特別講演の(株)サイバーデフェンス研究所 理事/上級分析官 名和利男様は、先般9月14日のNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に「不屈の”トップガン”、サイバー攻撃に挑む」として紹介されました。

http://www.nhk.or.jp/professional/2015/0914/

この他の講演者の方々も、現在それぞれの分野の最前線で活躍している皆様です。

開催内容の詳細つきましては、LONMARK JAPAN ホームページ http://lmjapan.org/ のトップページのバナー、または下記アドレスを参照下さい。

詳細パンフレット http://lmjapan.org/news/pdf/20151022.pdf

申込みページ   http://lmjapan.org/form_entry20151126/form.php

皆様の申込みを、お待ちします。

特定非営利活動法人 LONMARK JAPAN
理事長 富田俊郎  事業推進委員会委員長 石戸谷徹

 

終わり

MISOのDRプログラムとDIR-その1

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Ballakilleyclieu – Isle of Man

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突然ですが、今回から何回かに分けて、MISOについてご紹介したいと思います。

以前、米国最大の系統運用機関であるPJMのDRプログラムをこのブログで取り上げましたが、表題にあるように、MISOと、MISOのDRプログラム、そしてMISOのDIRについてご紹介したいと思っています。

まず、「MISO」は、何の略でしょうか? もちろん、「みそ」のローマ字表記ではありません。 次の中から選んでください:

1) Minnesata ISO
2) Midwest ISO
3) Midcontinent ISO


出典:http://www.greenbeltenergyco.com/UserFiles/Image/ISO-Map.gif

上図は、少し古い米国のISOマップです。

ISO(Independent System Operator = 独立系統運用者)名の内、CAISO(=カリフォルニア州)、NYISO(=ニューヨーク州、上図右上サーモンピンク色のエリア)は、系統運用者の管轄エリアの州名を冠しています。ERCOTも「ISO」と称してはいませんが、最後の文字「T」はテキサス州の「T」です。しかし、MISOのMは、Mの頭文字の州、例えば1)のミネソタ州のことではありません。

また、複数の州にまたがった系統を管轄エリアにするPJMも、もとはといえば、P (Pennsylvania=ペンシルベニア州)、J(New Jersey=ニュージャージー州)、M(Maryland=メリーランド州)という3つの州からその名が出来上がっていますし、ニューイングランド地方(上図右上黄色のエリア)を管轄エリアにするISOは、そのものずばりでISO New Englandです。

MISOも、1998年9月、⽶国中⻄部(Midwest)で送電線を保有する電⼒会社が集まって出来上がりましたので、設立当初は、⽶国中⻄部独⽴系統運用者(Midwest ISO)の略でした。 ところが、PJM同様、その後、MISOは系統の管轄エリアを広げていき、2012年には、米国内ばかりではなく、カナダのマニトバ州まで拡大しました。次の図は、マニトバ州まで併合したMISOが、まだMidwest ISOと呼ばれていた頃のものです。

出典:http://www.opuc.texas.gov/images/iso_rto_map.jpg

国境をまたいでMidwestという米国での地域名称がそぐわなくなったのか、2013年4月、MISOは組織名称を「Midcontinent ISO(北⽶内陸独⽴系統運用機関)」に改称しています。

更に、2013年12月、MISOの管轄エリアにミシシッピー州、ルイジアナ州、アーカンサス州とテキサス州の⼀部が新たに加わり、⽶国を縦断する15州の全部または⼀部とカナダのマニトバ州に跨る世界⼀大きな地域送電機関(Regional Transmission Organization:RTO)となっています。

下図は、現在の北米の系統運用機関(ISOとRTO)の管轄エリアを示しています。


出典:http://www.isorto.org/about/default

なお、RTOに関していえば、MISOはPJMよりも早く、2001年12月に、米国初のRTOに認定されています。 一般にPJMが米国内最大のRTOとされていますが、MISOが北米で一番広い地域を管轄していることは、この図から一目瞭然です。そこで、MISOとPJMを比較してみましょう。

  MISO PJM Interconnection
本社 キャメル(インディアナ州) バレーフォージ(ペンシルバニア州)
メンバ企業 175企業 942企業
発電設備容量 195,231 MW 183,604 MW  
ピーク負荷 133,181 MW 165,492 MW
年間供給電力量   837,796 GWh
年間市場取引高 $37 Billion $50 Billion 
管轄エリア 米国15州とカナダのマニトバ州 米国13州とワシントンDC
送電線総延長距離 65,250マイル 62,556マイル
需要家数 480万人 610万人
Webサイト Misoenergy.org pjm.com
     

 出典:「MISO Fact Sheet」、「PJM at a glance」等

以上のとおり、MISOの管轄エリア(と送電線総延長距離)、発電設備容量はPJMより大きくなっていますが、エリア内の需要家数、需要量、市場取引高ではPJMに次いで2位のポジションを占めています。 電力取引に関しては次回眺めることにして、今回は最後にMISOエリアの発電事情について見ておきましょう。

※以下は、2014年IEEE PES(Power & Energy Society)の資料「Wind Forecast Integration at MISO」なので、先のPJMとの比較表内の数値と違うのですが、ご容赦ください。

まず、MISOエリアの発電設備容量の内訳をみると、石炭・石油・天然ガスを燃料とする火力発電が80%、残り20%の内再生可能エネルギーが12%、原子力発電が8%という構成になっています。また全体の12%を占める再生可能エネルギーの構成は、風力65%、水力30%、バイオマス3%、その他2%となっており、風力発電の比率が高いことがわかります。

その理由として、MISO管轄エリアの風況の良さがあるようです。

※上図中の年間平均風速80mというのは、8mの間違いだと思いますが。。。

 とにかく、そういうことで、MISOエリアの各州では積極的に再生可能エネルギーを利用するため、独自に再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(Renewable Portfolio Standard:RPS)の導入を進めているようです。

その結果、MISOエリアでは、今後も風力発電設備容量の増加が見込まれています。

ただ、風力発電量は月によってバラバラ。

それどころか、ピーク時間帯に風力発電設備からどれほど電力供給できるかは、10%以下から70%まで、日によって変化します。

MISOエリアでは、風力発電の増設に送電設備が追い付かず、送電線混雑が発生。必要に応じて風力発電抑制が行われてきたようです。
ただし、「MISOが風力発電抑制指令を出すと、自動的に風力発電が抑制される」というようなものではなく、MISOから、MISO配下の需給バランス調整組織(Balancing Authority:BA)を介して風力発電設備に連絡が届き、マニュアルで発電抑制をするという、人間系での対応がとられてきたようです。

出典:http://www.clean-coalition.org/resources/integrating-high-penetrations-of-renewables/

再生可能エネルギー大量導入による系統問題として、CAISOのダックカーブ(上図)が有名ですが、これは太陽光発電なので大きな出力変動の発生する時間はある程度予想できますが、風力発電出力の変動は、もっと大変そうです。

そこで、MISOでは、電力取引市場で、従来の非常時用の予備力ではなく、風力発電の出力変動に対応可能な柔軟性を持った予備力(Ramp Capability:RC)の導入を検討し、「フレキシブルな電源」としてDRも積極的に利用しようとしています。

 

ところで、再生可能エネルギーの発電量は、天気任せですが、ウィンドファームやメガソーラー施設内に大型蓄電池を設置し、蓄電池への充放電により、再生可能エネルギーの外部出力を平準化するというアイデアは昔からあり、日本では青森県に大型NAS電池を併設した二又風力発電所があります。

筆者は、今年5月、米国で、同様の蓄電池併設ウィンドファームを運用しているDuke Energy等へのヒアリングを行いましたが、まだ大型蓄電池が高価なので、蓄電池導入に対して政府の補助などがなければペイしないというのが一般的な反応でした。

これに対してまた、MISOは、もう1つ別のアプローチをとっているようです。それがこのブログのタイトル「MISOのDRプログラムとDIR」に忍び込ませた「DIR」です。 「DIR」は、Dispatchable Intermittent Resourceの略で、発電指令(Dispatch指令)で出力制御可能な「Intermittent Resource」。すなわち、太陽光発電や風力発電のような、時々途切れる電源を発電指令で制御してしまおうということのようです。

実は、DIRという言葉に出会ったのは数か月前なのですが、それ以降なかなか調査する時間が取れず現在に至っています。 そこで、まず、本日はMISOの概要をご紹介しましたが、次にMISOの電力取引について、また、その中でDRがどのように取り扱われているかについてご紹介しつつ、DIRに関して調査し、最後にDIRについてもご紹介しようと思っています。

以上、今回は、MISOの概要と、MISOエリアの発電事情についてご紹介しました。

終わり

MISOのDRプログラムとDIR-その2

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Killabrega Farm – Isle of Man

© Copyright Jon Wornham and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

前回はMISOの概要と、MISOエリアの発電事情についてご紹介しました。今回は、MISOが運営する卸電力取引市場の概要についてご紹介しようと思います。 その前に、MISOが管轄エリア内で系統の需給バランスをとる仕組みを見ておきましょう。

MISO管轄エリアでの電力需給バランスをとる仕組み

まず、前回のおさらいになりますが、MISOは、1998年9月、FERCから米国中西部(Midwest)の独立系統運用機関(Independent System Operator:ISO)の認定を受け、その後2001年12月には、米国で最初の地域送電機関(Regional Transmission Organization:RTO)に認定されました。
こうして、MISOは、その管轄エリアの系統全体の需給バランスをとる責任者となった訳ですが、MISOの管轄エリアは、北米電力信頼度協議会(North American Electric Reliability Corporation:NERC)の管理上、3つの領域 (MRO、RFCおよびSERC)にまたがっています。


出典:NERC「NERC Interconnection」

そして、MISO管轄エリア内には、下図のとおり、複数の垂直統合型電力会社や発電事業者、送電事業者が存在します。


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Transition from a Balancing Authority to a MISO Local Balancing Authority」

MISO管轄エリア内で需給バランスをとる手順は以下の通りです:

  1. 上図中の電力会社や送電事業者が、それぞれの地域の需給バランス管理者(Local Balancing Authority:LBA)として、基本的に需給バランスを取るが、予見されるインバランスをMISOに通知。
  2. MISOは、管轄エリア内に存在する20以上のLBAを束ねて、MISO管轄地域内の需給制御誤差(Area Control Error:ACE)を計算し、周波数偏差および需給インバランスを解消するべく、自動発電制御(Automatic Generation Control:AGC)シグナルを送出。
  3. MISOからのAGCシグナルを受けた管轄エリア内の発電所等により、リアルタイムに需給調整が行われる。

MISOの役割としては、このように、MISO管轄エリアの系統全体の需給バランスをとるだけでなく、以下の役割を果たします:

• 系統の信頼度維持管理
• 送電線混雑管理とオープンアクセス送電料金表に基づいた平等な送電線運用
• 管轄エリア内の送電線拡張計画(MISO Transmission Expansion Plan:MTEP )策定および、管内の適正な発電設備容量の調査(The Regional Generation Outlet Study :RGOS)の実施

そして、もう1つの大きな役割が卸売電力市場の運営です。 蛇足かもしれませんが、本題に入る前に、「電力取引」について整理しておきたいと思います。

 

電力取引についての整理

まず、「電力取引」ですが、「電力」という商品の取引ですから、商品取引の一種ですね。ただし、商品取引と言うと、例えば金先物取引のように、商品を手に入れたいのではなく、商品の売買値差の差金決済で利益を得ることが主目的の感じを受けますが、ISO/RTOが関与する卸電力市場での取引は、「電力」の現物取引が基本です。電力取引所の「商品メニュー」として「先渡取引」というのもありますが、これも、「商品」受け渡しが先になるものの、現物取引となります。もっとも、電力価格も時に高騰することがあるので、電力調達コストのリスクヘッジのための先物取引も存在します。ISO/RTOが運営する市場取引としては、送電権取引がありますし、ニューヨーク・マーカンタイル取引所では、「電力」も先物商品の1つとなっているようです。

次に、電力取引市場を、落札者の決定から受け渡しまでの時間で分けると、(定型)先渡市場、1日前市場(スポット市場とも呼ばれる)、(電力受渡しの4時間前や1時間前に落札者が決まる)時間前市場と、需給バランスをとりながら実時間で電力取引を行うリアルタイム市場に分けることができます。リアルタイム市場では、電力(エネルギー)そのものの取引の他に、系統の信頼性を保つためのアンシラリーサービスの取引が行われ、具体的には、予備力や周波数調整力の取引が行われます。

なお、米国においても電力自由化前は、垂直統合型の電力会社が自社保有の電源を用いて、管轄地域の電力消費者の需要に応じて発電量を制御していたので、そもそも「電力取引」は存在しませんでした。連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、1996年4月に制定したオーダー888により、垂直統合型の電力会社に対して送電部門の機能分離と、新規参入した独立系発電事業者(IPP)に送電サービスを差別なく提供することを義務付け、また、系統運用を行う独立系統運用者(ISO)を設立することを奨励したことで、PJMやMISOのような系統運用者が出現し、電力業界における競争原理の促進と、より経済的・効率的に需給バランスをとる方策として、卸電力取引市場が出現したのです。

ところで、電力自由化に関して米国より先輩である英国では、1990年に発送配電の分離が行われ、それまで国営独占企業だった電力会社が3つの発電事業者、12の配電事業者と、送電運営管理を行う系統運用者に分割されました。この電力自由化当初、発電事業者が発電したすべての電力を卸電力取引市場に集め、それを小売事業者が調達して需要家に提供する(全量プール制)という制度設計を行ったのですが、大手発電事業者の市場支配力が大きくて破綻をきたし、2001 年 3 月には相対取引と1日前市場等を組合せた新たな卸電力取引NETA (New Electricity Trading Arrangements)制度に移行しました。米国のISO/RTOも、この英国の失敗を見習ったのかどうかわかりませんが、相対市場と1日前市場等を組み合わせた形になっています。

電力取引に関して、以上の共通認識を持っていただいた上で、MISOの運営する卸電力取引市場についてご紹介しましょう。  

 

MISOの卸電力取引市場の概要

MISOは、2005年4月、1日前(Day Ahead)市場およびリアルタイム(Real Time)市場と、金融的送電権取引市場(Financial Transmission Rights:FTR)の運用を開始しました。

出典: 2014年9、NCTA Fall Seminar「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal

また、2009年1月からアンシラリーサービス市場の運用も開始しています。
MISOではアンシラリーサービス市場のことを運用予備力(Operating Reserve)市場と呼び、周波数調整力(Regulating Reserve)と瞬動予備力(Spinning Reserve)、待機予備力(Supplemental Reserve)が含まれます。

出典: 2014年9月、NCTA Fall Seminar「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal

そして、1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の調達が行われます。

なお、MISOは容量市場を開設していませんが、ボランタリーに容量確保のためのオークションも実施しているようです。 以上、今回は、MISO管轄エリアでの電力需給バランスをとる仕組みと、MISOで行われている電力取引市場の概要をご紹介しました。 次回は、MISOの運営する1日前市場、リアルタイム市場それぞれの市場構造について見ていきたいと思います。

終わり

MISOのDRプログラムとDIR-その3

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St Germans’ Cathedral, Peel Castle, Isle of Man

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前回はMISOが系統の需給バランスをとる仕組みと、MISOが運営する卸電力取引市場のサワリについてご紹介しました。今回は、MISOの1日前市場、リアルタイム市場それぞれの中身を詳しく見ていきたいと思います。
※送電権取引に関しては、勉強不足のため省略します。

MISOの市場構造とLMPの算出

前回、「MISOの卸電力取引市場の概要」の最後で指摘したように、MISOでは1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の同時調達が行われます。 また、売買は、電力を実際に受け渡しできる物理的な地点(CPNode)ごとにマッチングされ、それごとに地点限界価格(Local Marginal Price:LMP)が計算されるわけですが、この仕組みを理解するために、まず、CPNodeを含めて、MSIOの市場構造のモデルを見てみましょう。


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – MISO Overview」

上図中トップは市場参加者(Market Participant:MP)で、発電事業者、電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)やマーケッター(DRアグリゲータを含む)が含まれます。
市場参加者が、電力を売買する上で、系統との間で電力をやり取りする物理的な接点が最下段のENodeで、これを複数束ね、売買入札価格設定の単位となるものがEPNodeです。
同一地域内で、複数の市場参加者がEPNodeごとに指定した売買入札をマッチングした結果、その地点(CPNode)ごとに、市場価格(Market Clearing Price:MCPまたはMarket Energy Price:MEC)が決定します。 この市場価格に、送電混雑コスト(Marginal Cost of Congestion:MCC)と送電ロス(Marginal Loss Cost:MLC)を加えたものが地点限界価格(LMP)です。


出典: 2014年9月、NCTA Fall Seminar、「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal」

MISOの1日前市場の仕組みとタイムスケジュール

MISOの1日前市場は、翌日1時間ごとの電力と運用予備力の売買を同時に行う現物先渡取引市場になります。ただし、相対取引により市場外で決定済みの電力・予備力の授受情報込みでマッチングが行われますので、1日前市場での約定結果は、翌日の電力需給計画/予備力調達計画になっています。
需要(買い)入札に対して、電力・周波数調整力・瞬動予備力・待機予備力の4つの売り入札を同時にマッチングし、詳細は調べていませんが、SCUCおよびSCEDアルゴリズムを用いて、系統の安定性と、送電線利用可能状況を考慮した経済的な電力需給計画/予備力調達計画作成が出来上がる-とされています。
ここでSCUC、SCEDのアルゴリズムの目的は以下の通りです:

  • SCUC(Security Constrained Unit Commitment):必要な運用予備力を確保しつつ、必要十分の電源を低コストで調達する
  • SCED(Security Constrained Economic Dispatch):送電線混雑を管理し、必要な運用予備力を確保しつつ、LMPを計算する


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

上図中、1日前(OD-1)の11時までに提出された売買入札データは、時間ごと・売り/買いごと・地点ごとに、入札価格の安い順に入札量を積算して需給カーブを作成、必要な予備力量を勘案して、15時までに調達者/調達量を定め、MEPおよびLMPが計算されます。
16時、MISO管内のLBA(地域ごとの需給管理者)からの情報やMISO自身の当日需要予測情報を元にして、必要に応じて系統の信頼性が担保できるかアセスメントを実施し、翌日の需給計画を確定して、20時に公開されます。

MISOのリアルタイム市場の仕組みとタイムスケジュール

MISOのリアルタイム市場は、1日前市場で決定した需給計画と系統の現状の差分について、当日5分ごとの電力と運用予備力の調達を同時に行う現物スポット取引市場で、1日前市場同様、電力を実際に受け渡しできる物理的な地点(CPNode)ごとにマッチングが行われます。
ただし、1日前市場のように需要(買い)入札に対してマッチングするのではなく、当日の需要予測と供給側の1日前市場取引結果との差分に基づいて、電力・周波数調整力・瞬動予備力・待機予備力の4つ調達を経済的に調達するための市場で、こちらも詳細は調べていませんが、SCEDアルゴリズムとRAC処理の下、系統の安定性と送電線利用可能状況を考慮した調達を行う-とされています。
ここで、SCEDアルゴリズムとRAC処理の目的は、以下の通りです:

  • SCED(Security Constrained Economic Dispatch):送電線混雑を管理し、必要な運用予備力を確保しつつ、LMPを計算する
  • RAC(Reliability Assessment Commitment)処理: 定期予備力も入れて、当日の需給に支障を来たさないだけの供給力が確保されているかを確認する処理


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

当日5分ごとのリアルタイム市場への入札は30分前に締め切られ、5分ごとの実情に応じて、系統信頼度を確保しつつ、調達コストが最適となるよう電力と周波数調整力、予備力が同時調達されます。
SECDアルゴリズムにより次の5分間の電源運転出力を計算し、発電指令を出しますが、その発電指令は5分前に電源に送られます。周波数調整に関しては、4秒ごとに指令が出されます。この4秒ごとの指令の通信にはICCP(Inter-Control Center Communications Protocol)の通信方式が使用されています。 以上、今回は、MISOの1日前市場、リアルタイム市場それぞれの中身を少し詳しくご覧いただきました。 次回は、いよいよMISOでのDRプログラムについてお話します。

終わり

 

FERCオーダー745の顛末-その8

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Reflections on the Strule river

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このブログの「FERCオーダー745の顛末」シリーズ-その7では、いよいよ米国連邦裁判所で、ワシントンDCの高等裁判所によるFERCオーダー745無効判決に関する口頭弁論が開始されたことをご紹介しました。 実は、口頭弁論の議事録を読んでみたのですが、いわゆる口述筆記で、言い間違い、言い直しを含めて発言内容が一言一句そのまま記録されていて、かつ、聞き取れなかった?ところはブランクになっています。得意の「超訳」でご紹介しようかとも思ったのですが、裁判官がどのような意図で発言しているかも含めてバックグラウンドを確かめないと、文字通り翻訳結果が本筋から飛躍してしまいそうなので断念しました。 ただ、議事録を見た限り、裁判官達は、本来のDRの価値を明らかにするどころか、「DRとは何か」ということはさておいて、ひたすらFERCオーダー745が州規制機関の権利を侵す越権行為に当たるかどうかの見極めに終始しているようで、多少残念な気がしていました。

今回ご紹介しようとしているのは、それに対してDR資源提供者への支払額、すなわち、DRの価値に関する記事で、Public Utilities Fortnightlyの12月の記事「The Price is Right?」の内容です。

※ 本来、この記事は、Public Utilities Fortnightlyの会員でなければ全文参照できないのですが、PLMA(Peak Load Management Alliance)のメーリングリストで下記のようなWebinarの案内が届き、そのWebinarの講演者が今回の記事の著者で、Webinar参加者への予備知識提供の目的で、「The Price is Right?」の記事全文が参照できたので、そこからのご紹介となります。

では、はじめますが、いつもどおり、個人の思い入れが入った超訳になっていることはお含みおきください。

 

DR資源の価格は適正か?

Steve Isser & Bob King

FERCオーダー745(以降、O745)は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)の指令の中で最も物議をかもした指令の1つである。

2011年3月、FERCは卸売市場でのデマンドレスポンス(DR)資源に対する支払い(Local Marginal Price:LMP)を電源と対等とするルールを定めた。発電事業者協会(Electric Power Supply Association:EPSA)その他の団体は、DR資源として負荷を削減して提供した電力量に対して電源と同等の対価を受け取るのならば、DR資源を提供する前に使ったであろう電力量に関しても電気代を支払うべきではないかとして、当初FERCにO745のルールを変更するよう陳情したが認められず、最後の手段としてワシントンDCの高等裁判所に訴え出た。高等裁判所に上訴するにあたって作成された告訴状では、この「DRへの支払価格は正しいのかどうか」という論点ではなく、O745が定めたDR資源への支払価格の規制は、米国各州の規制機関の権限を侵すものである点が強調された。この作戦が功を奏して?高裁は、FERCの制定したO745に対して無効判決を下したのである。

DRの機能は卸売か小売か?

卸売電力取引市場の市場価格安定化に大きく貢献するDRは、あくまで卸売市場での取引と認識している。したがってO745が州規制機関の権限を侵しているとは考えていない。DRは卸売市場の価格高騰を防ぐのに非常に有益である。 ところで、大量に電力を使う大口需要家は、卸売市場参加者の資格で直接、卸売電力取引市場に自らDR資源を提供することができるが、負荷を削減してもまとまった量のDR資源が提供でいない需要家は直接卸売市場に参加できない。この問題を解決するために現れたのがDRプロバイダーで、消費者が提供できる小口のDR資源を集約して卸売電力取引市場に提供するようになった。その際DRプロバイダーが消費者に支払う対価は、卸売市場価格の影響を受けるだろうが、O745が直接消費者のDR資源買取価格を指定しているわけではない。

■ DR資源の価格は何が適正か?

ところが、最高裁でも、この点(DR資源買取価格)が問題となっている。

系統運用者にとっては、電源もDR資源も、需給バランスをとる上でまったく変わりはない。 ただ、DR資源が卸売市場に入ってきたせいで、「供給者」から調達する電力と、「需要家」に供給する電力の帳尻が合わなくなった。例えば、ある時間帯に1GWhの電力が必要とする。すべて供給側が電源の場合、供給量=需要量=1GWhだが、100MWhをDR資源から調達した場合、実際に系統に流れる電力は900MWhとなる。ただし、DR資源提供者にも発電事業者の電源と同じ対価を支払うとすると、1GWh分を卸売市場価格で支払わなければならない。それに対して系統を通じて需要家にわたる電力は全部で900MWhしかないので、買い手からの徴収額は100MWh分少なくなってしまう。そして、この収益の不足分は、DR資源提供のため負荷削減を実施した需要家を顧客として持つ電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)から徴収されることになる。すべてのLSEがDRプロバイダーを兼ねている場合、それはそれでよい。DRプロバイダーとして、提供したDR資源分の支払いを受け取ることができるからである。

問題は、LSEとは別にDRアグリゲーターが介在する場合だ。DRアグリゲーターは、卸売市場に提供したDR資源に対して対価を受け、その収益を、DR資源提供に協力したLSEの顧客に還元するが、顧客はLSEに対して使用した電力量に応じた電気代しか支払わない。

そこで、卸売市場でDR資源提供者に支払う価格は「LMP-G」、簡単に言うと卸売市場価格から発電単価を差し引いたものを使うという考え方が出てきた。この考え方の問題は、負荷削減した電力の価値と、DRイベントに協力して負荷削減を実施するための機会コストを同一視している点にある。DRイベント通知に応じて負荷削減を実施するためには、それなりに必要なコストや技術的制約が存在する。自動DRで負荷削減を遂行するための機器/システムへの投資コストがかかっており、DRイベントの通信を含めた運用コストもかかる。

また、「LMP-G」の支払額を計算するための投資・運用コストを考えると、単純にDR資源に対して電源と同等の価格(LMP)を支払う方が安上がりになる可能性もある。 更に、O745では、あらゆるケースでDR資源を利用することを推奨しているのではなく、「ネットベネフィットテスト」を実施し、DR資源の利用が電源のみの利用より経済的と判断される場合に限定して、DR資源に対しても電源相当の支払いを指示しているのである。

■ 容量市場、エネルギー市場への影響

経済的DR資源がピーク負荷の電力価格を下げる結果、電力市場から運用コストの高い電源が締め出され、適正な設備容量が確保できなくなってしまわないかが一部で懸念されている。確かに、DRによる負荷平準化は、エネルギー市場価格を低下させるかもしれないが、それが設備容量低下を引き起こし、長期的に見て容量市場価格を引き上げるかもしれないというのは杞憂に過ぎない。容量市場価格が上がれば、発電事業者が新たな電源開発に投資し、設備容量が増えるだろう。

■ 結論を出すのはまだ早い?

DRプロバイダー並びに個々のDR資源提供者に支払う価格決定には、DRを実施するためのコスト、DR資源提供者へのインセンティブ価格と市場が享受する便益とのバランスをとることが必要となる。残念ながら、現時点ではその適正価格を決定するだけの完璧な公式が確立されていない。 そこで、現段階でとりえる短期的な最良策は、もしかすると払いすぎかもしれないが、O745の指示通り、DR資源に対して電源相当の対価を支払う方法をしばらく続け、データをとって、経験値が出そろったところで、再度DR資源の対価をいくらにすべきが検討するのが良いと思われる。

今回は、O745の本来の争点であるDR資源の価値について、ご紹介しました。最初は、記事を忠実にご紹介しようと思ったのですが、「DR資源の価格は何が適正か?」の部分で、原文だけではわかりづらいと思って補足していくうちに、自分の意見が入り込んでしまって、今回も、正に超訳になってしまいました。合わせて原文を参照していただければ幸いです。 

終わり

MISOのDRRとDIR-その4

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Leixlip House Hotel

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前々回、MISOの1日前市場、リアルタイム市場の仕組みについてご紹介しました。今回は、いよいよMISOでのDRプログラムについてご紹介しようと思いますが、その前に1日前市場、リアルタイム市場の入札情報と、市場での最近の取引実績データを見ておきましょう。

 

 MISO1日前市場の入札情報


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

MISOの1日前市場では、翌日1時間ごと24時間分、地点別に売買入札のマッチングが行なわれ、地点別限界価格(LMP)が計算されますが、上図中、「Resource Offers」が売り入札、「Demand Bids」が買い入札で、「Physical Schedule」は、MISOの市場外ですでに相対取引で手当てした電源の翌日の運転スケジュールです。

【売り入札のパラメタ】

売り入札で指定される主なパラメタには以下があります(売り入札を行う市場参加者には、発電事業者の他にDRアグリゲータなどが考えられますが、とりあえず、ここでは、電源を想定して説明します):

  • Unit Capabilities: 前々回も強調しましたが、MISOでは1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の同時調達が行われます。そこで、入札する電源ユニットが周波数調整力(Regulation)や緊急予備力(Emergency)にどれだけ使えるのか、その電源の性能(最大/最小値やRamp Rate)を指定します。  

    出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

 

  • Start Up/No Load costs:待機予備力(Supplemental Reserve)用電源を起動するためのコストや瞬動予備力(Spinning Reserve)用電源をスタンバイさせておくためのコストを指定します。

 

  • Offer Curve:いわゆる指値入札ではなく、入札価格($/MWh)と入札量(MWh)をペアにして複数の入札データを指定します。「市場価格が高くなれば大量の電力を売るけれども、市場価格が安いとコスト割れするので売らない」という供給側の条件別入札を可能にするものです。

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets

  • Commitment and Dispatch Status:電源の状況(Outage:供給不可、Emergency:緊急時のみ供給する、Economic:MISOのdispatch指令に従う、Must Run:Self-schedule(下記参照)で運転する、Not Participating:運転可能だがMISO市場には参加しない)を指定します。
 
  • Self-scheduled MW:自社利用またはMISO管内での相対取引で必ず発電するMW数を指定します。

【買い入札のパラメタ】

ところで、MISOの1日前市場での買い手は誰でしょうか?電力(エネルギー)市場は、当然、電力小売事業者(LSE)や、垂直統合の電力会社、マーケッターが電力調達の場として利用するでしょうが、1日前の運用予備力市場はMISO自体が調達するためのものなのでしょうか?
実は、PJMと同じく、MISOでもLSEには、自らの顧客に確実に電力供給できるよう、予備力マージン確保義務(Planning Reserve Margin Requirements :PRMR)が課されていて、LSEが相対契約で手当てできない予備力を1日前市場で調達しています。
また、買い入札には2つのパターンがあります:

  • Fixed Demand Bid:電力供給を受けたいゾーン(CPNode)で特定の時間に買いたい電力MW数と価格($/MW)を指定します
 
  • Price Responsive Bid:売り入札同様、買い入札でも、指値入札ではなく、入札価格($/MWh)と調達量(MWh)をペアにして複数の入札データを指定することができます。

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

【Physical Schedule】

Self-ScheduleがMISO管内での相対取引分の入札であるのに対して、Physical Scheduleは、MISO管轄外の事業者との相対取引結果をMISOに通知するもので、以下のパラメタを指定します(説明は省略します):
• Open Access Same-Time Information System (OASIS) reservation
• Point-of-Receipt (POR)
• Point-of-Delivery (POD)
• Source Point
• Sink Point
• MW quantity (representing Energy only)
• Applicable time period.

出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Foundational Overview of MISO and MISO Markets」

 

MISOリアルタイム市場の入札情報


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

1日前市場で決定した供給量に変更がある場合、もしくは、リアルタイム市場価格高騰が予想されるので、供給量を増やしたい場合、供給者は30分前までにUpdated Supply Offerを行なうことができます。入札情報は1日前市場の場合と同じです。Physical Schedulesも、1日前市場入札情報から変化がある場合、30分前までにMISOに通知します。一方、MISOは四六時中系統監視を行い、系統内の送電線の混雑状況などを把握するとともに、短期の需要予測および系統状況のシミュレーションを実施し、そのアウトプット(上図中、Network Model、State Estimator Solution、Constraints、Short-term Load Forecast)と、先の供給側の状況変化と合わせ、予想される需給インバランスを解消するために、系統信頼度を確保しつつ、調達コストが最適となるよう電力、周波数調整力、予備力を同時調達し、その結果に基づいて発電指令(Dispatch Generation)が出されます。

 

MISO1日前市場(DA)、リアルタイム市場(RT)の取引実績

以下は、今年10月に公開されたMISOの「Informational Forum September 2015」の資料の情報です。

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の月別平均電力取引価格

• 2015年8月、MISO管内の拠点別ピーク/オフピークのDA&RT市場のLMP比較

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の月別平均アンシラリー市場取引価格比較

• 2014年8月~2015年8月のMISO DA&RT市場の取引電力量比較

以上、MISO DA&RT市場での最近の取引実績をグラフでご覧いただきました。解説は省略させていただきます。
では、いよいよMISOのデマンドレスポンスに関してのご紹介に移りましょう。

 

MISOにおけるデマンドレスポンスの取り扱い

MISOでは、DRプログラムという観点からではなく、資源の観点でデマンドレスポンスを3つのカテゴリに分けて考えています。

1) 容量資源(Capacity Resource:CR)
2) 負荷変動資源(Load Modifying Resource : LMR)
3) 緊急DR(Emergency Demand Response:EDR)

CRは、更に次の2つの資源として区別されます。
• Demand Response Resource-TypeⅠ(DRR-Type Ⅰ): 需要家/LSEが電力取引市場/予備力市場を通じて提供するリソースで、MISOからの指示で負荷の全部あるいは、あらかじめを約束したMW分を物理的に削減するもの
例:一般家庭の電気給湯器の直接負荷制御
• Demand Response Resource-TypeⅡ(DRR-Type Ⅱ):需要家/LSEが電力取引市場/アンシラリー市場を通じて提供するリソースで、発電機への発電指令と同じMISOからの指示で、負荷を変更できるもの
例:ALCOAのアルミ精錬炉のような大口需要家設備の遠隔制御による負荷量変更

LMRも、次の2つの資源が区別されます。
• Demand Resources(デマンド資源):MISOからの指示で負荷量を変更できる任意の負荷。(DRR-TypeⅠ/ⅡのDR資源で、容量資源として登録しないものを含む)
• Behind-the-Meter Generation(BTM電源):負荷を制御するのではなく、負荷量を測るメーターの後ろ側でオンサイト発電機の起動等により負荷量を変更できるもの

これら4つのDR資源タイプのどれにも属さず、系統ひっ迫時など緊急事態にリソースとして利用できるものがEDRです。
そして、需要家が提供するDR資源が上記のどのタイプに属するかで、MISOのどの市場に参加できるかが、以下の通り異なってきます。

  • MISOの市場に参加するにはDRR-TypeⅠ/Ⅱでなければならない
  • 基本的に、DRR-TypeⅠ/Ⅱは、1日前市場/リアルタイム市場どちらにも参加できるが、周波数調整(Regulation Reserve)市場に参加できるのはDRR-TypeⅡのみである
  • 市場に参加しなくても、MISOにLMRとして登録したDR資源は、系統に緊急事態が発生した場合、DR資源を提供しなければならない
  • EDRとしてMISOに登録したDR資源は、系統に緊急事態が発生した場合のみ、DR資源を提供できる

以上の条件を図と表にまとめると、以下の通りとなります。


出典:MISO「Demand response Primer and Training Guide」

長くなりましたので、今回はここまでとします。MISOのDRの続きは、年明けになりますが、次回に持ち越したいと思います。
なお、今回ご紹介した通り、MISOではDRをプログラムとして区別するのではなく資源として区別しているので、今回、タイトルを「MSIOのDRプログラムとDIR」から、「MISOのDRRとDIR」に変更しました。

終わり

MISOのDRRとDIR-その5

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Lutterworth
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前回、やっとMISOのDRのご紹介にたどり着きました。
その際指摘させていただいたように、MISOでは、いろいろな種類のDRプログラムを用意するのではなく、DRの資源をタイプで分類し:

  • どのタイプの資源がMISOの運営する電力市場(1日前市場およびリアルタイム市場)のどの取引(電力取引、予備力取引および周波数調整力取引)に参加できるか、
  • どのタイプの資源が、電力市場経由ではなく、系統運用上緊急事態発生時にMISOより調達されるか

を規定しています。

今回は、MISOの資料「Demand Response Primer and Training Guide」、トレーニングマニュアル「Level200 – Resource Adequacy」、およびマニュアル「BPM-026:Demand Response」をベースに、MISOのDRについて、もう少し詳しく解説していきたいと思います。

まず、復習です。
前回、MISOにおけるデマンドレスポンスの資源は下表のように分類されているということをお話ししました。

このうち、MISOの運営する電力市場(1日前市場およびリアルタイム市場)に入札可能なのはDR資源(Demand Response Resource : DRR)です。

DRRの内、純粋な負荷削減行為でDRの資源を提供するのがDRR-TypeⅠ。
周波数調整電源に対してMISOが発する発電指令にも対応できる
①制御可能な負荷、もしくは、
②資源提供者が保有する発電機等
により対応できるものがDRR-TypeⅡです。

では、DRR-TypeⅡの②と、LMRのBTM電源(Behind-the-Meter Generation)とは何が違うのかというと、DRの資源提供者が、その資源を容量資源としてMISOに登録しているかどうかと、MISOの発電指令(Dispatch Instructions)の対象となっているかどうかです。
これはLMRのデマンド資源(Demand Resources)も同様で、要するに、容量資源(電力供給側の資源)としてMISOに登録するのか、負荷変動資源(需要側に資源)としてMISOに登録するのかどうかの違いのようです。

逆に、容量資源として登録したDRの資源については、容量資源として登録した電源同様、毎日・毎時間どれほどDRの資源を提供するかMISOの電力市場へ入札しなければなりません(’must offer’ requirement)が、LMRとして登録したDRの資源は、緊急時のみMISOが利用します。

次に、負荷変動資源(LMR)と緊急DR(EDR)の違いは何かというと、系統に緊急事態が発生した場合、LMRとして登録されたDRの資源は必ずMISOに提供する義務があるのに対して、EDRとして登録されたDRの資源は提供するかしないか日によって変更可能なようです。

したがって、上図のとおり、機能的にはDRR-TypeⅠあるいはDRR-TypeⅡに相当するDRの資源もMISOへの登録の仕方で「Capacity Resources(容量資源)」にも、「LMRs」にも、更には、楕円の外側のEDRにもなりえます。

大雑把に言うと、MISOの需給バランシングにおいて、DRRはネガワットを提供する電源として供給側の資源扱いであるのに対して、LMR/EDRは緊急時に調達する需要側の資源扱いということになるようです。

また、別の言い方をすると、DRRは、電源と経済差替え可能な日常的な資源であるのに対して、LMR/EDRは、緊急事態に対応するための非日常的な資源ということもできます。

DRの資源提供者が、自ら保有する資源をどのDRタイプとして登録するのかは、その資源が定常的に提供できるものか、普段は無理だけれども緊急時なら提供してもよいものか(あるいは、資源提供しないと、系統全体が停電してしまって、結果的に短期的に資源提供する以上の損失を被ってしまう)によります。
また、電源の場合も同様ですが、市場参入/系統連系するにあたっては、どれだけの量の資源を、どれだけの時間、どれほどの応答特性で提供できるのか検査を受け、認可を受ける必要があります。

まず、DR資源(DRR-TypeⅠ、DRR-TypeⅡ)について、どのような資源がDRR-TypeⅠ、DRR-TypeⅡとして認定されるのか、詳しく見ていきたいと思います。

DR資源(DRR)の定義

MISO管内の大口需要家、電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)または小売り消費者のアグリゲータ(Aggregators of Retail Customers:ARC)が提供する以下の条件を満たす資源:

  • DRR-TypeⅠ

i) 電力市場および運用予備力市場への参加登録が行われ、
ii) 資源提供者の選択の下、物理的に負荷に割り込みをかけて電力市場や運用予備力市場へDRの資源提供を行なうことができ、
iii) ネガワット電源として、通常のエネルギー提供だけでなく、予備力提供の要件を満たせば、予備力提供が可能で、
iv) どれほど資源提供できたかの情報(after-the-fact Metering and Verification Information)の提供が可能な資源

  • DRR-TypeⅡ

i) 電力市場および運用予備力市場への参加登録が行われ、
ii) 資源提供者の選択の下、オンサイトの発電機や制御可能な負荷を用いて電力市場や運用予備力市場へDRの資源提供を行なうことができ、
iii) ネガワット電源として、通常の発電だけでなく、緊急時の送電事業者の指示に従うことが可能で、
iv) どれほど資源提供できたかの情報(after-the-fact Metering and Verification Information)の提供が可能な資源

DRR-TypeⅠでは、指示があった場合に、負荷を0にする、あるいは、事前に合意された負荷削減量を達成することしか求められませんが、DRR-TypeⅡでは、発電機への発電指令と同じようなMISOからの指示への応答が求められます。

次に、DRRとして登録する場合の要件を整理しておきましょう。

DR資源(DRR)として登録する場合の要件

 

DR資源(DRR)を提供するためには、(細かな説明を省略しますが)上図のとおり、

1) 最初にMISO管内に提供できる資源としての資格(Qualification)があるかどうかの確認が行われた後、

2) 毎年、提供できる容量に関する検査(Generations Verification Test Capacity:GVTC)を受けてネガワットとしての設備容量(Installed Capacity)を確定し、

3) 資源のタイプや計画外停止率(Equivalent Demand Forced Outage Rate:XEFORd)を勘案した実効容量(Unforced CAPacity:UCAP)が算出されます。

4) DRRは、毎日、1日前市場に入札するか、または、DRRを提供するゾーンの容量クレジット(Zonal Resource Credit:ZRC)

とすることが求められます(Must-Offer requirement)。

※ DRR-TypeⅡ②の資源の場合は、北米信頼度協会(NERC)が運営する電源稼働状況を保持するデータベースGADS(Generator Availability Data System)に使用する電源の発電実績を登録するため、報告する必要があります。

次に、DR資源が市場に参加する場合の要件を整理します。

DR資源(DRR)が市場に参加する場合の要件

  • 運用予備力市場-周波数調整力(Regulating Reserve)に参加する場合

-「Regulation Qualified Resource」として登録されていること
- 調整電源と同等の要件を満たすこと
※「Regulation Qualified Resource」として登録されているDR資源は、瞬動予備力(Spinning Reserve)および待機予備力(Supplemental Reserve)も提供できる

  • 運用予備力市場-瞬動予備力(Spinning Reserve)に参加する場合

-「Spin Qualified Resource」として登録されていること
-10分以内に既定された負荷削減ができること
-1時間またはApplicable Reliability Standardsで規定された時間100%資源提供ができること
-10秒ごとに遠隔検針ができること(DRR-TypeⅠは1分毎)
※ 「Spin Qualified Resource」として登録されているDR資源は、待機予備力(Supplemental Reserve)も提供できる

  • 運用予備力市場-待機予備力(Supplemental Reserve)に参加する場合

-「Supplemental Qualified Resource」として登録されていること
- 10分以内に既定された負荷削減ができること
-1時間またはApplicable Reliability Standardsで規定された時間100%資源提供ができること
-「Quick-Start resource」の場合、資源提供時間は3時間以内

 

少し短いですが、本日はここまでとします。

終わり


FERCオーダー745の顛末-その9

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Winter reflections in The River Delph – The Ouse Washes near Welney

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とうとう、米国最高裁の判決が下ったようです。

本日は、UtilityDIVEの最新記事「Supreme Court upholds FERC Order 745, affirming federal role in demand response」をかいつまんでご紹介します。

米国最高裁、FERCオーダー745を支持。DRに関する連邦政府としての役割を確認

2016年1月25日 Gavin Bade

米国最高裁判所は、月曜日(1月25日)、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が制定したFERCオーダー745は、連邦電力法(Federal Power Act)の下でFERCに付与された権限の範囲内であるとの結論を出した。
すなわち、FERCに、電力卸売市場でのDRプログラムの規制権限があるとの結論を下したのである。

2014年5月、ワシントンDCの高等裁判所は、電力小売市場に対して規制を行なう州規制機関の権限を侵すとして、FERCオーダー745に対して無効判決を下したが、最高裁の裁判官達は、FERCオーダー745が間接的に小売市場に影響を与えるものであったとしても、それ自体は卸売市場におけるDRプログラムを規制するもので、FERCに与えられた権限を逸脱するものではないとして、6対2の評決で、高裁の判決を覆した。

高裁判決後、GTM Researchは、高裁によるFERCオーダー745無効判決は、最高裁の判断にも影響し、DRの成長率が半減する可能性があると示唆していたが、予想に反して、FERC及びDRプロバイダーの勝利に終わった。

本日は、以上です。

大方の予想通りとはいえ、DRアグリゲーターのみならず、PJMのようなDR資源調達側も、これで枕を高くして寝られることでしょう。

ただ、FERCオーダー745がFERCに付与された権限範囲内かどうかという議論に結論は出たものの、本来議論されるべきだった(?)、DRの価値、すなわち、「DR資源への対価と発電資源への対価は対等であるべきか」に関しては、別の場でもう一度議論されてしかるべきかもしれません。
これは、大口DR資源提供者であるアルミ精錬会社Alcoaの方に聞いたご意見ですが、「エネルギー市場、リアルタイム市場に提供するDR資源は、電源と等価に扱われるべきだが、容量市場に提供する我々のDR資源に関しては、結果的に使われるか使われないかにかかわらず、いつでも資源提供できるように準備が必要な電源と同じ対価を得るのは少々気が引けている」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

なお、「FERCオーダー745の顛末」シリーズは、今回をもって終わります。

終わり

MISOのDRRとDIR-その6

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Winter isolation

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「MISOのDRRとDIR-その5」に引き続き、今回も、MISOの資料「Demand Response Primer and Training Guide」、トレーニングマニュアル「Level200 – Resource Adequacy」、およびマニュアル「BPM-026:Demand Response」をベースに、MISOのDRについて、もう少し詳しく解説していきたいと思います。

前回は容量資源(DRR-TypeⅠ、DRR-TypeⅡ)について、詳しく見てみましたので、今回は負荷変動資源(LMR)と、緊急DR(EDR)を詳しく見てみましょう。

まず、大雑把に分類すると、容量資源は、MISOが日常的に電源と同じように市場調達する、文字通りの「Demand Response Resource = DR資源」で、需給バランシング処理上は供給側の資源扱いなのに対して、LMRとEDRは、緊急時にMISOが調達する非日常的な需要側の資源ととらえることができます。

では、まず、負荷変動資源について見てみましょう:

 

負荷変動資源(Load Modifying Resources:LMR)


LMRには、デマンド資源(LMR-DR)とBTM電源(LMR-BTM)があります。

1. デマンド資源


デマンド資源は、遮断可能負荷(Interruptible Load)や直接負荷制御(Direct Control Load)に相当するMISOからの指示(DRシグナル)に応答できるMISO管内の大口需要家、電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)または小売り消費者のアグリゲータ(Aggregators of Retail Customers:ARC)が提供する以下の条件を満たす資源です。

i) 夏季に年間5回以上、
ii) MISOあるいはLBAから通知を受けて12時間以内に、
iii) 物理的に負荷に割り込みをかけ、連続して4時間以上100kW以上のDR資源提供を行なうことができ、
iv) どれほど資源提供できたかの情報(after-the-fact Metering and Verification Information)の提供が可能な資源

2. BTM電源


i) 夏季に年間5回以上、
ii) MISOあるいはLBAから通知を受けて12時間以内に、
iii) オンサイト発電機などで連続して4時間以上100kW以上のDR資源提供を行なうことができ、
iv) どれほど資源提供できたかの情報(after-the-fact Metering and Verification Information)の提供が可能な資源

※ 10MW以上の設備容量を持つ発電機の場合は、DRR-TypeⅡの発電機同様、毎年、提供できる容量に関する検査(Generations Verification Test Capacity:GVTC)を受け、北米信頼度協会(NERC)が運営する電源稼働状況を保持するデータベースGADS(Generator Availability Data System)に使用する電源の発電実績を登録するため、報告する必要があります。

※ また、DRR-TypeⅡの発電機は、MISOからの発電指令に応答する必要がありますが、BTM電源は、LMRとしてのMISOからの指示に応答すればよいことになっています。

前回のDRR-TypeⅠ/TypeⅡの図と、今回ご紹介しているデマンド資源/BTM電源の図を比較すると、デマンド資源、BTM電源とも、右端のグレーの矢印内のタイトルが「Must Offer」から「Obligation」に変わっていることがわかると思います。 すなわち、LMRの資源は、毎日・毎時間どれほどDRの資源を提供するかMISOの電力市場へ入札する必要(Must Offer requirement)がない代わりに、MISOが緊急事態宣言を出した時は必ず資源提供を行う義務(Emergency obligation)があり、もし提供しなかった場合はペナルティが課せられます。

 緊急DR資源(Emergency Demand Resources)

最後に、緊急DR(Emergency Demand Response)について解説します。

DR資源(DRR-Type Ⅰ/TypeⅡ)およびLMRの要件を満たさないDRの資源でも、MISO管内で緊急事態が発生した場合に利用できるように、緊急DRのタイプが用意されています。

※資源としては、DR資源あるいはLMRの要件を満たすけれども、Must Offer requirementやEmergency obligationに縛られたくない資源保有者が、その資源を緊急DR(EDR)資源としMISOに登録することができます。

MISOにEDRとして登録する際、提供可能な資源量、価格($/MWh)をデフォルト値として登録しますが、毎日、翌日提供できる1時間ごとの容量と提供価格を変更することができます。したがって、LMRと違い、提供容量を前日0としておけば、MISOの緊急事態宣言に対してEDRを提供する必要はありません。ただし、0ではない提供容量値を指定していた場合、MISOからの指令に応じて登録しておいた容量のEDRを提供できなかった場合はペナルティの対象となるようです。

以上、本日はMISOで取り扱うDRの資源の内、非日常的に使われる資源に関してご紹介しました。

これ以上詳しく解説しようとすると、その前にMISOの仕組みをより詳しく説明しなければならず、なかなか、次のDIRにたどり着かないので、とりあえず、MISOのDRのご紹介はこれくらいにして、次回は、いよいよDIR(Dispatchable Intermittent Resource)とは?というところに入っていきたいと思います。

終わり

MISOのDRRとDIR-その7

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Eagle Hall view

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ずいぶん時間がたってしまいましたが、前回で一応MISOのDRのご紹介を終わったので、今回からMISOのDIR(Dispatchable Intermittent Resources)の紹介に入ります。

 

そもそも、今回のブログシリーズを始めたきっかけは「Dispatchable」と「Intermittent Resource」という、従来、相容れないと思っていた言葉が結びついたDIRという用語を偶然発見したからです。

Wikipediaの「Intermittent energy resource」の記述を見ると:

An intermittent energy source is any source of energy that is not continuously available due to some factor outside direct control. The intermittent source may be quite predictable, for example, tidal power, but cannot be dispatched to meet the demand of a power system. Effective use of intermittent sources in an electric power grid usually relies on using the intermittent sources to displace fuel that would otherwise be consumed by non-renewable power stations, or by storing energy in the form of renewable pumped storage, compressed air or ice, or in batteries, for use when needed, or as electrode heating for district heating schemes.

冒頭の部分を訳してみると、こんな感じでしょうか?

「Intermittent energy resource」とは、外部からの制御が効かず、連続的に利用できないエネルギー源のことである。その中には、潮力のようにある程度エネルギー出力の増減を予想できるものもあるが、その出力を思い通りに制御することはできない(⇒ cannot be dispatched)。

つまり、「Intermittent energy resource」は「dispatchできない=制御不能」であるはずなのに、「DIR(Dispatch+able Intermittent Resources)」とは、是如何?と興味を抱いた訳です。

そして、このWikipediaの「Intermittent energy resource」の記述を更に読み進むと、こんな記述がありました。

Wind energy

Wind-generated power is a variable resource, and the amount of electricity produced at any given point in time by a given plant will depend on wind speeds, air density, and turbine characteristics (among other factors). If wind speed is too low (less than about 2.5 m/s) then the wind turbines will not be able to make electricity, and if it is too high (more than about 25 m/s) the turbines will have to be shut down to avoid damage. While the output from a single turbine can vary greatly and rapidly as local wind speeds vary, as more turbines are connected over larger and larger areas the average power output becomes less variable. <中略>

Dispatchability: Wind power is “highly non-dispatchable”. MISO, which operates a large section of the U.S. grid, has over 13,000 MW of wind power under its control and is able to manage this large amount of wind power by operating it as dispatchable intermittent resources

この部分もざっと訳してみるとこんな感じでしょうか?

風力による発電量は、風速、空気の密度、風力タービン性能その他に依存し、風が弱い(およそ2.5m/s未満)と電気を作ることができず、風が強すぎても(およそ25m/s以上)、タービンの損傷を避けるために運転を停止する必要があり、風力発電の出力は一定しない。

そのため、風力発電は、再生可能エネルギーを利用した発電の中でも制御不能な資源の代表格と考えられているが、MISOでは、13000MW以上の風力発電が系統に接続されていて、しかも、制御可能(dispatchable)な「Intermittent resources」として使いこなしている。

出ました! DIR「dispatchable intermittent resources」。

ということで、今回は、「Smart Grid(R)Evolution (著者: Jennie C. Stephens、Elizabeth J. Wilson、Tarla Rai Peterson 、 Cambridge University Press発刊)」の6.5.2「Smart Grids Across the Midwest for Wind Integration」でDIR誕生の経緯を見てみましょう。 

ほぼ全訳しましたが、いつも通り翻訳内容を100%保証するものではありませんので、あらかじめご了承下さい。

MISOにおけるウィンド・インテグレーション

MISO管内では、冬季の夜間風力発電量が最大となるが、それは需要が最低の時間帯と重なっている。
MISOでは、風力発電の系統接続が増加するにつれて、この需給ギャップの問題がクローズアップされてきた。 発電用タービンを回すための「燃料」である風は無料であり、風力発電事業者は、連邦政府から再生可能電力生産税控除(Renewable Electricity Production Tax Credit、PTC)が受けられるので、風が吹いて風車が回っている限り系統に発電した電気を送り込もうとする発電事業者が多い。
その結果、供給電力量が需要より多くなりすぎ、リアルタイム市場価格がマイナスとなる地域も出てきた。また、風力出力抑制の必要性も出てきた。 2010年には、風力発電出力変動の系統への影響と、風力発電の系統接続が引き起こす送電線混雑が顕著となり、全風力発電量の4.2%に出力抑制がかけられた。出力抑制は、単に風力発電事業者の収益減となるだけでなく、系統運用者にとっても収益減となる。

一方、風力発電を電力取引市場連動させるのにも問題があった。電力取引市場では、時間帯ごとに入札価格の安い電源から順に入札電源の提供可能電力を必要な需要量に達するまで電力調達を行うが、そのようにして採用が確定した電源が当該時間に入札時に示しただけの電力量を提供しないとぺナルティが課される。風力発電予測技術はまだまだ精度が悪いため、1日前市場に、予測した風力発電量で入札すると、実際の風力発電量と予測発電量の差が大きくぺナルティが課されることになる。
MISOは、3つの独立した気象モデルの出力に重み付けをした最新の予測システムを開発し、風力発電の短期予測結果は飛躍的に改善されたが、それでも1日前市場での入札に耐えうるまでの精度には達していない。

MISOは、このような風力発電にまつわる現状を踏まえた上で、風力発電を電力取引市場に参加させるための仕組みとしてDIRプログラムを開発した。

DIRプログラムは、洗練された気象モデルと風車制御技術とを組み合わせ、風力発電量を電力取引市場に連動して、他の電源同様自動的に電力供給調整するものである。
DIRが導入されるまで、風力発電は市場への参加が許されなかったが、今日、MISO管内の風力発電施設の約80%がDIRプログラムに参加しており、市場への参加を果たしている。 その結果、風力出力抑制を実施する回数は2011年の半分となり、1日前市場入札が可能となった。ただし、出力に関しては、実際の発電指令の10分前に短期風力発電予測結果に基づいて定められる。 現在のところ、アンシラリー市場への参加はまだ認められていないが、現在継続して実施されている制御システム研究成果が実れば、その日も遠くないだろう。

いかがでしょうか?

DIRプログラムは、洗練された気象モデルと風車制御技術とを組み合わせ、風力発電量を電力取引市場に連動して、他の電源同様自動的に電力供給調整するものである。

というDIRの定義らしいものが示されましたが、では、いったいどのように実現されているのか?まだ皆目見当がつかないですね。

次回は、2011年4月、DIR運用を開始するにあたってMISOが関係者向けに開催した「Dispatchable Intermittent Resource (DIR) Workshop」の内容をご紹介します。

 

以上

MISOのDRRとDIR-その8

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Richmond Road

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前回、やっとMISOのDIR(Dispatchable Intermittent Resources)の紹介に入ることができました。

今回は、2011年4月、DIR運用を開始するにあたってMISOが関係者向けに開催した「Dispatchable Intermittent Resource (DIR) Workshop」から、DIRとしての風力発電設備の登録と、市場参加のルールについて見てみたいと思います。 

 MISOのDIR登録に関するルール 

  • 2013年3月1日以降、基本的にすべての風力発電設備は、DIRタイプの発電資源として登録しなければならない。

※ 風力以外の再生可能エネルギー設備は対象外

※ 2005年4月1日より以前に運用開始している風力発電設備は対象外

※ 2005年4月1日以降に運用開始した風力発電設備でも

1) その設備容量100%に関してNetwork Resource Interconnection Service (NRIS)対象のもの
2) その設備容量100%に関してNetwork Integration Transmission Service (NITS)対象のもの
3) その設備容量100%に関してLong-Term Firm Point-to-Point Transmission Service対象のもの
4) 重複なしに1)~3)の合計がその設備容量100%となるもの 

  • DIRタイプとして発電資源を登録した風力発電設備は、上記の例外規定を満たさなくなった場合もインターミッテント(間欠的電源)タイプに戻すことはできない
  • 発電設備登録(Generator Registration)において、Intermittent Flagに「DIR」を指定する

※ 従来の発電設備は「No」、太陽光発電や、上記の例外規定に相当する風力発電設備では「Intermittent」を指定する 

  • また、当該DIRの入札を行うMarket Participant、当該DIRが所属するCPNodeでの発電出力を計測するMeter Data Management Agent (MDMA)、風力出力予測テンプレート等を登録する
  • (リアルタイム市場に連動した5分毎の給電指令に従うため)MISOのWANに接続する要件として、ICCP(Inter-Control Center Communications Protocol:米国で給電指令に使われている標準的な通信プロトコル)インフラを構築する

※ この通信設備の設置及び毎月の維持管理費用はMISOが負担するが、DIRの資源提供者は、フェイルセーフのために用意された複数のMSIOルータとファイアウォール越しに通信できるよう環境設定しなければならない 

  • ICCPが機能しない場合のバックアップとして、XMLでの給電指令に対処できなければならない

 

 DIRがMISOの市場に参加するにあたってのルール 

  • DIRは、通常の電源同様、MISOの1日前市場およびリアルタイム市場の入札に参加できる

※ ただし、電力(Energy Offer:$/MW)の提供のみで運用予備力(Regulating Reserve、Spinning Reserve、Supplemental Reserve)としての入札は不可 

  • 1日前市場およびリアルタイム市場に入札したDIRの電源としての状況(Commit Status)としても、通常の電源同様の指定を行なう

※ Outage:供給不可、Emergency:緊急時のみ供給する、Economic:MISOのdispatch指令に従う、Must Run:Self-schedule(下記参照)で運転する、Not Participating:運転可能だがMISO市場には参加しない のいずれかを指定する 

  • ただし、DIRの最大出力(Maximum Limit)に関して、風力発電設備の設備容量に基づく値ではなく、風力発電予測値を指定する。すなわち、一日前市場では翌日1時間毎の風力発電予測値が最大出力として取り扱われる  リアルタイム市場では、5分毎の短期発電予測値が5分毎の最大出力として取り扱われる 
  • 電源の状況がEconomicタイプのものに関して、MISOは従来の電源かDIRかの区別なく、入札価格の安い順に、必要量に達するまで調達していくが、その際DIRに関しては、風力発電量予測値を最大値として調達される 
  • リアルアイム市場でのDIR資源毎の風力発電予測量に関して

1) DIR資源提供者が、DIRの設備付近の天候情報等を基に、独自の5分毎の風力発電予測を逐次行っていて、かつ、30分前に当該5分間の予測量をMISOに通知している場合は、その予測量を採用する

2) そうでなければ、MISOが実施しているMISO管内全域での平均の風力発電予測値が用いられる

3) その他、何等かの理由でMISOの当該5分間の風力発電予測計算が30分前に出なかった場合や、MISO管内の平均風力発電予測量が、(ならし効果により?)地域の送電事業者が実施している系統予測(State Estimator: 詳細は未調査)より極端に小さい場合は、系統予測値を参考にしてDIR資源に対する給電指令内容が決定される  

  • 1日前市場では、1時間ごとの風力発電予測値もMWと入札価格($/MW)で1時間毎の清算が、リアルタイム市場では、5分毎の風力発電予測値の基づいた給電指令のMW値と、DIR資源が所属するCPNodeのLMP価格から清算が行われる

※ リアルタイム市場において、DIRの実資源提供量が連続して4回(20分間)8%以上の乖離があると、ペナルティの対象となる

以上、ワークショップ資料の内、「DIR Registration」、「ICCP Infrastructure」、「DIR Market Participation」からかいつまんでご紹介しました。 同資料では、「DIR Settlements」として、他のMISO管内での制度との関連が、いろいろ事細かに説明されているのですが、その部分はまた今度ご紹介します。 今回はここまででおわります。

終わり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その1

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sikak

By Thorncombe Street

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話はがらりと変わりますが、日本ではVPPがリバイバルの様相を見せているようですね。

仮想発電所(Virtual Power Plant:VPP)という言葉を初めて耳にしたのは10年以上前だった気がします。 当時は、工場などにあるディーゼルエンジンの自家発電機(自家発)を遠隔制御し、そうしてできた各工場の余剰電力を束ねてあたかも1つの発電所のように使うというものだったと記憶しています。

VPPというのは、そのような複数の地点で配電網に接続されている、系統から見るといわゆる分散型の中・小型電源を束ねて、あたかも1つの発電所のように取り扱う概念ということができます。 当時は、ほぼ、分散型の電源=自家発と捉えられていたと思うのですが、時が経って、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー発電施設やビル・住宅に設置された蓄電池や燃料電池、更には、弊ブログで取り上げてきた、工場やビル・住宅が提供するDR資源も分散型の電源として、VPPの取り扱い対象に加わってきたようです。DRアグリゲータというのも、DR資源に特化した分散型の電源を束ねて取り扱うVPPと考えることができる-という訳です。

そのような、最近の状況を反映したVPPの定義はどうなっているのか、本日は、VPPの定義について、考えてみたいと思います。
まず、インターネット検索で見つけた、米国エネルギー省が4年ごとに発行する2015年版の技術レビュー、もう1つは2010年の少し古いレポートですが欧州委員会のスマートグリッドタスクフォースの最終報告書、もう1つは、Pike Research(現、Navigant)Peter Asmus氏のVPPの定義とVPP市場の予測、最後に、GTMリサーチの、システム面から見たVPPの定義です。

では、はじめます。  

米国におけるVPPの定義

US DOE Quadrennial Technology Review 2015
Chapter 3: Enabling Modernization of the Electric Power System3D Flexible and Distributed Energy Resources

A virtual power plant is an operating concept where a group of DERs that are geographically disperse (e.g., associated with different utility meters, residing on different feeders, or not having clearly defined electrical boundaries) is aggregated and coordinated to act as a single entity. This technology concept can include any combination of individual grid-enabled customer resources (e.g., distributed generation, electric vehicles, and energy storage) or integrated resources (e.g., smart buildings and microgrids). Additionally, the control of the aggregated resources is accomplished through a mix of strategies and signals that can involve markets. The concept of virtual power plants is shown in Figure 3.D.7.

 

Major challenges to implementing this technology effectively include the need for good understanding of the physical topology and connectivity of the various systems where the resources are located and broad visibility to observe the state of various components and assets. <途中省略>Aggregated demand response is a subset of this concept. <途中省略> The aggregated resource can bid into wholesale electricity markets and provide other grid services if allowed.

ザッと訳します。

VPPとは、地理的に分散し、個別の電力計で発電量が計測され、場合によっては異なる給電線に接続されている「分散型の電源」の出力を束ねて一つの発電所のように運用する技術概念である。ここで、「分散型の電源」には、系統側から制御可能な需要家資源として、一般家庭に設置された太陽光パネルなどの再生可能エネルギー設備、負荷調整で生み出すDR資源、電気自動車や蓄電池の充放電、更に、スマートビルやマイクログリッドから提供される統合された資源を含む。そして、VPPの出力は、通常の発電機同様、外部からの給電指令に従う以外に、電力市場取引結果に合わせる場合、価格反応型DRのように、需要家側の意志・嗜好に依存するものもある。DR資源を束ねるDRアグリゲーションは、VPPの1形態と捉えることができる。

仮想発電所の概念を示す図3.D.7に関しての説明ありませんでしたが、VPP Southは、CPP(緑の円)およびRTP(青の円)の2種類の価格反応型DRプログラムでDR資源を束ねるDRアグリゲータのようです。それに対してVPP Eastは、想像するに、再生可能エネルギー設備と電気自動車(赤の円)と蓄電池(橙色の円)を「分散型の電源」とし、再生可能エネルギーの出力変動を蓄電池で吸収して仮想発電所として電力提供するのでしょう。VPP Central、VPP NorthとVPP Westは、取り扱う「分散型の電源」としてVPP SouthとVPP Eastを合わせたものをとり使っており、より高度なDERMSを用いて、トータル出力を制御しているのでしょうね。  

欧州におけるVPPの定義

EU Commission Task Force for Smart Grids
Expert Group 1: Functionalities of smart grids and smart meters
Final Deliverable (December 2010)

Virtual Power Plant – VPP

A Virtual Power Plant (VPP) aggregates the capacity of many diverse Distributed Energy Resources (DER), it creates a single operating profile from a composite of the parameters characterizing each DER and can incorporate the impact of the network on aggregate DER output. There are two types of VPP, the Commercial VPP (CVPP) and the Technical VPP (TVPP). 

Commercial VPP

A CVPP has an aggregated profile and output which represents the cost and operating characteristics for the DER portfolio. The impact of the distribution network is not considered in the aggregated CVPP profile.
Services/functions from a CVPP include trading in the wholesale energy market, balancing of trading portfolios and provision of services (through submission of bids and offers) to the system operator. The operator of a CVPP can be any third party aggregator or a Balancing Responsible Party (BRP) with market access; e.g. an energy supplier.

Technical VPP

The TVPP consists of DER´s placed in the same distribution network region. The TVPP includes the real-time influence of the local network on DER aggregated profile as well as representing the cost and operating characteristics of the portfolio. Services and functions from a TVPP include local system management for Distribution System Operator (DSO), as well as providing Transmission System Operator (TSO) system balancing and ancillary services. The operator of a TVPP requires detailed information on the local network.

こちらのVPPの定義部分もザッと訳すと、こんな感じでしょうか? 

仮想発電所(Virtual Power Plant:VPP)

VPPは、多くの様々な分散エネルギー資源(Distributed Energy Resources:DER)を束ねて運用することで、個々のDERの長所を活かし短所を補って、全体として大規模発電所に匹敵するような出力を得たり、系統にもたらされる悪影響を緩和したりする仕組みである。 VPPには、コマーシャルVPP(CVPP)とテクニカルVPP(TVPP)の2つの種類がある。 

コマーシャルVPP(Commercial VPP:CVPP)

CVPPは、「分散型の電源」を束ねて電力卸売市場で売買取引を行ない、入札価格で決定した市場取引結果に応じて系統に電力供給を行なうもので、CVPPが束ねて提供する「分散型の電源」の配電網に対する影響は考慮されない。自らは発電所を保有しないアグリゲータ、電力トレーダー、電力ブローカー、需給バランス責任者(Balancing Responsible Party:BRP)が、CVPPとして電力取引市場を介して電力供給を行なう。 

テクニカルVPP(Technical VPP:TVPP)

TVPPでは、提供する「電源」の系統へのリアルタイムの影響が考慮され、同じ配電網に電力供給可能な「分散電源」から構成される。 TVPPは、所属する配電網の系統運用に寄与するだけでなく、上位の送電事業者の需給バランスにも貢献し、アンシラリーサービスを提供することがきる。

Pike Research Peter Asmus氏のVPPの定義とVPP市場の予測

Microgrids, Virtual Power Plants and Our Distributed Energy Future

III. Definition: Virtual Power Plant

Virtual power plants – a term frequently used interchangeably with ‘‘microgrids’’ – rely upon software systems to remotely and automatically dispatch and optimize generation or demand side or storage resources in a single, secure Web-connected system. In short, VPPs represent an ‘‘Internet of energy,’’ tapping existing grid networks to tailor electricity supply and demand services for a customer, maximizing value for both end user and distribution utility through software innovations (Figure 2).


Figure 2: Diagram Displaying VPP Versatility

VPPは、1つのセキュアなWEB接続されたシステムで、分散電源や負荷や蓄電池を遠隔自動制御し運転の最適化を行なうものである。一言でいうと、VPPとはIoTのエネルギー版、すなわち、Internet of Energy(IoE)であり、Figure2に示したように、ソフトウェアイノベーションによって需要家側からの電力供給と需要家の負荷を制御することでエンドユーザと配電事業者双方にとっての価値を最大化しようとするものである。

VII. VPPs: Market Forecasts

Unlike microgrids, utilities will have to play a major role in the evolution of the VPP market. With its emphasis on smartmeters, realtime pricing, and demand response, the Smart Grid is actually a necessary prerequisite for VPPs. What distinguishes a VPP from the Smart Grid is that most VPPs (at least in the U.S.) attempt to create a mini-ISO on the customer side of the meter to optimize energy resource aggregation. VPPs are likely a natural evolution of the Smart Grid and are highly synergistic with the more sophisticated billing systems that are emerging as hallmarks of ‘‘backroom operations’’ supporting the rollout of the Smart Grid. Developing market forecasts for a nebulous technology category of ‘‘virtual power plants’’ is a daunting task. Competing definitions, temporary aggregations of highly divergent technologies, and resources that may only be tapped for minutes (or even seconds) at a time, all add up to complexity and uncertainty. A market forecast, published in fall 2010 by Pike Research, divides up the VPP universe into four distinct segments:

スマートメーター、リアルタイムプライシングとデマンドレスポンスのようなスマートグリッドの道具立ては、VPPを実現するために必要な手段にもなっている。そして、スマートグリッドの進展を後方支援する高度に洗練化された課金システムとの相乗作用で、VPPは、ここまで自然進化を遂げてきた。 「分散型の電源」としてまったく異なるテクノロジーの集合を対象としなければならなかったため、VPPの発展の過程で、特定の「分散型の電源」を対象としてきたVPPの定義の間で矛盾が生じ、VPPは、複雑で曖昧模糊とした捉え方にならざるを得なかった。 そこで、2010年秋発刊したPike Researchのレポートでは、VPPの世界を4つに分けて、その市場予測を試みている。

DR-based VPPs: This is the largest commercial segment in the U.S., since the U.S. has the most mature DR market in the world (Figure 4).


Figure 4: DR-VPP Capacity Worldwide, Base, Average and Aggressive Scenarios, 2009–2015

DRベースのVPP米国ではDR市場が最も成熟しているため、Figure 4に示す通り、米国ではDRベースのVPPが最も商業的に成功している。

Supply-side VPPs: Europe, particularly Germany, has led the world in this category, though most of the projects have been R&D pilots, with only a handful of VPPs in commercial operation.

供給サイドVPP:欧州、特にドイツでは、このカテゴリのVPPがトップで、まだ実証段階のものも多いが、一握りの成功事例が既に存在する。 

Mixed-asset VPPs: This is the ultimate goal of the VPP, bringing distributed generation and DR together, to provide a synergistic sharing of grid resources to squeeze out more value, thereby reducing capital costs. Few of these projects are in commercial operation today.

異種「分散型電源」の混合設備を用いたVPP:このタイプがVPPとしての最終目標で、再生可能エネルギーを含む分散電源とDRを併用することにより、そのシナジー効果によって、資本コストを低減すると同時に、より多くの価値を引き出そうとするものである。このタイプのVPPが、今日すでにいくつか商業運転中である。 

Wholesale auction VPPs: Unique to Europe, VPP auctions have been used in Europe as a condition of mergers, requiring asset owners to auction off baseload and peaking capacity to bidders under short- and long term contracts. Unlike the category of supply-side VPP segments, these resources are typically traditional centralized power plants burning fossil fuels.

VPPオークション:欧州での慣行として、電力会社が合併する際、大規模合併によって電力卸売市場が寡占状態となり市場価格への悪影響が出ないよう、VPPの競売が合併の条件として広く使われている。これは合併で大きくなった発電設備容量の一部をVPP容量として競売にかけるもので、VPP容量を買う企業は電力設備を保有しているかのように電力供給を行う権利を得るものである。このVPPは、「分散型の電源」ではなく、他社の大規模電源(の一部)を自社電源のように用いることができるという意味で、仮想発電所ではあるが、今回のVPPとは趣を異にするものである。

Pike Research has developed market forecasts for each of these four segments. All told, the total current VPP capacity worldwide is 19,428 MW. The largest segment is wholesale auctions exclusively in Europe, but which represents 51 percent of the total VPP market. The next largest segment is the DR-based VPPs which dominate the U.S. market, with 44 percent of the total global capacity. The supply and mixed-asset segments split the remaining 5 percent of the VPP market virtually equally. The total revenue from VPPs worldwide is almost $5 billion, with the vast majority (90 percent) of that revenue stream captured by the wholesale auction VPP segment.
Over time, it is expected that many supply-side VPPs will morph into mixed-asset VPPs, as more cost-competitive storage enters the market and as DR resources continue to grow in terms of capacity and sophistication. Ultimately, the market for VPPs will likely undergo an evolution where the lines between the first three segments profiled will blur further.

パイクリサーチの調べによると、現在世界中で利用可能なVPP容量は19,428MWで、欧州で行われているVPPオークションがVPP市場の51%を占めている。米国のDRベースのVPPが次に多くて44%。供給サイドVPPと混合設備を用いたVPPは、合わせても5%に満たない。
収益面から見ると、差はもっと歴然としている。現在世界中で利用されているVPPの総収益は約50億ドルだが、VPPオークションが90%を占めている。
ただし、時間とともに、より価格競争力のある蓄電池が市場参入し、DR資源に関しても利用形態が洗練化されて成長し続け、多くの供給サイドVPPおよび混合設備型VPPに移行するものと予想される。 究極的には、VPPの市場は、最初の3つのタイプのVPPの境界線があいまいになっていく形で進化をたどるのではないかと思われる。

GTM Researchの考える分散電源管理システム(DERMS)とVPPの関連

GTM Research:Solar and Storage Are Pushing the Market for Distributed Resource Management Tools (May 20, 2014)

Many utilities are starting with demand response DERMS projects to manage wind farms. Europe, in particular, has made significant headway and is ahead of the U.S. because of its higher penetration of renewable energy. France’s first virtual power plant, installed in 2011, is designed to manage demand response loads to balance wind power. As more solar and wind come on-line in certain regions of the U.S., intelligent storage and DERMS are expected to proliferate. <途中省略>
Storage is becoming cost-competitive in California and New York, where demand charges are high and frequency regulation markets value storage. DERMS platforms will be increasingly important for utilities operating in these markets where solar and storage are coming together. “Though these systems vary in complexity and even function,” said Saadeh, “vendor opportunities lie in the ability to aggregate smaller customers, enable system-wide ancillary support, increase market participation and mitigate generation intermittency.”

VPPという技術概念の実装にあたって利用されるソフトウエア基盤が、分散エネルギー資源管理システム(Distributed Energy Resource Management System:DERMS)である。
多くの電力会社は、風力発電所を管理するためにDRを利用したDERMSのプロジェクトを立ち上げている。この分野では、再生可能エネルギーの利用が進んでいる欧州が米国に先行しており、 フランスでは、風力発電の出力変動を、DRを用いてバランスさせようとする最初のVPPが2011年に運用を開始している。
米国の特定の地域では、太陽光発電や風力発電が大量に系統接続されることが予定されているので、インテリジェントな蓄電池とDERMSの増設が検討されている。
電気料金が高く、周波数調整市場価格の高いカリフォルニア州とニューヨーク州では、すでに蓄電池は、他の電源と価格競争できるようになっている。 今後、その他の州でも、太陽光発電と蓄電池が入ってくるので、DERMSプラットホームが重要となってくるだろう。現時点では、DERMSとして提供されているシステムの複雑さ、機能はまちまちだが、今後は小口需要家の分散型の電源を束ねて系統大のアンシラリーサービスをサポートできるとともに、系統に流入する再生可能エネルギーの出力変動に対応するような機能が求められるだろう。

 

本日は、ここまでです。 

  • VPPというのは、地理的に分散し、個別の電力計で発電量が計測され、場合によっては異なる給電線に接続されている「分散型の電源」の出力を束ねて一つの発電所のように運用する技術概念である。 
  • VPPをシステムとして実装する際、そのソフトウェア基盤となるものがDERMSである。 
  • DR資源は、VPPに利用される「分散型の電源」の1つであり、DRアグリゲータが利用しているシステムもVPPのシステムということができる。

ということをご理解いただけたでしょうか?

下図は、「European Utility Week 2015」でSchneider Electric社のプレゼン資料として入手したものですが、Pike ResearchのVPPの分類であるDG-VPP、DR-VPPおよびMixed Asset-VPPが示されています。

EnergyPoolのソリューションは、すでにMixed Asset-VPPまでを考慮したものになっているということでしょうか。

さて、最後のGTMリサーチの絵に関しては特に説明はなかったのですが、明らかにGTMリサーチが考える電力系統制御システムの将来像を示唆しているものと思われます。

グラフ右下で黒の楕円(Central)で示されているのが、従来の(Traditional)大型発電所(Bulk Generation)を用いて需要予測(Predictable Loas)を基に作成した発電計画に基づく運用ですね。 これに対して、

これまで日本でもスマートシティ実証で実施されていたのは、Local DERMSレベルで、MicrogridやSilo’ed DR、すなわち特定の独立したDRプログラムでローカルな要求に応えよう(Addresses local requirements)というものでした。

VPPは、次のRegional-wide DERMSレベルとされており、DRプログラムも異種・複数のものを同時に扱えることを意味するのでしょうか、DR Management Systemsとなっています。

そして究極の電力系統制御システムがDecentralized Power Systemで、送配電の境がなく(T&D integrated DERMS)系統全体が見渡せて(Full System Visibility)、その分散型電力系統システムでローカルな課題から系統大の課題に対応できる(Addresses local and global requirements)と考えられているようです。これがスマートグリッドの最終形ということだと思うのですが、自分が抱いていたスマートグリッドに対するイメージと非常に近いもので、気分を良くしています。

 

次回は、新しく始めたブログのタイトルにもあるVPPとエネルギーリソースアグリゲーションの関係について考えたいと思います。

 

終わり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その2

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前回は、仮想発電所(Virtual Power Plant:VPP)の定義について調べました。 

  • VPPというのは、地理的に分散し、個別の電力計で発電量が計測され、場合によっては異なる給電線に接続されている「分散型の電源」の出力を束ねて一つの発電所のように運用する技術概念である。 
  • VPPをシステムとして実装する際、そのソフトウェア基盤となるものが分散型電源管理システム(Distributed Energy Resource Management Systems :DERMS)である。

ここで、VPPに利用される「電源」を、通常使われる「分散型電源(Distributed Generation:DG)」ではなく、「分散型の電源」としているのは以下の理由によります。 

  • 元来、「分散型電源」というのは、需要地に隣接して分散配置される小規模な発電設備全般の総称で、主に化石燃料を利用した設備を指していましたが、 
  • 再生可能エネルギーの台頭で、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電のような自然エネルギーを利用した発電設備も「分散型電源」として捉えられるようになり、 
  • Home-to-Grid (H2G)/Building-to-Grid (B2G)/Industrial-to-Grid (I2G)およびVehicle-to-Grid (V2G)等のスマートグリッドのコンセプトが発展していく中、ビル・家庭用蓄電池や燃料電池のような機器も「分散型電源」の仲間入りをしました。 
  • ただし、デマンドレスポンスで生み出されるDR資源は、今でも「分散型電源」の範疇に入っていないのではないかと思います。 
  • しかし、各家庭やビルの負荷を削減することで系統から見て発電したことと同じになるDRも、「分散型の電源」として、VPPで利用できる。 

前回の最後にご覧いただいた「European Utility Week 2015」でのSchneider Electric社のプレゼン資料の図によると、VPPには、従来の「分散型電源」を利用したDG-VPP、DR資源を利用したDR-VPPと、様々な形での電力を貯蔵する装置(Energy Storage)を有効利用して、再生可能エネルギーの出力変動をカバーするMixed Asset-VPPがありますが、Mixed Asset-VPPこそが、VPPの最終形ではないかと思います。

 

さて、前回の復習が終わったところで、本日は、ブログのタイトルにあるエネルギーリソースアグリゲーションについて考えます。

「Distributed Generation」や「Distributed Power Generation」、「Distributed Energy Generation」の訳として「分散型電源」が使われているようですが、上図にある「Distributed Energy Resources」は、どのような定義になっているのでしょうか?

 DERに関する米国エネルギー省の定義

以下は、米国エネルギー省(DOE)が、「DER Distributed Power Program」で用いている国立再生可能エネルギー研究所(The National Renewable Energy Laboratory :NREL)のDER試験設備の紹介資料の冒頭にあるDERの定義です。

Distributed Energy Resources (DER) are modular electric generation or storage located near the point of use. <途中省略> Distributed power systems can either be grid connected or operate independently of the grid. Those connected to the grid are typically interfaced at the distribution system. In contrast to large, central-station power plants, distributed power systems typically range from less than a kilowatt (kW) to tens of megawatts (MW) in size.

DERとは、需要地近くに設置された発電・蓄電モジュールで、DER自体は系統接続されることも、系統とは独立して設置場所独自で使われることもある。系統接続される場合は通常配電系統に接続され、中央集中型大規模の発電設備容量とは違い、1kW以下から数10MWクラスのことが多い。

■ DERに関するWBDGの定義

WBDG(Whole Building Design Guide)というのは、建築にまつわるガイダンス、基準、技術の最新情報を提供する、米国建築科学会(National Institute of Building Sciences)が提供するポータルサイトのようですが、以下のようにDERを定義しています。

Distributed Energy Resources (DER), small-scale power generation sources located close to where electricity is used (e.g., a home or business), provide an alternative to or an enhancement of the traditional electric power grid.

DERとは、需要地(住宅や仕事場)近くに設置された小型発電資源で、系統からの電力の代替または増強の用に供するものである。

 DERに関するEPRIの定義

Distributed energy resources (DER) are smaller power sources that can be aggregated to provide power necessary to meet regular demand.

DERは、小型の電源であるが、それを束ねることで通常の電力需要に応えることができる。

これらの定義だと、DERと「分散型電源」は同義ということになってしまいますが、2014年11月国立京都国際会館で開催された第6回IRED(Integration of Renewable Energy and Distributed Energy Resources)国際会議では、分散型電源に加えて、ヒートポンプや燃料電池、電気自動車(EV)、さらにはデマンドレスポンスも含めて、DERをどう統合するかという観点や災害時にレジリエンス性を高めるマイクログリッドに関するプロジェクトの紹介が行われたようです。

(参考:メガソーラービジネス ニュース

ということで、蓄電池やDR資源を含めたDER(すなわち、「分散型の電源」)の「エネルギーリソース」を束ねて一つの発電所のように運用する(すなわち「アグリゲーション」する)のだとすると、エネルギーリソースアグリゲーションとはVPPの概念そのものではありませんか!

いや、ちょっと待ってください。DER(Distributed Energy Resources)の「Distributed」が抜けています。
では、リソースエネルギーアグリゲーションとは、「Distributed」でない(すなわち、従来の中央集中型大規模電源を組み合わせて需要カーブに供給を合わせる、従来型の需給バランシングのことを指すのでしょうか?

「リソースエネルギーアグリゲーション」のキーワードでグーグル検索すると8010件がヒットしましたが、「”リソースエネルギーアグリゲーション”」と連続して1つのキーワードとしてグーグル検索すると、一挙に48件に絞り込まれました。
そして、それらは

  1. 2016年1月26日、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスを推進していく合意形成の場として設置された「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)」か、 
  2. 2016年1月29日、経産省産省内に設置された「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会」か、

どちらかの話題に絞られています。

ともに、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」でひとまとまりになっているので、試しに「”Energy Resource Aggregation Business”」でグーグル検索してみるとヒットしたのは9件で、それらも、上記の1.、2.のいずれかに関連していました。
「”energy resource aggregation” -distributed」というキーワードでグーグル検索した場合も、やはり9件しかヒットしませんでした。

すなわち、「distributed」の欠落した「エネルギー・リソース・アグリゲーション」や「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」は、日本でのみ通用する和製英語ということですね。 では、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」というのは何を指すのでしょうか?

1.につけたハイパーリンクは、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)」発足についての早稲田大学のニュースページで、「※1」として、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」が次のように定義されていました:

地理的に分散して存在する再生可能エネルギー、蓄電池、需要家などのエネルギー・リソースを通信技術により集約し(アグリゲーション)、一つのエネルギー・リソースとして機能させ、電力系統への貢献など新たな価値を創出することで展開するビジネス

これを見る限り、「VPPを実現し、新たな価値を創出することで展開する新たなビジネス」と読み替えてもよさそうです。すなわち、Distributedという言葉は見当たりませんが、意図するところは、「DERを利用したVPPビジネス」ということのようです。

2016年1月29日に開催されたエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会第1回配布資料4「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについて」を見ると、3ページ目に「エネルギー・リソース・アグリゲーションの範囲」として、次のように記載されています。

以上、「エネルギーリソースグリゲーション」とは、DERを利用したVPPで、DR資源を含めた需要家側のエネルギーリソースを調達することであることが確認できました。

ということで、意味内容からすると、「Distributed Energy Resource Aggregation」であるべきではないかと思います。

ちなみに、「“Distributed Energy Resource Aggregation”」を1つのキーワードとしてグーグル検索すると25件ヒットし、

  1. カリフォルニア州の系統運用管理者であるCAISOの市場に参加できるようになったDERプロバイダーに関するもの
  2. SolarCityがSCE(Southern California Edison)社のサービス地域で、各家庭の太陽光発電設備、蓄電池、エアコン制御によるDR資源を組み合わせ、最適制御することでSCEに対して①Voltage Support、②Distribution Capacity、③Demand Management、④Reactive Power SupportのGrid Servicesを提供している「Smart Energy Homesプログラム」の事例報告
  3. 米国のGWAC(GridWise Architecture Council)も「Distributed energy resource aggregation and integration」に興味を持っていること

など、すでに米国でもVPPビジネスが回り始めているのがわかりました。

 

本日は、これで終わります。

次回は、今回名前の出てきた「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」や、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理してみたいと思います。

終わり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その3

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前回、まず、分散エネルギーリソース(Distributed Energy Resources:DER)という用語について調べました。DERという略称も含めて、分散エネルギーリソース(あるいは、分散エネルギー資源)という言葉は、これまで日本ではあまりお目にかかりませんでしたので、今年になって「エネルギーリソースアグリゲーション」という言葉に遭遇して、まず、DERとの関係が気になったからです。

なお、DERにはいろいろな定義がありましたが、前2回のブログに掲載したEnergyPoolの図にあるように、最新のDERの定義には、従来の化石燃料を用いる分散型電源に加えて、再生可能エネルギー、ヒートポンプや燃料電池、電気自動車(EV)、さらにはデマンドレスポンスも含まれており、まさしくVPPがしていることは、「DERのアグリゲーション」、すなわち、「分散エネルギーリソースアグリゲーション」であることが確認できました。

ところで、最近耳にする「エネルギーリソースアグリゲーション」では、VPPに相当する「分散エネルギーリソースアグリゲーション」から「分散=Distributed」が抜けています。
そこで、「Energy Resource」をアグリゲートする「エネルギーリソースアグリゲーション」とは何なのかを次に検討した訳ですが、調査の結果、「分散=Distributed」部分が欠落しているものの、「エネルギーリソースアグリゲーション」の適用範囲の定義を、2016年1月29日に開催されたエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会第1回配布資料4「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについて」3ページ「エネルギー・リソース・アグリゲーションの範囲」で見つけ、「エネルギーリソースアグリゲーション」とは「分散型の電源」を束ねることにほかならず、正にVPPがすることを指していることが確認できました。

この「エネルギー・リソース・アグリゲーション」や「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」という言葉ですが、なぜ急に使われだしたのでしょうか?
今回は、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理してみたいと思います。

では、始めましょう。

2012 年12 月

「我が国経済の再生に向けて、経済財政諮問会議との連携の下、円高・デフレから脱却し強い経済を取り戻すため、政府一体となって、必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現する」ことを目的として、内閣総理大臣を本部長とし、全ての国務大臣からなる日本経済再生本部の設置が閣議決定された。

2013 年1月

「我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議する」ため、日本経済再生本部の下に産業競争力会議を設置することが閣議決定された。

2014年9月18日

「我が国産業の競争力強化や国際展開に向け残された課題について分野別に集中的な議論を行う」ため、下記の4分野ごとに産業競争力会議ワーキンググループを組織・運営することが、産業競争力会議にて議長決定された。 

  • 雇用・人材・教育WG
  • 新陳代謝・イノベーションWG
  • 国際展開WG
  • 改革2020WG

2014年11月28日~2015年5月27日

改革2020WGでは、竹中平蔵主査の下、計6回の会合が持たれ、

1) 技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出
2) クールジャパンの深化とその認知度の向上
3) 訪日観光客の拡大に向けた環境整備
4) 対日直接投資の拡大とビジネス環境等の改善・向上

という4つの重点政策分野について具体的な政策課題を各省庁が持ち寄り、2020年に実現するためのアクションプログラムが検討された。

1番目の政策分野(技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出)では、

① 次世代交通システム・自動走行技術の活用
② 再生エネルギー・水素・蓄エネルギー
③ ロボット
④ 高齢化社会への対応

が取り上げられ、第3回の会合で資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室長から資料4「2020年頃に向けた新たなエネルギーシステムの構築」と題してエネ庁の考えが説明されている。 (下図参照)

 

図中に記載されているとおり、従来は、エネルギー需要を所与のものとし、エネルギー事業者の大規模・集中電源をどのように積み上げるかというアプローチが取られてきたが、2020年ごろに実現したい絵姿として、これまでの集中型と分散型システムが調和したエネルギーシステムへと変革するため、エネマネ技術、蓄電技術、水素・燃料電池技術などを活かし、需要家側の分散電源を有効に活用することで強靭なエネルギーシステムを構築する考えが示され、それを推進するためのプロジェクト案として以下が示された。

 

そして、第5回会合では、この2つのプロジェクト案がまとめられ、資料2「集中型と分散型システムとが調和したエネルギーシステムへの変革」の中でプロジェクト案2:需要家側エネルギー資源の統合的な活用(仮想発電所)として示されている。


※ ここで仮想発電所という言葉が初登場しています。

そして、この実現に必要な取組、役割分担・体制・工程表も示されている。

 

第6回会合では、需要家側に設置される複数の蓄電池等を群制御することで再⽣可能エネルギーの導⼊拡⼤等を図ろうとする産業競争⼒懇談会の事業プランが、資料2「集中型と分散型システムとが調和したエネルギーシステムへの変革」の中で参考情報として示され、再⽣可能エネルギーの⼤量導⼊と系統安定の両⽴に向けたVPPモデルが提案されている。

2015年6月30日

第11回経済財政諮問会議/第23回産業競争力会議が開催され、『日本再興戦略』改訂2015(案)が示された。その資料2の中で「分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決」があげられ、具体的には、配布資料7「改革2020プロジェクト」として、下図のとおり、分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立することが提案された。

 

  2015年8月28日

平成28年度資源・エネルギー関係概算要求の一環で、資源エネルギー庁は、「Ⅴ.強靱なエネルギーサプライチェーンの構築」の「(2)新たなエネルギーサプライチェーン構築への取組」の1つとして、バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金 39.5億円を申請。

 

2015年11月26日

安倍総理の「第3回官民対話」の中で、節電インセンティブを抜本的に高めるため、家庭の太陽光発電やIoTを活用し、節電した電力量を売買できる『ネガワット取引市場』を、2017年までに創設。来年度中に、事業者間の取引ルールを策定し、エネルギー機器を遠隔制御するための通信規格を整備すると宣言。 また、「アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソース(PV、蓄電池、EV、エネファーム、ネガワット等)を最適遠隔制御し、IoTを活用して需要家群を統合することで、あたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させ、系統の調整力としても活用する」ことが表明された。

※ バーチャルパワープラント構築事業費補助金額は29.5億に減額されています。

2015年12月24日

産業競争力会議第30回 実行実現点検会合で、経産省・国交省・環境省連名で作成された、「プロジェクト2 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境問題の解決」に関する検討結果の報告が行われた。

その資料の中で、

  • 創・蓄・省のエネルギーリソースをIoTにより最適に組み合わせることで、仮想的な調整力を実現。
  • また、蓄電池により余剰電力を吸収することにより、出力制御指令の発動を回避し、再エネ導入拡大を図るため、分散エネルギーリソースを束ねて仮想的な調整力として活用する革新的エネルギーマネジメントシステムの確立

が謳われている。

また、それを遂行する上での課題として、

  • 蓄電池の遠隔群制御やネガワット(節電した電力)創出等の技術的実証
  • 通信規格の拡張
  • ネガワット取引市場、逆潮流に係る計量等に関する制度整備

があげられており、今後のアクションとして、

  • バーチャルパワープラントの技術実証(2016年度から実フィールドで蓄電池の遠隔制御や制御性の高いネガワット実証を開始し、5年間事業として段階的にスケールアップを予定)と
  • 通信規格・制度整備

があげられている。また、通信規格・制度整備のさらに具体的なアクション項目としては、以下が示されている。

  • 2016年初頭に産学と連携して会議体を設置し、多岐にわたる制度整備を進める
  • 2016度中に、通信規格の拡張、ネガワット取引に係る事業者間ルールの策定、逆潮流に係る計量方法の整理を行う
  • 2017年中に、ネガワット取引市場を創設

2016年1月26日

早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に設置された産学主体の「エネルギー・リソース・アグリゲーション・フォーラム(ERABF)」第1回会合が開催された

ERABFのホームページを見ましたが、残念ながら、会議の資料は公開されていないようです。

2016年1月29日

経産省にて第1回エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会が開催され、同ビジネスの課題と今後の進め方について検討された。 その際、配布・説明された資料3「背景について」の1ページ「本検討会の位置づけについて」の中で、省新部政策課新産業・社会システム推進室では、

  • 通信規格の拡張・国際標準化、
  • FIT併用逆潮流に係る計量方法の整理、
  • ネガワット取引活性化・系統調整力への活用

を推進する上で、

(1)情報経済課-JSCAスマハビルWG(含:HEMSTF、DRTF)、
(2)国際電気標準課、
(3)電ガ部政策課電市室、
(4)社シ室-ネガワット検討会、
(5)電力広域的運営推進機関-調整力等に関する委員会

と連係し、バーチャルパワープラント等の予算措置も効果的に活用していくことが述べられている。
なお、同検討会資料6「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスの 課題について」を見ると、アグリゲーションビジネスにおける通信規格を次図のように整理しており、バーチャルパワープラント構築実証事業の範囲では、蓄電池を含めたすべての末端の分散電源に対して、送配電事業者-リソースアグリゲータ間ではOpenADRプロトコルでの通信が想定されている。

同じく2016年1月29日

経産省資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室は、「平成28年度予算事業バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)に係る補助事業者(執行団体)の公募を実施。 平成28年3月8日、一般財団法人エネルギー総合工学研究所が補助事業者に決定したことが公開されている。

2016年2月22日

総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会第20回会合において、資源・エネルギー政策を所管する資源エネルギー庁省エネ・新エネ部が作成した「エネルギー革新戦略 中間取りまとめ」が発表された。その中で、

(1) 徹底した省エネルギー化、
(2) 再生可能エネルギーの導入拡大、
(3) 新たなエネルギーシステムの構築

を行うことが掲げられ、(3)に関連して、産学のトップマネジメント層で構成されるエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)と官主体の実務的検討の場であるエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会(ERAB 検討会)が政策推進の場として2016 年1月に設置されたことが報告されている。
また、アクションプランとして、

  • 通信規格の整備(需要家側エネルギーリソースを遠隔制御するため、2016 年度中に通信規格の拡張を行う)
  • ネガワット取引市場の創設に向けたルール策定(2017 年中のネガワット取引市場の創設に向け、2016 年度中に取引ルールを策定する)
  • 逆潮流に係る計量ルールの整理(需要家側エネルギーリソースを効果的に活用するため、系統への逆潮流に係る計量方法を整理し、実装に向けて実運用上のルール等の整備について検討する)
  • バーチャルパワープラントに係る制御技術の技術実証

が掲げられ、VPP構築実証事業に関して、制度整備と並行し、予算措置を通じて、需要家側エネルギーリソースをIoT により統合的に管理・制御し、あたかもひとつの発電所のように機能させるバーチャルパワープラントを構築する-と説明されている。

更に、同資料内の「革新戦略 工程表 - 再エネ・省エネ融合型エネルギーシステムの立ち上げ」を見ても、制度整備等の環境整備と平行して複数年度にわたって「VPPに係る制御後術の技術実証」をしていくことが想定されている。

2016年4月19日

資源エネルギー庁は、4月18日に「エネルギー革新戦略」がまとめ上げられたことを発表。昨年7月に策定した徹底した省エネ(=石油危機後並みの35%効率改善)、再エネ最大導入(=現状から倍増)等の野心的な目標を実現するためには、市場任せではなく、総合的な政策措置が不可欠で、関連制度の一体的整備を行うため、「エネルギー革新戦略」を策定した -と、戦略策定にあたっての背景を説明している。

VPPに関して「エネルギー革新戦略 中間とりまとめ」との相違に注目すると、まず、「3.革新戦略による新たな展開」の「<3>IoT を活用したエネルギー産業の革新」の中で、
特に今後導入拡大が期待される定置用蓄電池については、車載用蓄電池の市場拡大・技術革新の進展を踏まえ、それと整合的な価格低減・導入拡大策を検討する。また、エネルギー機器の遠隔制御のために整備する通信規格については、今後の国際展開も見据えて国際標準化を行う。」という文言が、
また、2020 年のバーチャルパワープラントの自立化を目指して、今後導入拡大が 期待される定置用蓄電池については、車載用蓄電池の市場拡大・技術革新の進展も踏まえて 2016 年夏までに目標価格を設定するとともに、価格低減・導入拡大に向 けた対応策をまとめ、2017 年度にその実施に向けて取り組む。加えて、エネルギー 機器の遠隔制御のために整備する通信規格については、今後の国際展開も見据 えて国際標準化を行う。 」という表現に置き換えられており、

定置用蓄電池の導入・普及に力を入れるとともに、2020年にはVPPがビジネスとして自立していることが想定されていることがわかる。

再エネ・省エネ融合型エネルギーシステムの立ち上げの工程表は、「IoTを活用したエネルギー産業の革新」とマージされて、次図のように差し替えられており、2017年にネガワット取引市場の創設・送配電事業者によるネガワットの試行的にVPPの技術実証環境が使われだすとともに、その後も制度設計等の環境整備と連動させてVPPの技術実証環境をブラッシュアップさせ、2020年にはVPPビジネスが自立するというシナリオが描かれているようである。

 

以上、今回は時系列でここ最近のVPPに関する国内の動きを整理しました。

次回は、さらに時間をさかのぼって、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思います。

終わり


VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その4

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Cottages at Bromsash crossroads

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前回、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理しました。

要約(および、一部補足)すると、 

  • 2012 年12 月に設置された日本経済再生本部の下に、2013 年1月、産業競争力会議が設置され、2014年9月、その産業競争力会議の下にできた4つのワーキンググループの1つである、改革2020WGでは、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」を重点政策の1つに取り上げた。 
  • この重点政策について具体的な政策課題を関係省庁が持ち寄り、2020年に実現するためのアクションプログラムが策定されたが、2020年ごろに実現したい絵姿として、これまでの大規模集中型発電システムと、分散型発電システムが調和したエネルギーシステムへと変革するため、エネマネ技術、蓄電技術、水素・燃料電池技術などを活かし、需要家側の分散電源を有効に活用することで強靭なエネルギーシステムを構築する考えが示され、それを推進するためのプロジェクト「需要家側エネルギー資源を統合的に活用する仮想発電所の構築」案がまとまった。 


※ この報告書では、「仮想発電所」という用語は使われていませんが、「情報通信技術基盤を活用し仮想的に必要な需給調整力を提供するリソースアグリゲータを提案」しており、その「リソースアグリゲータ」を支える技術として、下図のような階層協調制御スキームをベースとする仮想統合制御技術が提案されています。

  • 2015年6月開催された経済財政諮問会議/産業競争力会議で提案された『日本再興戦略』改訂2015(案)で、「分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立する」という政策方針が固まり、2015年8月、資源エネルギー庁が、平成28年度資源・エネルギー関係概算要求の一環で、「バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金 39.5億円」を申請、最終的に2016年度の補助金額は29.5億円に落ち着いた。 
  • 2015年11月、以上のような事前検討を受け、安倍総理の「第3回官民対話」で、「アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソース(PV、蓄電池、EV、エネファーム、ネガワット等)を最適遠隔制御し、IoTを活用して需要家群を統合することで、あたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させ、系統の調整力としても活用する」という考えが示されたものと思われる。
  • 2015年12月、産業競争力会議第30回 実行実現点検会合で、経産省・国交省・環境省連名で作成された、「「プロジェクト2 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境問題の解決」に関する検討結果の詳細な報告が行われ、今後のアクションとして、バーチャルパワープラントの技術実証を2016年度から5年間の事業として段階的にスケールアップするとともに、通信規格・制度整備の一環で、2016年初頭に産学と連携して会議体を設置し、多岐にわたる制度整備を進めることが確認された。

  • 2016年1月、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に、産学主体の「エネルギー・リソース・アグリゲーション・フォーラム(ERABF)」が設置されるとともに、経産省に「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会」が設置され、同ビジネスの課題と今後の進め方についての検討が開始された。
    また、経産省資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室は、「平成28年度予算事業バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)に係る補助事業者(執行団体)の公募を実施し、同3月、一般財団法人エネルギー総合工学研究所が補助事業者に決定。5月には公募が開始される模様。 
  • 2016年2月、中間とりまとめ内容が公開された「エネルギー革新戦略」は、4月に最終版として公開され、2020年のVPP自立化を目指すシナリオが、いよいよ動き出した。

ということで、今後5年間、VPP構築実証事業が行われることになりますが、この、2020年VPP自立化までのシナリオが出来上がった経緯をさかのぼると、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」という改革2020WGの政策課題に行き着くことがわかります。

そこで気になったのが、「5年間の事業を通じて、50MW以上の仮想発電所の制御技術の確立等を目指し」という、このVPP構築実証事業の成果目標です。2020年にVPPの運用事業者が日本国内で他の発電事業者と伍してビジネス展開できる制御技術を確立するという目標はわかりましたが、50MWという中規模発電所クラスの制御技術を目指すというのは、少し目標が低すぎないでしょうか?

みずほ銀行産業調査部が公開している「みずほ産業調査 2015 No.2」によると、欧州におけるVPPとDR事例として、 

  • ドイツのNext Kraftwerke 社は2009 年に設立されたVPP事業者で、「Next Box」と呼ばれる通信機能付コントローラーを計2,400 カ所の分散電源に設置し、各分散電源をオンラインで接続することで、1,000MW の容量を確保している。<途中省略>同社は2013 年に電力スポット市場を通じて再生可能エネルギー由来の電力を24 億kWh 販売した。 
  • 仏 Energy Pool 社は、2008 年にデマンドレスポンス・アグリゲーターとして設立されたベンチャーで<途中省略>同社の特徴は産業用設備のデマンドレスポンス(以下、DR)に特化している点である。約80 の大口需要家を同社のネットワーク・オペレーションセンター(Network Operation Center、以下NOC)と接続することで、1,500MW のDR 容量を確保している。同社の運用は全て自動化されている。先ず、NOC が系統運用者からDR 指令を受信すると、NOC が需要家毎の応答量を解析し、各需要家に分割してDR指令を発信、各需要家は信号を受信後、数分単位で、電力消費量を自動制御する。同社の強みは、産業需要家が創出できるネガワットの量や時間帯の幅をきめ細かく分析し、不測の事態にも柔軟に対応できる多種多様なポートフォリオを組む技術にある。

とあり、すでにGWクラスのVPPビジネスが海外で成立しているにもかかわらず「5年後、50MW以上の仮想発電所制御技術の確立」ができても、とてもその技術をベースとしたVPPシステムを、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」という改革2020WGの政策課題の後半部分「システムソリューションの輸出」は叶わないのではないかと危惧します。

それと、もう1つ、成果目標には、「仮想発電所の制御技術等の確立を目指し、更なる再生可能エネルギー導入拡大を目指します」とありますので、確立すべきVPP制御技術のポイントは、住宅・ビルの定置型蓄電池や電気自動車の充放電をいかに遠隔制御してVPPに機能させるかとか、昨年度までのインセンティブ型DR実証での問題点をクリアしていかに高度制御型DR技術を確立するかとかいう同一「分散型電源」からなるVPPの制御技術ではなく、弊ブログの「その1」でPike ResearchのVPPの定義でご紹介した異種「分散型電源」の混合設備を用いたVPP(再生可能エネルギーを含む分散電源とDRを併用することにより、そのシナジー効果によって、資本コストを低減すると同時に、より多くの価値を引き出そうとするもの)の制御技術の確立を期待したいと思います。

先ほどの「みずほ産業調査2015No.2」の中で紹介されているドイツのNext Kraftwerke 社は、すでに商業的に成立するには十分なVPPシステムを保有していますが、同調査報告書によると、

同社が目指す理想の事業モデルは、再生可能エネルギーの出力変動を、再生可能エネルギーで調整することによる、再生可能エネルギーを主体とするVPPである。予測が難しい風力や太陽光等の自然変動電力に対して、バイオ 燃料やコジェネ等を用いて負荷追従を行う。またマーケットの状況に応じて、VPP内で調整した後の余剰電力を卸電力市場で売電し、収益の最大化を図る。

と、正に異種「分散型電源」の混合設備を用いたVPPを標榜しています。ぜひ、今回日本で行われるVPP構築実証でも、蓄電池やDR資源を主体とするのではなく、これらの利用を最適制御することによっていかにVPPとして再生可能エネルギー利用の拡大が図れるかを主目標にし、それを補佐する上で、IoTによるリアルタイムマスセンシング機能をどのように使えばよいかの実証を期待しています。

今回は、時間をさかのぼって、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思っていましたが、前回の要約・補足をしているうちに、これから始まるVPP構築実証事業に対して、いろいろな思いが出てきたので、上記の意見表明をしたところで、いったん終わりにします。

終わり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その5

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The Lizard: the post office

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前回、今年度から始まるVPP構築実証事業までの国内の動きを見直し、そこからVPP構築実証事業に何を期待したいかをまとめた段階で終わってしまいました。

今回は、当初の予定通り、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思います。
と言っても、本格的な調査を実施した訳ではありません。基本的にインタネット検索で「仮想発電所」、「バーチャルパワープラント」、「VPP」のような検索キーワードでヒットしたものを時系列に並べてみて、これまでこの分野では、どのような調査・研究・実証が行われてきたか、その概要を把握する目的で実施しただけですので、抜け漏れがたくさんあると思いますが、その点はご容赦ください。
でははじめます。

VPP関連調査

  • エネルギー総合工学研究所は、2006年3月公開したNEDOの「新電力ネットワークシステム実証研究 新電力ネットワーク技術に係る総合調査経過報告 【第三部】電力供給の現状調査経過報告」の中で、米国オレゴン州のボネビル電力局がVPP システムや再生可能エネルギーを活用した新しいオープン指向型の電力供給システムを模索する Energy Web プロジェクトを展開していること等を報告している。 
  • NEDO海外レポート No.1001 2007.6.6は、「欧州におけるエネルギー研究の現状と展望-電力網」と題した特集で、分散型電源を仮想発電所に集約する技術研究を行なうECのFENIX(Flexible Electricity Networks to Integrate the Expected Energy Evolution)プロジェクトを紹介している。 
  • 2011年3月、アーサー・D・リトルは資源エネルギー庁からの受託調査「平成22年度国際エネルギー使用合理化対策事業(スマートシティ海外実証事業調査)」に関する調査報告書を提出。その中で、VPP機能を含む実証事例として、独E-Energy国家プロジェクトの中の2つ、eTelligenceとRegModHarzと、VPPの制御プラットフォーム開発に取り組むin.power GmbHを紹介している。 
  • 2013年3月、パイクリサーチは、「Virtual Power Plants: Demand response, Supply-Side, Mixed Asset, and Wholesale Auction Smart Grid Aggregation and Optimization Networks」と題するVPPの調査報告書を出版。弊ブログ「その1」で言及した4種類のVPPの定義が示されている。 
  • 2014年6月、Navigant Researchから、上記報告書を引き継いだ「Virtual Power Plants: – Demand response, Supply-Side, Mixed Asset VPPs: Global Market Analysis and Forecast」と題するVPPに関する調査報告書が出版されている。 
  • みずほ銀行産業調査部の報告書「みずほ産業調査 2015 No.2」で、欧州におけるVPPとDRに関する調査を実施し、すでに「その4」で言及したように、1GWの容量での実運用を実施しているVPPとして独Next Kraftwerke 社、1.5GWの容量での実運用を実施しているDRアグリゲータとして仏EnergyPool社を紹介している。 
  • 同じく、みずほ銀行産業調査部の報告書「みずほ産業調査 2016 No.1」では、欧州の大手ユーティリティでもVPPへの関心が高くなり、E.ONが、IoT やビッグデータ解析等、IT・ソフトウェア事業者と連携して独自の VPP プログラムを開発するため、2014年以降欧米のスタートアップ企業との提携・資本参加を開始しただけでなく、2014 年 9 月、サンフランシスコに事務所を開設し、引き続きシリコンバレーのIT企業との戦略的提携によりイノベーションを起こし、より高度なエネルギーマネジメントサービスの開発とエネルギーの最適管理を実現するプラットフォームの構築を目指していること、同じく大手電力会社のRWEは、Siemens社のVPPソリューションであるDEMS(Decentralized Energy Management System)システムを採用したことを伝えている。

 VPP関連研究

  • 2010年、現慶應義塾大学理工学部山中教授が、ディズニー携帯のような仮想移動体通信事業者(MVNO)に着想を得てEVNO(Energy Virtual Network Operator)を提唱。 
  • 2015年8月、マウンテンフィールズ株式会社と慶應義塾大学は、慶大理工学部山中教授の総務省委託プロジェクトの研究成果である分散エネルギー制御ゲートウェイ技術を適用した小規模太陽光発電所向けクラウド型常時監視システムを開発。

 VPP関連実証

  • 第21回CEEシンポジウムで関西大学システム理工学部の安田准教授がスペインでのVPP実証事例として、2013年Twentiesプロジェクトが実施した15のウィンドファームを束ねたVPPによる数百MWクラスの有効/無効電力制御事例を紹介している。 
  • 日立製作所:NEDOが実施する「島嶼域スマートグリッド実証事業の中で、ハワイ州、ハワイ大学、ハワイ電力、米国国立研究所などと共同で2016年度末まで実証事業を実施。その中で、EVからの放電機能を利用したV2Gおよび、それを統合したVPP技術の確立を目指した。

 VPPの実ビジネス事例報告

  • 日本総研は、2003年6月、DESS(Desentralized Energy System&Software)コンソーシアムを創設。これは、分散した複数の家庭用燃料電池をネットワーク化し、相互にバックアップする電力供給の可能性を探るもので、例えば大規模マンションの中で、各部屋に分散した燃料電池をつなぎ仮想発電所を構築することが考えられていた。
    実際に実証段階までこぎつけたのかどうかまでは未調査です。もし、ご存知の方がいらっしゃればお知らせください。
  • IBMは、2015年夏発行のProVISION No.86の中で、同社がオランダのアーメラント島で2013年から開始したスマートグリッド実証プロジェクトの中で太陽電池からの電力供給と、島民個々の電力消費量予測をもとに燃料電池の運転を制御するタイプのVPPを紹介 。
  • 日経BPクリーンテック研究所は、ニュースとして、2015年10月、英国のエネルギー貯蔵システム会社のMoixa Technology社がVPP技術を使って住宅向けの蓄電池シェアリングサービス「MASLOW GridShare」を開始したことを伝えている。

海外でのVPPの実運用事例は、もっとあると思いますが、十分調査の時間が取れていないので、今回はここまでです。

また、日本国内においても、大学の研究機関等に関しては、偶然ヒットした慶応義塾大学山中教授のEVNO以外にはリーチできていません。NEDOの成果報告書データベースだけは、一応確認しましたので、個々の報告書内容には目を通せていませんが、VPP関連のキーワードでヒットしたNEDOの委託研究の一覧を作成しました。

終わり

 

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その6

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Station Road, Horton in Ribblesdale

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前回、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して「調査」した内容をご紹介しました。

NEDOの成果報告書の中に、VPPに関連するものがないかどうか調べたところ、調査報告・実証報告がいくつかありましたので、前回は一覧を作成しただけで終わりましたが、今回、これらの報告書に書かれたVPP関連の情報を時系列に並べてみて、国内外のVPPに関する動きを概観したいと思います。
では、はじめます。 

米国におけるVPPの誕生

株式会社テクノリサーチ研究所が実施した平成16年度成果報告書「新エネルギーの貯蔵・輸送等による有効利用法の調査(管理番号:100007472)」によると、1999年、オレゴン州に本拠を置く米国エネルギー省ボンネビル電力局(Bonneville Power Administration:BPA)が、電力ネットワークの負荷を最適化し、消費者と電力会社にとってのコストを削減し、再生可能エネルギーの導入を促進し、電力系統の信頼性を高めるとともに、電力需要の増加に伴う環境影響を低減するために、電力系統、通信システム、エネルギー市場の統合を目指す「EnergyWeb」の概念を提唱。この概念に賛同する企業とコンソーシアムを結成し、2002年から各種の実証を行なったようです。そして、その中で、Celerity Energy社(現EnerNOC社?)が、分散型電源と需要資源を結びつけるVPP システム&サービスを行い、6th Dimension社(現Comverge社)がVPP 用ネットワークシステムの核となるプラットフォームを提供したことが報告されています。

※ 2006年5月、EnerNOC社がCelerity Energy Partners LLC社を買収しています。この会社とCelerity Energy LLCとは別会社のようですが、FERCに登録されているCelerity Energy社のCo-founder&CEOであるDennis Quinn氏が、上記の買収記事でEnerNOC社のシニアディレクターに就任したと報じられていますので、「現EnerNOC?」としました。

※ EnergyWebのホームページを見ると、“EnergyWeb – the original Smart Grid Concept (May 1999 – BPA)”となっていて、ボンネビル電力局こそがスマートグリッドの元祖であることがさりげなく主張されています。このホームページの「Useful Docs」として、EnergyWebに関連するドキュメントへのリンクが貼られているのですが、残念ながらアクセス制限がかかっていて読めませんでした。以下、上記の成果報告書等から、EnergyWebと、その中でVPPに関連する部分をもう少し詳しく紹介します。

EnergyWebの概要

Energy Web を創設した目的は以下の通りとされています。

①増加する電力需要やピーク負荷対応を行うために新たな発電所や送配電線を作らなくてすむようにする
②環境に優しい再生可能エネルギー(特に風力)の導入を促進する
③需要家のコスト削減(ピーク時の高い電力価格を避ける)
④分散電源のアンシラリーサービスへの適用
⑤通信を活用したオープントランスミッションシステムの構築
また、BPA 供給エリアの一部の地域で送電線のボトルネック(混雑)があったので、そのボトルネック対策としても期待されていたようです。
このような背景から、
①ディスパッチ可能DSM(DSM 型VPP)、
②分散電源活用VPP、
③電力貯蔵、
④風力発電・バイオガス・PV 等再生可能エネルギー
を活用した広範なコンセプトのEnergy Web が立ち上げられました。 上記の概念図上、マーケットが中心に描かれていますが、WIREDの記事「Energy Web」によると、このコンセプトを打ち出すにあたってBonneville National LabのTerry Oliver、Steve Hauser、Mike Hoffman氏等は、電力サプライチェーン全般にわたって、電力のコストに関するリアルタイム情報を利用し、またデマンドサイドマネジメントの自動化を検討したようです。

※ 現時点では詳しい確認作業を行なっていませんが、EnergyWebの活動は、その後、トランザクティブエネルギー-その6でご紹介したPNW-SGDP(米国太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト)から、現在のトランザクティブエネルギーに引き継がれているようです。 

欧州におけるVPPの誕生

一方、みずほ情報総研が実施した平成19年度成果報告書「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム共通基盤技術研究開発 IEA PVPSプログラムタスク10に関する情報収集(管理番号:100012004)」の中で、欧州では、ヨーロッパ の電力供給システムをより分散型かつ市場志向の構造へ移行させることを目的に2001年から 2005 年にかけて、IRED(Integration of Renewable Energy Sources and Distributed Generation into the European Electricity Grid)研究開発プロジェクトクラスターの一つとして、Dispower(Distributed Generation with High Penetration of Renewable Energy Sources)プロジェクトが実施されたことが紹介されています。2005年12月に公開されたDispowerプロジェクトのワークパッケージ 5(情報、コミュニケーションと電力取引)の報告書では、分散型電源が高密度に連系された場合のアンシラリーサービスへの適用が検討され、ワークパッケージ 11(地域電力供給システムにおける分散型電源の総合評価)の成果物の中でVPPのコンセプトが述べられていたようです。

※ こちらも、詳細を確認しようとしたのですが当時のホームページ(Dispower.org)へのアクセスができませんでした。 

また、三菱総合研究所が実施した平成20年度成果報告書「新エネルギーの系統連系に関わる国内外の技術調査(管理番号:20110000001555)」では、海外技術動向として、欧州のfenixプロジェクトが紹介されています。これは、NEDO海外レポート No.1001 2007.6.6「欧州におけるエネルギー研究の現状と展望-電力網」と題した特集の中でも報告されていたものですが、欧州での本格的なVPPへの取り組みは、このfenixプロジェクトに端を発しているように見受けられます。

※fenixプロジェクトに関しては、当時のホームページが残されていましたので、fenixプロジェクトと、このプロジェクトに関連した欧州の動きをもう少し詳しく眺めておきましょう。 

まず、このプロジェクトは、欧州大で科学技術分野の研究開発を計画的・戦略的に実施するための財政的支援制度である欧州研究開発フレームワーク計画(Framework Programme for Research and Technological Development)の1つとして実施されています。数年ごとに財政支援を行なうプロジェクトが定められてきたようですが、fenixプロジェクトは、その第6次計画(Sixth Framework Program:FP6)に属し、2005年10月開始、2009年9月終了したプロジェクトだったようです。下図は、全く関係のない資料ですが、欧州研究開発フレームワークの枠組みが簡潔にまとめられていましたので、掲載させていただきます。

出所:鉄道総合技術研究所 田中裕 鉄道国際規格センター長「鉄道技術の国際標準化に関する指針動向」

Fenixプロジェクト概要

以下は、NEDO成果報告書「新エネルギーの系統連系に関わる国内外の技術調査」の受け売りです:

FENIX とは、Flexible Electricity Networks to Integrate the Expected Energy Evolution、「エネルギーの進化を組み込んだ柔軟な電力網」であり、目的は、分散型エネルギーを大規模仮想発電所(LSVPP;Large-Scale Virtual Power Plants)へ集約し、管理を分散化することによって、分散型エネルギーの電力システムへの貢献度を最大化し、後押しすることである。

FENIX は2005 年10 月開始、2009 年9 月終了予定の、1,400 万ユーロのプロジェクトである。このプロジェクトにより、分散型エネルギーのインフラ開発が促進され、既存のインフラへの組み込みが促進されることが期待されている。

FENIX プロジェクトの一環として、欧州諸国から18 の参加者(送電/配電システムの運用関係者、製造業関係者、研究機関関係者など)が集まった。そして分散型エネルギーをベースにしたシステムを将来のコスト効果の高い、安全で持続可能な欧州の電力供給システムとするため、技術的なアーキテクチャ及び市場の枠組みの概念検討・設計・実証を行った。

このプロジェクトの目標は以下のとおりである: 
● 分散型エネルギーの現実的な普及度を二つの将来計画(EU 北部・南部)で評価し、電力系統への分散型エネルギーの貢献度を分析する。 
● 階層化された通信と制御ソリューションの開発を行う。下記がその具体例である
 - エネルギー市場やその付帯サービス市場に多種多様なサービスを提供するために、柔軟性と制御性を特徴とする大規模仮想発電所を開発する。
 - 大規模仮想発電所に連系する装置の管理を受け持つ、分散型エネルギー側のローカルソリューションを開発する。
 - 仮想大規模発電所の発電量をネットワーク上で管理できる新しい能力を備えた送配電サービス運用者用の新世代ツールを開発する。さらに、この電力を評価する市場を発展させる。
● 二つの大規模なフィールド展開を通じた妥当性の検証:
(1) 国内の熱電供給の集約
(2)「国際的なネットワークの管理・市場」に統合された大規模仮想発電所内の大規模な分散型エネルギー源同プロジェクトは以下の成果を達成することを主要な目標としている:
 - 集中型発電の発電量を減らす
 - 送配電網の稼働率を上げる
 - システムのセキュリティ強化
 - 総費用の削減とCO2 の削減

Fenixのアーキテクチャ

Fenixは、下図のようなアーキテクチャとなっています。

出所:Flexible Electricity Networks to Integrate the eXpected Energy Evolution

ここで、FB(Fenix Box)は、分散型電源を遠隔監視・制御するインタフェースで、CVPP(コマーシャルVPP)は、個々の分散電源の出力を、発電事業者の立場から最適となるように遠隔監視・制御するのに対して、TVPP(テクニカルVPP)は、配電事業者の系統管理の立場から、同一地域の分散電源を束ねてあたかも大型電源のように、需給バランシングやアンシラリーサービスに利用できるようにするもののようです。

こう書くと、VPPには、CVPPとTVPPの2つがあるようですが(当初そのように誤解してしまったのですが)、上記の資料に掲載されている、スペインおよび英国の実証サイトのアーキテクチャ図を見ると、CVPPは、様々なタイプの分散型電源を束ねる、分散電源用のエネルギー管理システム(DEMS)であるのに対して、TVPPは、配電管理システム(DMS)の一部として機能していることがわかります。

なお、図中、ICCP、MODBUS、PLC、OPC DA、101、104と書かれているのは、当時採用されていた通信プロトコルで、最後の101と、104はそれぞれIEC 60870-5-101とIEC60870-5-104のことです。

Fenixプロジェクトの紹介が長くなってきたので、後は別の機会に譲るとして、VPPの歴史に戻りましょう。

ここまで、NEDOが実施したスマートグリッド関連の調査事業の成果報告書から、海外のVPP事情を概観しました。 次に、同じくNEDOの調査予算で日本企業が実施したVPP関連実証に関する報告をいくつか見てみましょう。

日本企業が実施してきたVPP関連の動き

マレーシアでの実証

平成18年度~21年度、東京電力はNEDOからの業務委託を受けて、マレーシアで「太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証」を行なっています。具体的には: 
● 太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証研究(PV+BESS)システム詳細設計:これは、自然変動電源である太陽光発電を最大限に活用しながらも、電力貯蔵装置(Battery Energy Storage System:BESS)の活用により、電力の高品質化を図りつつ、負荷平準化により、経済性向上も目指し、その実証研究システムの詳細設計を行ったものです。
● 太陽光発電システム等高度化系統連系安定化技術国際共同実証開発事業/太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証研究(PV+BESS):これは、「高品質PV+BESS電力供給システム」の実証開発を目指したもので、VPPシステム構築に近い実証研究と言えます。

ハワイでの実証

平成23 年度~平成27 年度、日立製作所はNEDOからの業務委託を受けて、「国際エネルギー消費効率化技術・システム実証事業/ハワイにおける日米共同世界最先端の離島型スマートグリッド実証」を行なっています。
マウイ島におけるEVを活用した離島型スマートグリッド実証の中で、VPP を見据えた最適なV2G 制御に関する実証研究も実施されたようです。 チャデモ協議会第5回総会の資料「V2H機能を活かした実証事業」に掲載されていたVPPに関連するNEDO実証の模様をいくつか紹介しましょう。

 

今回は、NEDOの成果物データベースから、欧米でのVPP誕生当時の状況や、日本企業が絡んだVPP関連の実証についてご紹介しました。

 

おわり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その7

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Bognor Regis sunset

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前回は、NEDOの成果物データベースから、欧米でのVPP誕生当時の状況や、日本企業が絡んだVPP関連の実証についてご紹介しました。

今回は、VPPのビジネスモデルについて考えたいと思っているのですが、その前に、H28年度バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)の採択事業者が7月29日付けで発表されましたので、ちょっと見ておきましょう。
VPP構築実証を行なうA事業者7件、高度制御型DR実証を行なうB事業者19件の事業テーマと代表事業者は、以下の通りです:

※株式会社以外の形態の事業者を「組織」と総称
出典:エネルギー総合工学研究所HP 

出典:エネルギー総合工学研究所HP

B事業は、基本的に昨年まで実施されていたインセンティブ型DR補助金事業の継続実施です。
昨年度は10分前予告DR/1時間前予告DR/1日前予告DRの組み合わせでしたが、今年度は10分前予告DR/1時間前予告DR/4時間前予告DRの組み合わせになっており、また、12月及び1月には、単にこれらの基本DRメニューに加え、拡張DRメニューとしてDR契約容量を上限とする負荷削減量を指定したロードディスパッチ、負荷削減を行なう持続時間延長の追加DR発動と、通知したDRのキャンセル通知のテストが予定されています。また、B事業No.19の早稲田大学では、更に独自DRメニューの実証を計画しているようです。

これに対してA事業は、蓄電池等、電力グリッド上に散在するエネルギーリソースを統合的に制御し、あたかも一つの発電所のように機能させて需要家側のエネルギーリソースを統合的に制御するアグリゲーションビジネスモデルの確立を目指すものということで、まさに本日取り上げようとするVPPのビジネスモデルが焦点となっています。

そこで、今回は、A事業として採択された企業のうち、すでにVPP構築実証への参画についてプレスリリースされている情報をもとに、どのようなVPPシステムを構築して、どのような実証をしようとしているのか見てみようと思います。

関西電力プレスリリース:バーチャルパワープラント構築実証事業への参画について

このホームページの情報によると、従来にない新たなエネルギーマネジメントの実現を目指すとされており、具体的には、従来、電力の需給調整は、火力発電所の稼動・停止等、「供給側」で行ってきましたが、同社を含む14社により実施される実証事業では、晴天時に太陽光の出力が増えた場合など、電気が余る場合はお客さま設備の蓄電池を充電することで需要を創出して今後予見される再生可能エネルギーの出力抑制の可能性を軽減するとともに、供給力不足の場合は、蓄電池から放電を行うなど、「需要側」で需給の調整を行うことを目指す点が強調されています。

別紙1:事業内容の概要を見ると、VPP構築実証イメージは下図のとおりです。

また、VPPシステム構成イメージは下図のとおりとなっています。

この図からわかる通り、VPPとして制御対象リソースとしては、下図のとおり様々なものが考えられており、単なる蓄電池アグリゲータを目指すものではありません。

今回実証予定のリソースをとってみても、蓄電池として定置型(業務・産業用大型蓄電池および家庭用小型蓄電池)、移動型(社用および自家用EV)を制御対象としているだけでなく、蓄電池相当の機器としてヒートポンプ給湯器を制御対象としています。これは米国では「蓄電池をしのぐGrid-Scale Energy-Storage Device」として注目されているもので、CEA(Consumer Electronics Association )2045というHP給湯器制御用標準プロトコルでの実用化がすすめられています。欧州でもスマートアプライアンスに関する新たな標準として、別途国際標準化がすすめられているようですので、国際標準・海外での公知な標準を見据えたシステム開発を心掛けて欲しいと思います。

その他、DR資源もVPPシステムからの制御対象としており、弊社ブログ「VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その1」のVPPカテゴリからしても、理想的な「Mixed Asset-VPP」となっています。

さて、ビジネスモデルに関してですが、当該VPPシステムが提供できるサービス例として以下が記載されていました。
1) 小売事業者向けサービス:計画外に必要となった電力を、アグリゲータが需要調整をすることで捻出し、電力の供給等を行う(DR資源での調節もありうる)
2) 系統運用者向けサービス:需要の創出や供給力の提供により、需給のバランス調整を行なう
3) 再生可能エネルギー発電者向けサービス:アグリゲータが需要の創出を行なうことで、発電抑制を回避する
4) 消費者/コミュニティ向けサービス:エネルギーコストの低減や再生可能エネルギーの自家消費の促進等を行う

下図が、そのサービス提供イメージですが、これらがビジネスモデルとして確立するためには、提供するサービスに関する信頼性の確保と、互いに納得のいく価格設定が重要です。単に技術実証に終わらず、システム構築・維持費、サービス展開に必要な設備機器の開発・維持費が、設定された価格では何年で回収できるのか、そのためには、それぞれのサービス提供者の規模は最低どのくらいでなければならないのかという分析が必要だと思われます。

 

以上、関西電力のホームページに掲載されたVPP構築実証のプレスリリースと別紙の事業内容の概要から紹介しました(というか、並び方を変えて、解説を少し加えただけですが)。

他にも、VPP構築実証事業でプレスリリースした企業がありますが、長くなってしまいましたので、本日はここまでとさせていただきます。

終わり

VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その8

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New Inn Hotel, Clovelly

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前回は、VPPのビジネスモデルの事例として、H28年度バーチャルパワープラント構築事業費補助金(VPP構築実証事業)の採択事業者の内、関西電力等14社から構成され、私見ですが、最もVPPのビジネスモデルとしてよく考えられている(広くカバーされている)と思われる「関西VPPプロジェクト」と、そのビジネスモデルについてご紹介しました。
もともと、今回のVPP構築実証事業の内、A-1補助対象事業は、「高度なエネルギーマネジメント技術を活用し、蓄電池等のエネルギー設備やDR等の需要家側の取組等、電力グリッド上に散在するエネルギーリソースを統合的に制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる取組を通じて、需要家側のエネルギーリソースを統合的に制御するアグリゲーションビジネスにおけるビジネスモデルの確立」を目指すもので、VPPの構築および技術開発のみにフォーカスした実証ではありません。VPP構築実証期間は5年間ありますので、単年度ごとに成果を積み上げていくのは難しいかもしれませんが、5年後VPPビジネスとして実運用にこぎつけられるよう実りある実証を期待しています。

今回は、他のA-1事業採択者に関して、どのようなビジネスモデルを想定しているか調べてみましたので、その結果をご紹介します。

スマートレジリエンス・バーチャルパワープラント構築事業

横浜市のプレスリリース『「仮想の発電所」(バーチャルパワープラント)を公⺠連携で構築します!〜横浜市・東京電⼒エナジーパートナー(東電EP)株式会社・株式会社東芝と基本協定を締結〜』によると、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の実証成果を生かして、公民連携で実装化の取組を推進していく」ということで、自治体と連携したビジネスモデルになっています。


今年度の取り組みとしては、「横浜市内小中学校(各区 1 校、全 18 校を予定)に蓄電池設備を設置し、遠隔操作で、充放電を統合的に制御する実証により、平常時と非常時の機能や、事業性、有効性を評価する」とされており、

今後の展開として、自治体関連施設から民間ビルまで、VPPでの制御対象の拡大が検討されています。 

ただ、VPP資源として利用するのは蓄電池のみであり、VPPシステムというよりは、蓄電池アグリゲーションにとどまっているのと、YSCPで東芝が培った蓄電池SCADA技術と、東電EPがビジネス展開しようとしているインフラ(スマートレジリエンスESP)をベースに実証実験を行なううようで、技術的には手堅いけれどもあまりチャレンジする姿勢が見られないのと、(これで収益が上がるのなら別に文句はないですが)ビジネスモデルとしても単純な点が残念です。

蓄熱槽を含む多彩なエネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラントの構築

アズビル、東電EP、三菱地所設計、明治安田生命保険、日本工営の5社から構成されるコンソーシアムでVPP実証が行われますが、残念ながら、これらのA-1採択事業者のホームページなどに本VPP構築実証に関する情報を見つけることはできませんでした。

バーチャルパワープラント構築を通じた リソースアグリゲーションビジネス実証事業

日本電気(NEC)社のプレスリリース「バーチャルパワープラント構築を通じたリソースアグリゲーションビジネスの実証事業を開始」によると、平成26年度の「産業競争力懇談会における研究会活動」によりNECら複数社が提案、検討し、平成27年度の「地産地消型再生可能エネルギー面的利用等推進事業(構想普及支援事業)」で事業可能性についてより具体的に調査検討を行った結果や得られた知見に基づき、VPPの構築に必要なリソースや技術などを保有する9社が集結し、本実証が行われると説明されています。

プレスリリースのページからリンクされた補足説明資料によると、以下のようなリソースアグリゲータ―としてのビジネスモデルが描かれていますが、産業競争力懇談会の資料を見ると、蓄電池を用いたエネマネサービスが基本となっているようです。

IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証事業

エナリスのプレスリリース「バーチャルパワープラント構築実証事業/アグリゲーター事業」に採択』によると、エナリス等6社がコンソーシアムを結成して、「需要家側の創エネ・蓄エネ・省エネの取り組みによって生じるエネルギーリソースを統合的に制御し、一つの発電所のように機能させる「バーチャルパワープラント」の構築と技術開発、関連するビジネスモデルの確立を目指す」としています。

バーチャルパワープラントのイメージとしては、同社社長が平成27年11月26日に開催された「第3回 未来投資に向けた官民対話」で発表された上図が示されています。 また、実証実験の実施体制と参加各社の役割については、下図/下表のとおりです。

エナリスのプレスリリースと同期して、京セラとKDDIが、ともにVPP構築事業への参加をニュースリリースで報じていますが、その他3社からは何も発表がなく、本実証参加への温度差を感じました。

V2Gのアイデアは古くからありますが、VPPの資源として考えた場合、放電して欲しい時にEVが充電ステーションにいるのか? また、太陽光発電の余剰電力が系統にあふれ出す時間帯に、その余分な発電量をEVのバッテリーに吸収させたいが、EVが充電ステーションにどのくらいの確率で停車しているのか等、個人的には電気自動車行動予測システムの開発と、それをベースに、EV充放電がVPP資源として実ビジネスで利用できるようになるためには、どの程度EVが普及していなければならないかをシミュレーションして分析評価するのは非常に大事だと思います。

壱岐島における再エネ出力制御回避アグリゲーション実証事業

SBエナジーのプレスリリース「平成28年度バーチャルパワープラント構築事業」への採択について』の記事詳細によると、「本事業は、2016 年より需給バランスの調整のために再生可能エネルギー発電事業者に出力制御指令が発 令されている長崎県壱岐島で、壱岐開発株式会社(本社:長崎県壱岐市、代表取締役社長:中原 恵美子) が運営する「壱岐ソーラーパーク(出力規模:1,960kW) 」へ課せられる出力抑制分の電力を対象に実施し、 SB エナジーは出力制御指令によって抑制される予定の電力を、壱岐島内に点在する蓄電設備を利用して 遠隔制御で新たな電力供給先を創出するアグリゲーションを行います」とされており、VPPビジネスモデルとして、再エネ大量導入で問題となっている出力抑制緩和を目的としていて、発電所の代替ではなく、系統接続の大規模蓄電池の代替としてのVPPの役割についての実証であることがわかります。

コンビニエンスストアにおける需要家側VPPシステム構築実証事業

残念ながら、本実証に携わるローソン、慶応義塾大学SFC研究所のホームページで、VPP構築事業に関する記述は見当たりませんでした

以上、今回は関西VPPプロジェクト以外のVPP構築実証プロジェクトに関して、ネットから得られた情報をもとに、そのビジネスモデルを確認しました。

終わり

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