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VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その9

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前回は、VPPのビジネスモデルの事例として、H28年度バーチャルパワープラント構築事業費補助金(VPP構築実証事業)の採択事業者のうち、「関西VPPプロジェクト」以外でインターネット上情報公開されているものについて、調べた内容をご紹介しました。

今年度から始まった同補助金事業同様、弊ブログでも、VPPシステムの仕組みや、それに関連した制御プロトコルをご紹介するだけではなく、「エネルギーリソースアグリゲーション」による新たな電力ビジネスのビジネスモデルに焦点を当てようと思っています。
そこで、まず今年度VPP構築実証に採択された事業者のシステムとビジネスモデルをご紹介した次第です。

ところで、当初、VPPは工場などが自家消費するために設置した小型電源を束ねて遠隔制御することにより、大規模発電所に匹敵する電力を得ようとしたもので、VPPとして(アグリゲーションビジネスとして)独立したビジネスモデルではなく、あくまでも電力会社が電力調達手段の1つとして利用したものではなかったかと想像しています。

試しにドイツの4大電力会社のホームページを調べてみると、すべてにVPPに関する記述があり、例えばRWEでは、2010年までにシーメンスの協力のもと、小水力発電やコージェネ、非常用電源を束ねたVPPの実証実験で、その技術面、経済面での検証をし終え、2012年2月以降、RWEの子会社RWE Energiedienstleistungen GmbH が、同社のエネルギーサービス事業の一環として、VPPシステムで集約した電力をドイツの卸電力取引所であるEEX経由で販売しているとのことです。VPP資源は、そればかりでなく、予備力にも使われています。

E.onの「Virtuelle Kraftwerke(VPPのドイツ語)」のページの説明によると、同社では、「E.ON Connecting Energies」という事業部門がVPPサービスを扱っています。 需要家の施設(Ihre Anlagen)を見分して何がVPP資源として利用可能か判定し、需要家側もVPPサービスの加入に納得すれば、遠隔制御装置「E.on ComBox」を設置して、E.onが自社開発したVPPプラットフォームに接続するとともに、系統接続の適合審査に合格するためのサポートを行ないます。VPPカスタマーポータル(VPP-Kundenportal)やスマートフォンのアプリも用意されていて、需要家は電力消費状況/電気料金をモニタできるようです。更にエネルギー管理専門家用に、Smart ViewⅡというポータルが用意され、エネルギー消費のベンチマーク、トレース、検証ができるようですが、詳細は不明です。

 

EnBWはVPPサービスとして、再エネ発電事業者向けのエネルギー管理サービスに力を入れているようです。
ドイツでは、2000年、原発廃止に伴うエネルギー源の多様化と持続的供給をめざすために再生可能エネルギー法(EEG法)が制定されています。この法律で、電力会社には再生可能エネルギー設備で生産された電力を固定価格で買い取ることが義務付けられ、買取コストは消費者の電気料金に上乗せされたことから、再エネ導入拡大に伴って消費者の費用負担が急増。2014年の改正EEG法では、出力500kW以上の新規発電装置に関しては、再エネ発電事業者であっても、発電した電力を市場で直接販売することを義務づける「ダイレクト・マーケティング制度」ができました。 EnBWでは、分散型電源を集約して大規模発電所のように運用すること以外に、再エネ発電事業者が直接市場で発電した電力を販売しなければならないダイレクト・マーケティング処理の代行サービスをVPPサービスに加えているようです。

VattenfallのVPPのページは、更に趣が違っていました。

需要家のヒートポンプとコージェネをベルリンにあるVattenfallの地域暖房制御センターが遠隔制御することで、系統接続された風力発電が需要を上回る場合はヒートポンプに指令を出して風力発電の余剰分を吸収し、風力発電が需要を下回る場合はコージェネ(CHP)に指令を出して不足分を補うというようなことが書かれてていました。別のVattenfallのVPP資料では、このVattenfallのVPPに参加できる設備をVHP(Virtual Heat & Power)と呼んでいるようです。

 

今回、お盆休みを利用して調査したのですが、思ったほど時間が取れず中途半端になってしまいました。もっと調査をしてからブログで公開することも考えたのですが、次は、いつアップできるかわからないので、とりあえず調べた範囲で公開させていただきます。
以上は、電力会社自体(か、その子会社)がVPPのリソースアグリゲーションを行なうビジネスモデルでした。同じドイツでも、電力会社以外がVPPビジネスを成功させている例として、弊ブログシリーズの「その5」でもご紹介したNext Kraftwerke社があるのですが、それは次の機会に譲りたいと思います。

終わり


VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その10

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Old houses on Mermaid Street

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前回は、VPPに関するビジネス化が進んでいると思われるドイツの4大電力会社でVPPがどのように取り扱われているかをご紹介しました。いわゆるVPPとして電源代わりに調達する形に加えて、ドイツならではのものとして、改正再エネ法で導入された「ダイレクト・マーケティング制度」がうまく実施できるよう、再エネ事業者の出力をアグリゲートし卸電力取引所に売りに出すEnBWや、需要家のヒートポンプやマイクロCHPをVHP(Virtual Heat & Power)として利用するVattelfallが特徴的でした。

今回は、ドイツでVPPがどのように理解され利用されているかについて、順番が逆になりましたが、ドイツ経済技術省(BMWi)の2015年7月のニュースレターIssue 07/2015の中のVPP特集をご紹介したいと思います。 例によって、全訳ではないことと、超訳が含まれていることにご留意ください。 でははじめます。

仮想発電所とは、需要家サイトの小型電源や、負荷、エネルギー貯蔵装置から構成されるエネルギーを集約・遠隔制御し、あたかも大型発電所からのように系統に電力を提供するもので、エネルギー転換を推進しているドイツにとって非常に重要なものである。

 

風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギー源は、すでにドイツの電力消費量の3分の1近くを賄っている。その意味でドイツのエネルギー改革は順調に進んでいるが、石炭やガスなど従来のエネルギー源から再エネに移行するにあたっては課題があった。再エネの中には風力や太陽光のように、急激な変動を伴うものがあったからである。再エネ導入比率が高まれば、その急激な変動を吸収する調整電源として従来型の火力発電所が不足してくる。しかし、調整電源を増設するのでは、CO2排出削減のための再エネ導入の本来の目的と矛盾するので、再エネ自体が信頼のおける安定的な電力供給源となる必要がある。VPPは、正にそのための技術である。天候予測などをベースに個々の再エネからの発電量を可能な限り正確に予測し、それらを集約することによって得られる「均し効果」も勘案したうえで、手持ちの調整電源の調整可能幅を勘案して、個々の再エネの発電の出力を遠隔制御し、従来の1か0か(発電させるか停止させるか)の出力抑制ではなく、可能な限り再エネ発電出力を利用し、かつ電力取引単位となる一定時間、安定出力が可能なように調整電源側を制御する。可能ならデマンドレスポンスのような負荷側での調整も行うし、蓄電池のようなエネルギー貯蔵装置を遠隔制御し、再エネが所期の予想以上に発電した場合は充電してその出力を吸収し、所期の予想を下回る場合は放電し再エネ発電出力予想値の不足分を補填する。そのためには、VPPとしての各資源の発電量をリアルタイムで監視する必要がある。

(ドイツにおいて)VPPのもう1つの大きな役割は、VPPが集約した電力を代行販売することである。2014年、再生可能エネルギー法(EEG法)が改訂され、出力500kW以上の再エネ発電事業者は発電した電力を市場で直接販売することを義務づける「ダイレクト・マーケティング制度」ができ、更に、2016年からは出力100kW以上の発電事業者に制度が拡大されたが、個々の再エネ発電事業者が、自前で一定時間一定した発電出力を系統に供給するのは困難である。VPPは、そのような再エネ事業者の発電出力を集約し、調整電源を用いて一定時間一定出力に成型して、卸電力取引所の売買に適合した「商品」として、代行販売するのである。 ドイツでVPPに期待されているもう1つの役割は、系統運用者へのアンシラリーサービス提供で、「Kombikraftwerk 2」プロジェクトでは、将来、100%再エネを利用したVPPによる周波数調整力提供の有効性が検証されている。 最後に、すでに稼働中のVPPとして、Next Kraftwerk GmbH社の「Next Pool」と、Statkraft社がドイツ国内で展開するVPPを上げることができる。この2社のVPPの容量を合わせると10GWとなり、原発10基に相当するものである。その他にもエネルギー貯蔵装置(storage)を集約したVPPや柔軟な負荷(Flexible Loads=DR)を利用したVPPがすでに稼働中であり、ドイツにおける電力受給とエネルギー転換促進に貢献している。

以上、BMWiのニュースレター2015年7月号からVPP特集部分をご紹介しました。
今回のブログシリーズを始めたころは、結構忙しくてあまり系統立てて調査を行なえなかったため、とりあえず目についた情報で有効そうなものから手当たり次第にご紹介してきました。 前回も、ドイツの4大電力会社に目星をつけてVPP情報を調査したのですが、本来、こちらを先にご紹介すべきだったと反省しています。

なお、ドイツの電力事情に関しては、少し古いですが2011年6月のブログ記事「IEAによる各国の地域冷暖房の取り組みの評価-その4」(CHP/DHCに関する国別評価:ドイツ編)で再生可能エネルギー法(EEG:Erneuerbar Energien Gesetz)が施行されるまでの経緯をご紹介していますので、ご興味をお持ちの方は、ご確認ください。

Next Kraftwerk社の「Next Pool」に関しては、すでにいろいろなところで紹介されています。例えば、創立者で現CEOのヨヘン・シュヴィル氏が第9回 日独産業フォーラム 2013で、来日し、講演をされているようです。経済テクノロジー(2014年):欧州で成長する「仮想発電所」 電力自由化時代の調整役に や、2015年のみずほ銀行産業調査部のレポート:第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略 、ERAB検討会第1回資料4:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについての中で紹介されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

ビジネスの観点から最新の情報を付け加えさせていただくとすると、同社のホームページ(About)に、「Next Kraftwerkeは大規模VPPのオペレータであるとともに、卸売電力取引所の認定パワートレーダーである」と紹介しています。Facts&Figuresを見ると、2014年実績の数値だと思われますが、3672基の分散型の電源(DR資源提供者も含まれると思います)を遠隔制御する設備容量は2112MW、取引された電力は9TWh。ドイツを中心にオーストリア、ベルギー、フランス、オランダ、ポーランドにも事業展開しており、系統運用者向けに予備力提供(Prequalified Secondary Capacity Reserve: 648 MW、Prequalified Tertiary Capacity Reserve: 785 MW)も行っているようです。

BMWiのニュースレターでは、Next Kraftwerke社とStatkraft社あわせて10GWのVPP容量があると報じられていますので、そうすると、ドイツ国内で最大のVPPは、Next Kraftwerke(2.1GW)ではなく、Statkraft社(7.9GW?)ということになります。
そこで、同社のVPPビジネスについて調べたところ、「Germany’s largest “power plant”」というニュース記事を見つけました。
Statkraft社は、2014年2月時点で、1000台以上の分散型の電源を同社のVPPから遠隔制御し、5GW以上の容量を確保していたようですので、Next Kraftwerke社のVPP容量より大きいのは確かなようです。また、このVPPには940のウィンドファームの4800台の風車と、100弱のPVプラント、12のバイオマス発電所が接続されていたようです。 なお、少し古い情報になりますが、日本産業機械工学会の海外情報-平成23年12月号:欧州再生可能エネルギー(ノルウェー)によると、Statkraft社は、ノルウェーの首都オスロに本社を構える国営電力企業で、売上の90%が再生可能エネルギー関連製品およびサービスで占められているようです。同社は欧州内で再エネ取扱量第1位、264箇所の発電所と地域熱供給施設を持ち、ノルウェーにおける発電の35%を取り扱い、20か国以上で事業展開をしており、従業員数は3200名。ドイツにおいては、天然ガス発電所4施設1,962MWをはじめ、水力発電所10施設262MW、バイオマス熱併給発電所2設備16MW等、総出力2,240MWの設備容量を2011年には保持していたようですので、これらが調整電源としてVPPに接続された5GWの再エネ資源と合わせると、7.2GW。BMWiのニュースレターが発行された2015年時点で7.9GWという数字は見つかりませんでしたが、妥当な感じがします。 YoutubeにこのStatkraft社のVPP紹介ビデオがあるので、ご覧ください。

以上、今回は、ドイツにおけるVPPの状況をドイツ経済技術省のニュースレターを中心にご紹介しました。

終わり

ネガワット取引ガイドラインとDRベースライン-その1

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HaworthMainStreet

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9月1日、経産省より「ネガワット取引ガイドライン」改定がアナウンスされました。 弊ブログでは、「デマンドレスポンスに関連するもう1つの標準-その1」から「その5」で、米国においてDRのベースラインがどのように検討され、新たな『標準』として法制化されたかをご紹介しましたが、日本でインセンティブ型DRを進める上でどのようにベースラインを考えているかについて、これまでご紹介できていませんでした。
そこで、今回は、平成29年中に予定されているネガワット取引市場の創設に向けて、経済産業省が日本でのDRをどのように展開していこうとしているのか、「ネガワット取引に関するガイドライン」から見ていきたいと思います。

さて、今回改訂が行われたということは、初版がすでに出ている訳ですが、そちらから振返ってみましょう。
2015年3月30日公開された「ネガワット取引に関するガイドライン」を策定しました~スマートな節電を行える環境整備を進めます~』によると、「エネルギー基本計画(平成26年4月閣議決定)や改訂日本再興戦略(平成26年6月閣議決定)において、ネガワット取引に関するガイドラインを策定することとされました」となっています。
エネルギー基本計画「2.エネルギー供給の効率化を促進するディマンドリスポンスの活用」では以下のように言及されていました:

ディマンドリスポンスにおける次の段階として、需要量の抑制を定量的に管理する方法が考えられている。こうした方法は、電力会社と大口需要家の間での需給調整契約という形で従来から存在しているが、こうした取組を欧米のように社会に広く定着させるためには、当該方法の効果や価値等について、電力会社等の関係者の間で認識を共有することが必要である。このため、複数の需要家のネガワット(節電容量)を束ねて取引するエネルギー利用情報管理運営者(アグリゲータ)を介すなどして、小売事業者や送配電事業者の要請に応じて需要家が需要抑制を行い、その対価として小売事業者や送配電事業者が需要家に報酬を支払う仕組みの確立に取り組んでいく。具体的には、こうしたディマンドリスポンスの効果や価値を実証し、定量的に管理できるようにしていくとともに、需要抑制の測定方法等に関するガイドラインを策定する。

また、改訂日本再興戦略では、「Ⅴ.改革のモメンタム~「改革2020」の推進~(技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出)」として以下のように言及されています。

(2)分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決
ⅱ)革新的エネルギーマネジメントシステムの確立

④主な課題・今後の取組
・VPP事業に係る有識者によりプロジェクト採択、進捗管理を行う「VPP事業委員会(仮称)」において、本年度中に実証事業の実施者を決定し、プロジェクトの実施主体や実施場所を明確化する。
・蓄電池の群制御技術等の確立に向けた取組を進めるとともに、引き続き通信規格の整備やサイバーセキュティの確保に向けた検討を進める。また、来年中のネガワット取引市場の創設に向けて「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定等を行う。

※余談になりますが、改訂日本再興戦略では、「Ⅴ.改革のモメンタム~「改革2020」の推進~」でサブタイトルが「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」とされている中でVPPが取り上げられているにもかかわらず、そして、現時点ですでに海外では1GWクラスのVPPシステムが実運用されているにもかかわらず、5年間のVPP構築実証の成果目標が「50MWクラスのVPP実運用を目指す」からには、単に蓄電池の群制御技術に長けたものとするだけではなく、再生可能エネルギーの出力を最大限有効活用する、 異種分散型電源の混合設備を用いた最先端のVPP(Mixed-asset型VPP:「VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その1」参照)の実用化を目指して欲しいと思っています。

話を元に戻すと、このような政策決定に基づき、経産省ではネガワット取引に関する有識者から成る「ネガワット取引のガイドライン作成検討会」を設置し、主に「ベースラインの設定」「需要削減量の測定方法」「契約のあり方」の3つの論点について検討・整理を行ない、2015年3月30日「ネガワット取引に関するガイドライン」(初版)公開に至っています。 これに対して、2016年5月25日、資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新産業・社会システム推進室から「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定についてで、次のようにアナウンスされています。 

  • 平成27年6月の電気事業法改正(第3弾)により、需要削減量(ネガワット量)についても、発電した電力量と同様に、一般送配電事業者が行う電力量調整供給(インバランス供給)の対象と位置付けられた。
  • 平成27年11月の「未来投資に向けた官民対話」において、平成29年中までに「類型1②(後述)」に関連したネガワット取引市場を創設するとの総理発言がなされ、事業者間の取引ルールを策定することとされた。
  • 現行の「ネガワット取引に関するガイドライン」においては、「類型1②」におけるベースラインの在り方や需要削減により売上が減少する小売電気事業者に対する売上補填の在り方が規定されていなかった。

今般、それらの点について規定するため、「ネガワット取引に関するガイドライン」を改定することとする。

また、2016年9月1日公開された「ネガワット取引に関するガイドライン」を改定しました~スマートな節電を行える環境整備を進めます~』では、改定版公開に至った経緯が次のように説明されています。

平成28年4月に有識者及び事業者から成る「ネガワットWG」を設置し、ガイドラインの改定案を検討しました。平成28年5月に開始したパブリックコメントを経て今回の改定に至るものです。

ここから、今回の改定のポイントの1つは、「官民対話」での安倍首相の宣言により2017年運用開始を余儀なくされた(?)ネガワット取引市場で、「類型1②」のネガワット取引が支障なく執り行われるようにすることだと考えられます。

そこで、日本におけるDRのベースラインを明らかにする前に、今回は、「ネガワット取引に関するガイドライン」のどこがどう変わったかを比較検証してみたいと思います。

まず、両者の目次項目を比較してみましょう。

初版と改定版の目次を横並びにすると、この表のとおり、4つの章+参考という全体構成は変わっていませんが、4ぺージ長くなっているのと、各節に2つ、あるいは3つの項目見出しが追加されています。

更に記述内容を比較してみましょう。

第1章の内容比較

初版の第1節(1)が、改定版の第1節「1.ディマンドリスポンス導入の背景」、初版の同(2)が改定版「2-1.電気料金型DR」、(3)が、「2-2.ネガワット取引」と大体同じですが、初版(1)では、DRによる需要パターンの変化として「ピーク負荷削減」のみが意識されていたのに対して、改定版では再生可能エネルギーの導入拡大に伴い電力の供給過多状態に陥った際に「需要増加」を行うのもDRであるとの認識が示されています。

ネガワット取引の類型について議論された、2014年10月30日開催の第9回制度設計WG事務局提出資料「~ネガワット取引の活用について~」によると、そもそも「ネガワット取引」とは、「DRによる需要削減量を発電した電力量と同等の価値があるものとして取引すること」と規定されていました。そのDRを、改定版では「負荷削減(=ネガワット)」の提供だけでなく、「需要増加(=ポジワット)」にも使われると拡張したため、第1節のタイトルがDRに関する新たな認識にそぐわないと判断されたのか、初版の「ネガワット取引の意義」から改定版では「ディマンドレスポンスについて」に変更されています。

それにしては、ガイドラインのタイトル自体、そして、改定版の内部でも、DRではなく、「ネガワット取引」という言葉を使用し続けている理由は、改定版の第1章第4節に追加された表を見て納得しました。

今回の改定版ガイドラインの策定範囲が、DRによる需要パターン変化の分類上、「需要削減」に関するもので、かつ契約に基づく、いわゆるインセンティブ型DRのガイドラインとなっているということです。

また改訂版2-2では、平成27年度に開催した有識者からなる「ネガワット取引の経済性等に関する検討会」が実施したネガワット取引のkWベースでの費用対効果分析の成果として、

  • ネガワット創出のためにかかる費用が約700~7,000円/kW/年(システム費、オペレーション費など)であるに対して、
  • ネガワット取引による効果が約3,500~9,000円/kW/年(現存する発電設備の維持管理の回避費用+将来建設する発電設備の投資の回避費用) である

という試算が得られ、経済性の観点からもネガワット取引に一定の意義があることが判明したことが追記されていました。

第1章第2節を比較すると、初版(1)部分が改定版「1.策定の理由」、(2)は改定版「2.策定の方針」の最初のパラグラフと同じでしたが、初版(3)の部分は、平成27年6月の電気事業法第3弾の改正を受けて全面的に書き直されており、「類型1②」のベースラインやネガワット調整金の考え方等について、今回の改定版で定められたことが示されています。

第3節では、初版(1)と、改定版「1.類型の種類」の記述は全く同じですが、改定版には参考図①が追加されわかりやすくなりました。

  • 類型1①:小売事業者が自社の需要家からネガワットを調達するもの 
  • 類型1②:小売事業者(A)が他社(X)の需要家からネガワットを調達するもの 
  • 類型2:系統運用者(一般送配電事業者)が需給調整のためにネガワットを調達するもの

ということなのですが、なぜ類型1を①と②に分けたのでしょうか? それは、追って検討することとして、第2章以降の比較に移ります。

第2章の内容比較

第1節は、初版、改定版とも表現は同じですが、ベースラインのイメージ図(下図)が追加されていました。

第2節は、初版(1)と改定版「1.標準ベースラインについて」の記述は同じですが、改定版では「2.需要家をグループ化したベースラインについて」が追加されています。 もともと、ベースラインとは、DR発動時間帯の需要家の需要予測値の集まりに過ぎませんが、ユニークな日負荷曲線の需要家が複数集まることでユニークさが均され、よりベースラインとして正確な予測値になることが期待でき、良い方法だと思います。また、マンションの住民を束ねた高圧一括受電にもうまく使えそうです。

第2節の構成は、それ以降変更されており、初版(2)~(4)は改定版ではなくなっていました。

第3節では、初版の第3節全体が、改定版では「第3節 ベースラインの設定方法」の「1.反応時間・持続時間が比較的短いDRのベースライン」として記載されています。

#今回は、内容紹介ではなく、内容比較が目的ですので、中身には触れません。

そして、初版の第4節の「1. 標準ベースライン」部分が、改定版では「第3節 ベースラインの設定方法」の「2.反応時間・持続時間が比較的長いDRのベースライン」の「2-1.設定の方針」と「2-2.標準ベースラインの設定方法」として記載され、初版の第4節の「2.1.ベースラインテスト」部分は、改定版では「2-3.ベースラインテストの実施」となっています。初版「2.2.代替ベースラインが認められる場合」の記述は、改定版では「2-4.代替ベースライン」に相当しますが、初版とほぼ同じ内容が、改定版では「①類型1①、類型2の場合」として記載されており、新たに「②類型1②の場合」の説明が加えられているのと、参考図④として、ベースラインの設定フローの図が追加されていました。

続いて、初版第4節の最後の部分「2.3.代替ベースラインの種類」は、ほぼそのまま改定版では「2-4.代替ベースライン」の「(2)代替ベースラインの種類」に引き継がれていますが、改定版では「2-5.確定数量契約の場合」として、「小売と需要家との間で事前に決めた量(確定数量)のとおりに小売供給 する契約)が結ばれている場合は、確定数量をベースラインとして採用する」というルールが新たに追加されていました。

第3章の内容比較  

細かな表現で異なる部分はありましたが、初版、改定版でほぼ同じです。

第4章の内容比較

第1節の内容はほぼ同じでしたが、3項目が初版は「3.小売電気事業者への補填」となっていたものが、改定版では「3.類型1②における小売X(参考図②参照)へのネガワット調整金の支払い」というタイトルとなり、類型1②のネガワット調整金に関する記述が追加されていました。

第2節は、初版では「1.類型1の場合(需要削減量の買い手が小売電気事業者の場合)」、「2.類型2の場合(需要削減量の買い手が系統運用者の場合)」という構成になっていましたが、改定版では、「1.需要家やアグリゲーターに支払われる報酬(基本報酬及び従量報酬)」、「2.需要家やアグリゲーターに課されるペナルティ」それぞれの中に「(1)類型1の場合」と「(2)類型2の場合」の説明が入り、かつ、「3.類型1②における小売X(参考図②参照)へのネガワット調整金の支払い」の説明が追加されていました。

参考の比較

この部分は、初版、改定版全く同じでした。

 

以上、今回は、「ネガワット取引に関するガイドライン」の初版と改定版の違いについてご紹介しました。

終わり

トランザクティブエネルギーに関する新たな動き-その2

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Holly Lodge, Lynn Road

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昨年7月、米国標準技術研究所(NIST)が立ち上げたTEチャレンジの概要をご紹介しました。 ざっと復習すると、NISTの思惑は次の通りでした。 

  • 近年の再生可能エネルギー利用増加は、従来の計画経済主義的な電力需給の仕組みの重大な欠陥を露呈させた 
  • 米国エネルギー省(DOE)内に設けられたGridwiseアーキテクチャ会議(Gridwise Architecture Council:GWAC)が公表したトランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)のフレームワークは、この問題解決の可能性を秘めている 
  • GWACによるTEの定義は以下のとおり:

TEとは、従来の計画ベースの電力需給システムではなく、電力供給者・消費者の「価値」を基準とし、経済主義的な制御メカニズムによって需給バランスを保とうとする、新しいアプローチ 

  • しかし、TEが再エネ大量導入に起因する系統問題解決の切り札となるかどうかはまだ確証が得られていない
  • そこで、この従来の電力供給の仕組みを代替する方式のインパクトを調査し、市場ベースで電力需給を取り仕切るシステムの実現可能性を技術開発者や政策決定者が評価するため、新たに企画されたプロジェクトの名称が、「Transactive Energy Modeling and Simulation Challenge for the Smart Grid:トランザクティブエネルギーのスマートグリッドに向けたモデリング&シミュレーションへの挑戦」(略称「TEチャレンジ」)である 
  • TEチャレンジ・プロジェクトの1つの目的は、未来の電力需給システムを研究する研究者や企業だけでなく、現在電力ビジネスに携わっている、系統運用者、電力事業者その他の関係者に、新たな電力供給システムのモデリングとシミュレーションを実施するプラットフォームを提供することにある 
  • もう1つの目的は、再エネ大量導入で露呈した現在の系統制御メカニズムの問題解決にTEのアプローチを適用してみることである 
  • また、TEチャレンジの目標は、電力業界関係者が、TEを「非現実的」、「絵に描いた餅」として退けるのではなく、TEの可能性を理解し、実際にTEを試行してみようという気にさせることである

2015年9月10日、公式にTEチャレンジのキックオフミーティングが実施されました。ミーティングの中でトランザクティブエネルギー(TE)とは何かについて説明したのは、米国パシフィックノースウェスト国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory:PNNL)のRon Melton氏でした。その時は、なぜトランザクティブエネルギー協会(Transactive Energy Association:TEA)のEdward Cazalet氏ではなく、Melton氏がTEの説明をしたのか不思議に思ったのですが、調べてみると、いろいろ見えてきました。 2011年5月、米国エネルギー省(DOE)が先進的なスマートグリッド・ソリューションの相互運用性を確保するため有識者を集めて設立した産学協同の諮問機関である「GridWiseアーキテクチャ協会(GridWise Architecture Council:GWAC)」がTEに関するワークショップを開催しています。その議事録のIntroductionの章に掲載されたワークショップ参加者の写真で、Cazalet氏とともに前列で写っており、まずMelton氏がTE創成メンバの1人であることがわかりました。
Grid-Interop Forum 2011で、Edward Cazalet氏が「Automated Transactive Energy(TeMIX)」について発表していますが、これは、OASISが策定したEI(Energy Interoperation)1.0標準のうち、自動DRに関連する部分に関して相互運用性を担保した標準OpenADRが作られたように、OASISが策定したEI(Energy Interoperation)1.0標準とeMIX情報モデルをベースとして自動TEに関するサブセット標準となっています。
これが、TEに関するトップダウンのアプローチだとすると、TEのアイデアを実装し、実証実験で確認してきた、トランザクティブエネルギーを実現するアルゴリズムに関するボトムアップのアプローチが、Ron Melton氏らがPacific Northwest Smart Grid Regional Demonstration Project(略称PNW)で進めてきたものと捉えて良いように思います。
ブログ「トランザクティブエネルギー-その5」でもご紹介させていただきましたが、「Transactive Energy Case Study」の資料では、上記のRon Melton氏がTEのCase Studyとして、PNWを紹介しています。

なお、キックオフミーティングでは、以下のとおり、今後のTEチャレンジのスケジュールがアナウンスされていました。 

  • 2015年12月:中間レビューと、チーム編成ミーティング 
  • 2016年4月:第1回サミットEXPOの実施と報告 
  • 2016年9月:第2回サミットEXPOの実施と報告

そして先月、キックオフミーティングにオンラインで参加していた筆者に以下の文面のメールが届きました。

Dear TE Challenge partners and interested TE supporters,

The NIST TE Challenge has completed its first year (Phase I) and we are celebrating that with a Capstone program at NIST on September 20-21. We will present the accomplishments of this first year and present plans for our 2017 Phase II. The work products of the Phase I team efforts are posted online at our Collaboration Site Community page. Updates on the work products and progress since our May Portland meeting will be presented. Additional work to be presented includes the draft results of a recent effort to develop a co-simulation reference architecture and defined simulation reference grid, scenario and metrics.

Phase II of our TE Challenge will launch formally in early 2017, with some outreach and other activities over the next several months. The TE Challenge goals are fundamentally consistent across Phase I and Phase II: build up simulation tools, identify reference components, collaborate and communicate in order to build community, and work toward applying knowledge gained to TE demonstrations. In Phase II, however, the focus shifts from laying the intellectual groundwork for understanding TE to analytically modeling and demonstrating TE concepts.

We hope many of you will engage in the Challenge and join us in Gaithersburg next month. Consider participating in Phase II. Come to find out more about Phase II and provide input on our plans. Pass this email on to others who might be interested. Thanks for your involvement!

Please visit our Sep 20-21 Capstone Event Page for more information and Registration.

開始後1年が経過したTEチャレンジの成果報告会の案内です。

当初のスケジュールでは「第2回サミットEXPOの実施と報告」となっていましたが、今回のアナウンスによると、NIST TEチャレンジのフェーズⅠ完了を祝うキャップストーンプログラムという名称で、9月20-21日、NISTの本拠地で執り行われるようです。 残念ながら今回も現地参加は叶いませんが、もし今回もオンラインで参加できるようなら、おって、その状況をブログでお伝えします。

終わり

P.S.

NIST関連で、もう1つおまけのお知らせです。

SGIPから「Green Button」ならぬ、「Orange Button」に関するWebinarの案内がありました。日本時間で8月31日の午前2時~3時という時間帯なので、実際に参加できるかどうか自信はないですが、エントリーはしておいたので、後で資料が手に入れば、これもご紹介できると思います。

まだ、どんなものか、まだよくは調べてはいないのですが、Webinarの案内文によると、下記のとおり太陽光発電がらみのようです。

SGIP, the SunSpec Alliance, NREL, and kWh Analytics are collaborating with solar industry participants to deliver on the Orange Button initiative. The program had its formal kickoff at Intersolar in July and is now underway.

また、SGIPのWEBサイトにもすでに「Orange Button」のページができているようです。

ネガワット取引ガイドラインとDRベースライン-その2

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前々回、経産省より9月1日付けで公開された「ネガワット取引ガイドライン」改定が、初版からどのように変わったのか比較してみました。

要約すると、

  • これまで「ネガワット取引」というと、主に電力会社が需要家から提供されるDR資源をアグリゲータから調達すること(ガイドライン中の言葉にすると類型2)を指していたが、
  • 「官民対話」(2015年11月)での安倍首相の宣言により2017年のネガワット取引市場運用開始を余儀なく(?)され、
  • ネガワット取引市場では、小売電気事業者が、電源調達の一環としてアグリゲータからDR資源を調達する(同じくガイドライン中の言葉にすると類型1)ことが考えられますが、
  • その場合、小売電気事業者Aがアグリゲータを介して、自社が電力供給する需要家からDR資源を調達する(類型1①)場合と、
  • 小売電気事業者Aとは別の、小売電気事業者Xから電力供給を受ける需要家のDR資源を調達するアグリゲータを介してネガワットを調達する(類型1②)場合が考えらます。
  • この類型1②のケースで、小売電気事業者Xが電力供給する需要家の負荷をアグリゲータによって勝手に制御されてしまうと、供給対象の需要家の需要予想を基にした計画値同時同量のバランスが崩れてしまうので、
  • 送配電事業者は、小売電気事業者Xに、インバランスを起こした責任者として、不当にペナルティを課してしまう可能性が出てきます。
  • かてて加えて、小売電気事業者Xの需要家がアグリゲータからの制御で需要を減らせば、小売電気事業者Xが需要家から期待していただけの電気料金が入らず、売上高が減少します。
  • そこで、小売電気事業者Xが不利益を被らないように、小売電気事業者Xとアグリゲータの間でネガワット調整金等の契約を結ぶなど、類型1②のDR調達パターンにおいて、一定のガイドラインを示す目的で改定された

ということだったと思います。

※言葉にすると、複雑でよくわからなくなってしまいますが、第2回ERAB検討会の資料4「ネガワット取引の経済性等に関する検討会概要」類型1②の小売電気事業者A、Xとアグリゲータの関係については、以下の絵でご確認ください。

図. 類型1②の取引フローの一例

前々回のネガワット取引に関するガイドライン改定版のご紹介では、初版との差分に注目し、具体的な内容には触れませんでした。そこで、今回は、どのように変わったのか、内容を見てみようと思います。

ちょうど、9月14日開催された第4回ERAB検討会資料6:ネガワットWGからの報告を見ると、改定のポイントは、大きく2点あるようです:

改定ポイント1:類型1②のベースラインの設定方法

  • 標準ベースラインの改定 
  • ベースラインの選択フローの変更
  • 需要家のグループ化の容認
  • 確定数量契約の場合のベースライン

改定ポイント2:ネガワット調整金

  • ネガワット調整金の額の決定タイミング 
  • ネガワット調整金の額の計算方法
  • ネガワット調整金の支払いタイミング

では、これらの改定ポイントに関連して、ネガワット取引に関するガイドラインがどのように改定されたか、中身を具体的に見てみましょう。 

第1章第3節「1.類型の種類」

ここで、DR資源調達パターンとして、類型1、類型2、そして類型1を更に①②に区別し、表現が固いですが「一の小売電気事業者が他の小売電気事業者の需要家によって生み出された需要削減量を調達するもの」のことを類型1②として定義しています。 

第1章第3節「2.適用の範囲」

ここで、類型1②に関して「本類型では、売り手となるネガワット事業者(アグリゲーター又は需要家)が計画値同時同量の主体となり、また、ネガワット取引の当事者ではない、需要削減を行う需要家と電力供給契約を結んでいる小売電気事業者「小売X」がネガワット取引による影響を受けることとなる。そのため、類型1①に比して正確性と公平性がより強く求められるため、本ガイドラインの活用が特に強く期待される。」との記載があります。
上図の取引フロー例でいうと、「小売X」が計画時同時同量の主体で、かつアグリゲータによって負荷制御のかかることを知らされていなかった場合、需要側の計画値100に対して需要実績は80なので、インバランスが発生したと判定されますが、「小売X」の需要家からDR資源調達を行なうアグリゲータを計画値同時同量の主体とすることで、「小売X」がインバランスの責めを受けないようにするということですね。 

第2章第2節「2.需要家をグループ化したベースラインについて」

この「需要家をグループ化したベースライン」という記述は、類型1②のために考えられたものではなく、類型1、2に適用可能な、改定版で新たに追加された考え方ですが、類型1②に関して、(当然ですが)以下のような制約条件を付しています:「ただし、類型1②においては、グループ化の対象は、同一の小売電気事業者と小売契約をしている需要家とする。」 

第2章第3節「2-2.標準ベースラインの設定方法」

反応時間・持続時間が比較的短いDRのベースラインは、事前・事後計測の考え方によって設定するものとし、代替ベースラインは定めないこととする。」ということで、初版と変わっていませんが、反応時間・持続時間が比較的長いDRのベースラインとして標準ベースラインを採用する場合、ベースラインの当日調整対象データに関して類型1②に関する考慮が示されています。
すなわち「(1)DR実施日が平日の場合」および「(2)DR実施日が土曜日・日曜日・祝日の場合」の②において、通常は標準ベースラインの当日調整値として「DR実施時間の4時間前から1時間前までの30分単位の6コマについて、「(DR実施日当日の需要量)-(上記①の算出方法により算出された値)」の平均値を算出」した値が用いられますが、類型1②のアグリゲータは、「5時間前から2時間前までの30分単位の6コマ」とするように指示されています。
その理由として、アグリゲータも計画値同時同量の主体として、実需給の1時間前に需要抑制計画と、図.1の「小売X」の需要家のようなアグリゲータ配下の全需要家の需要合計に関するベースライン提出が必要なため-とされています。 4時間前から1時間前の需要家のデータが確定したところで、そのデータを基に需要家のベースラインを計算していたのでは、1時間前にアグリゲータとしてのベースラインの提出は不可能ですので、当然と言えば当然ですが。 

第2章第3節「2-3.ベースラインテストの実施」

「(3)基本方針」-「①類型1の場合」に、べースラインテストを実施せず代替ベースラインを適用する例外則として、類型1②に関して、「小売Xとネガワット事業者が合意した場合には、後述の代替ベースラインによることも可能とする」という記述が追加されています。

また「(4)実施方法」において、ベースラインテストの実施主体はネガワット事業者(アグリゲータ)で、テスト結果の検証・承認者として、類型1②の場合は「小売X」であることが記載されています。 

第2章第3節「2-4.代替ベースライン」

「(1)代替ベースラインが認められる場合」の中で、類型1②について、以下の通り規定されています。

a) 2-3のベースラインテストで不合格(誤差が20%超)か、標準ベースラインの当日調整計算に時間がかかり、配下の需要家の需要の総和としての、アグリゲータとしてのベースラインを実需給の1時間前までに提出できない場合、以下の条件で代替ベースラインの採用を認める。

• 設定を希望する代替ベースラインについてベースラインテストを行った結果、誤差が20%以下 
• 小売Xとネガワット事業者の間で合意したベースラインを設定する
  ※ ベースラインに関し合意が得られない場合は、当該需要家に関し当該類型におけるネガワット取引を実施できないことも想定される
• 設定を希望する代替ベースラインがない時は、小売Xとネガワット事業者の間で合意したベースラインを設定する
 ※ベースラインに関し合意が得られない場合は、当該需要家に関し当該類型におけるネガワット取引を実施できないことも想定される

b) 標準ベースラインについてベースラインテストを行った結果、誤差が20%以下であっても、設定を希望する代替ベースラインについてベースラインテストを行った結果、誤差が標準ベースラインよりも小さい時は、設定を希望する代替ベースラインを設定するものとする。誤差が標準ベースラインよりも大きい場合は、標準ベースライン若しくは小売Xとネガワット事業者の間で合意したベースラインを設定する。
 
c) なお、代替ベースラインを設定するに当たっては、ベースラインの算出に用いる時間帯の需要を意図的に増やすことで、ベースラインを本来よりも高く設定し、収益の増加を狙う行為の懸念がないか等について慎重に検討を行うものとする。
 
類型1②の場合のベースライン選定のまとめとして、以下のフロー図も掲載されています。
 

また、「(2)代替ベースラインの種類」では、類型1②では、代替ベースラインとして、「②同等日採用法」、「③事前計測」、ならびに「④発電機等計測」は認めず「①High4of5(当日調整なし)」のみとなっていました。 

第2章第3節「2-5.確定数量契約の場合」

「需要家をグループ化したベースライン」は、類型1、2に関係なく採用できるようですが、確定数量契約に基づく代替ベースラインは、類型1②のみのようです:
類型1②において、小売Xと需要削減を行う需要家との間で、確定数量契約(小売と需要家との間で事前に決めた量(確定数量)のとおりに小売供給する契約)が結ばれている場合は、確定数量をベースラインとして採用するものとする。

第3章第2節「需要削減量の測定方法についての基本的な考え方」

類型1②の場合は小売Xに対して遅くともネガワット取引の精算に間に合うよう需要データを提出することが求められています。

以上が、類型1②のベースラインに関連する記述です。 

第4章第1節「ネガワット取引において定めるべきその他の事項」

「3.類型1②における小売Xへのネガワット調整金の支払い」の項に、実際にどのように解決するかまでは触れていませんが、以下のように記述されています。

類型1②において、需要削減が実施されると、小売Xの需要家に対する小売供給量が減少することから、小売Xは需要削減分の電気の調達費用を回収できない。一方、ネガワット事業者は当該需要削減分の電気を活用してビジネスを行うこととなる。そのため、小売Xとネガワット事業者との間に生じる費用と便益の不一致を調整するべく、ネガワット事業者が小売Xに対して支払う調整金(ネガワット調整金)について契約において規定する必要がある。

第4章第2節「その他の事項に関する基本的な考え方」

「3.類型1②における小売Xへのネガワット調整金の支払い」の項に、以下の考え方が示されています。

ネガワット事業者が、小売Xに対して、需要削減量に応じてネガワット調整金を支払うものである。ここでは海外事例等も踏まえ、①ネガワット調整金の額の決定のタイミング、②ネガワット調整金の額の計算方法、③ネガワット調整金の支払いタイミングについて、以下のとおり例示するものとする。なお、小売Xと需要削減を行う需要家との間で確定数量契約が結ばれている場合は、小売Xは需要削減分の電気の調達費用も回収できることから、アグリゲータによるネガワット調整金の支払いは不要である。

① ネガワット調整金の額の決定のタイミング

  DR発動前

② ネガワット調整金の額の計算方法以下の4パターンを選択肢として例示する。

a) 電力料金単価(実績値)-託送料金:DR対象の需要家の実際の小売価格から託送料金を引いた価格

b) 電力料金単価(参考値)-託送料金:DR対象の需要家の想定の小売価格から託送料金を引いた価格

    ※参考値例:旧一般電気事業者の小売部門が公表している単価

c) 一般社団法人日本卸電力取引所の平均価格

なお、計算条件は以下のとおりとする。 
• 採用データ(スポット市場)

  システムプライス、エリアプライスのいずれか
  ※ 需要削減を実施する需要家が所在するエリアの価格
• 算出単位(区分)と計算方法
  以下の区分毎に算出するものとする。
  ・ピーク時:夏季の平日(土曜日も含む)の10時から17時 夏季=7/1~9/30
  ・非ピーク時・昼:ピーク時を除く平日(土曜日を含む)の8時~22時
  ・非ピーク時・夜:ピーク時、非ピーク時・昼を除く時間
  → 上記3つの区分では以下のいずれかの計算方法を採用
   1) 同一区分の過去5日間の平均値
     ※季節の始めについては、昨年度に遡る場合もありえる。
  2) 同一区分の昨年度の平均値
・区分なしとする場合は、過去5日間の平均値又は昨年度の平均値を採用

d) 一般社団法人日本卸電力取引所のDR実施時間のスポット市場価格

③ ネガワット調整金の支払いタイミングインバランス精算と同じタイミング

上記①~③に関しては、小売Xとネガワット事業者が協議し、上記に挙げたもの以外の内容にてネガワット調整金を支払うことも妨げない。

 

類型1②での調整金支払いに関しては、4パターンの他に、最後のセンテンスに「上記に挙げたもの以外の内容にてネガワット調整金を支払うことも妨げない」とあり、ガイドラインとしては選択肢が多くて、いったいどうすればよいのか迷ってしまいます。海外事例を踏まえた結果、このようなパターンが列挙されているようですが、海外では実際どのように当事者間で問題解決が図られたのでしょうか?
あるいは、今回ご紹介したように規制機関がガイドラインのようなものを作成しているのでしょうか?

次回は、「類型1②」のパターンのDRビジネスについて、海外の状況/事例を自分でも調査し、ご紹介したいと思います。

終わり

KNX関連イベント開催のお知らせ

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Sneaton Castle

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最近、なかなか時間が取れず、久しぶりのブログ更新ですが、本日は、KNXの話題です。

昨年は、KNXの前身であるEIB(European Installation Bus)が欧州で使われ始めて25周年ということで、日本を含め全世界36カ国で合計53の同時記念イベントを開催させていただきましたが、今年は、建物・施設内の照明、空調、防犯設備等を管理及び制御の標準化を目指すLonMARK Japan様のセミナーであるLMS2016に「共賛」という形で参加させていただくことになりました。

本年度のセミナーのテーマは、「マルチベンダーIoTの新時代に向けて」ということで、「設備システムのセキュリティ問題」と「標準化の現状と実用化事例」に焦点を当てたセミナーとなっています。

特別講演はJDCC・GUTPファシリティインフラWG:粕谷貴司様
一般講演には、LonMark International:Ron Bernstein様、新菱冷熱工業株式会社:金子寛明様、日本マイクロソフト株式会社:清水宏之様とともに、日本KNX協会から新谷が「KNX IoTとセキュリティ」と題してKNXの最新動向をご紹介させていただくことになりました。

開催日時と場所ですが、11月29日(火)、国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟304号室(〒151-0052東京都渋谷区代々木神園町3-1)にて、13時開会となります。 まだお席に余裕がありますので、今年度のセミナーテーマである「マルチベンダーIoTの新時代に向けて」にご興味を持ちの方は、LMS2016東京セミナー案内状(ココをクリックしてご確認ください)をご覧いただき、お申込み・ご参加くださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

終わり

 

ネガワット取引ガイドラインとDRベースライン-その3

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Taunton: North Street

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ずいぶん時間が経ってしまいましたが、前々回の続きで「ネガワット取引関するガイドライン」改定で改定された部分(=類型1②に関するDR実施時間帯のベースラインの記述)について考えています。

まず、復習です。類型1②とは何か?

経済産業省は、平成28 年4 月に電気事業法等の一部を改正する法律が施行されることに伴い、公正取引委員会と共同して「適正な電力取引についての指針」を改定しました。その第二部「適正な電力取引についての指針」中に「Ⅲ ネガワット取引分野における適正な電力取引の在り方」という章が新たに設けられ、注として以下のように記載されています。

ネガワット取引には、小売電気事業者が同時同量達成のために、需要抑制により得られた電気を調達するもの(類型1)と、一般送配電事業者(系統運用者)が需給調整のために、需要抑制により得られた電気を 調達するもの(類型2)の大きく二つの類型が存在する。 次に類型1は、一の小売電気事業者が自己の需要家の需要抑制により得られた電気を調達するもの(類型1①)と、一の小売電気事業者が他の小売電気事業者の需要家の需要抑制により得られた電気を調達するもの(類型1②)の二つの類型に分類される。 さらに類型1②は、ネガワット取引に関する諸条件について、ネガワット事業者、供給元小売電気事業者及び需要家が事前に協議するパターン(直接協議スキーム)、第三者がネガワット事業者と供給元小売電気事業者の間の仲介を行うパターン(第三者仲介スキーム)並びに供給元小売電気事業者及び需要家が確定数量契約を締結するパターン(確定数量契約スキーム)の三つに分かれる

ここから、「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定版(以降、改定版)では、類型1②のうち、ネガワット事業者、供給元小売電気事業者及び需要家が事前に協議する直接協議スキームに関して「適正なネガワット取引についての指針」に基づいたルールが追加されたということがわかりました。
また、類型1②の確定数量契約に関して、第3節「2-2.標準ベースラインの設定方法」、「2-4.代替ベースライン」とは別に、「2-5.確定数量契約の場合」として、類型1②でアグリゲータとDR資源提供者である需要家の間で確定数量契約を締結した場合は、その確定数量をベースラインとしてよいことが記載されています。
類型1②でも、第三者がネガワット事業者と供給元小売電気事業者の間の仲介を行うパターン(第三者仲介スキーム)の場合は、第三者の仲介に任せる。すなわち、改定版では明確に言及されていませんが、例えば、日本卸電力取引所(JEPX)でネガワットを取り扱う場合は、JEPXがルールを別途定めるということでしょうか?

さて、類型1②に関して、改定版でも、第3節の「1. 類型の種類」で、「適正な電力取引についての指針」とまったく同様に定義されているのですが、「一の小売電気事業者が…」という表現が固すぎるので、同じく改定版に掲載された下図の例で、何が類型1②なのか、確認しておきましょう。

アグリゲータが、買い手(図中「小売A」)と小売契約のない需要家X(「小売X」から電力供給を受けている)のDR資源を束ねて、小売Aにネガワットを提供する取引パターンを類型1②としていることがわかります。

米国でのDRビジネスで考えると、PG&Eのような電力会社の下、電力会社自身が実施しようとするDRプログラムを代行する形でComvergeのようなDRアグリゲータが(当該電力会社から電力供給を受ける)需要家からネガワットを調達する形(類型1①)と、PJMのような系統運用者が需給バランスをとるためにDRを大口需要家やDRアグリゲータから調達するタイプ(類型2)がありましたが、今まで類型1②のようなパターンがあったのか、恥ずかしながら、あまり気にしたことがありませんでした。

では、改定版で類型1②の場合のベースラインと協議スキームとして何が記載されているのかを確認しましょう:

  • 類型1②の場合、とりうるベースラインは、標準ベースラインか、標準ベースラインから当日調整部分の計算を割愛した「代替ベースライン①」、そして、(確定数量契約の需要家に限ってですが)確定数量をベースラインとする3つのいずれかで、
  • 類型1②のアグリゲータに該当するネガワット事業者は、標準ベースラインの場合、当日調整の計算に、4時間前~1時間前ではなく、5時間前~2時間前の計測値を使う。
  • 類型1②の場合、「小売X」に代わって、アグリゲータが計画値同時同量の主体となるので、アグリゲータからの負荷削減要求に「小売X」の需要家が応じられなかった場合を含めて、インバランスのペナルティはアグリゲータに課される。
  • アグリゲータが「小売X」の需要家からDR資源を調達し「小売A」に提供することにより「小売X」が被る損失を、「ネガワット調整金」としてアグリゲータは「小売X」に支払うべきで、
  • その額は、「小売X」の需要家に対してDRを発動する前に定める。
  • 「ネガワット調整金」の額の算定方法については、4種類の考え方を例示するが、当事者間(アグリゲータと「小売X」間)で了解が得られるなら、それ以外の考えに従ってもよい。
  • その4種類の算定方法とは、以下の通り:

① 電力料金単価(実績値)-託送料金
② 電力料金単価(参考値)-託送料金
③ 日本卸電力取引所の平均価格
④ 日本卸電力取引所のDR実施時間のスポット市場価格

となっています。

ところで、上記の4種類の調整金額の考え方のうち、いったいどれが「おすすめ」なのでしょうか?

①と②は、アグリゲータが「小売X」の需要家にDRを発動したことで、本来需要家に電気を売って得られたはずの収入を保証する。その際「小売X」の需要家への送電託送料金も少なくなったはずだから、その託送料金分は差し引くという考えのようです。
結構、細かいですね。その割には、②は、電力料金単価には参考値を用いるという大雑把な点で、考え方の統一性がないように感じます。

これに対して、③と④は、託送料金分を無視しています。そして電力料金単価にJEPXでの取引情報を利用しようとしていますが、ルールとしては記述があいまいである気がします。
特に、④に関しては、「スポット市場価格」と限定していますが、③の「日本卸電力取引所の平均価格」というのも「スポット市場価格」を想定しているのか?それとも、例えば「時間前市場」でDR実施直前の30分間の平均取引価格を採用するのか?というようなことがわかりません。「スポット価格」を採用する場合も、因みに「スポット市場 ─ 2016年12月07日受渡分の取引情報」をJEPXのホームページで調べると、DA-24:\9.25/kWh、DA-DT:\10.37/kWh、DA-PT:\10.61/kWhとなっていましたが、DA-24(一日24時間まとめた取引)、DA-DT(昼間の時間帯の取引)、DA-PT(ピーク時間帯の取引)のうち、どの取引の価格を採用するのでしょうか?真夏のピーク負荷削減のためのネガワット調達ならDA-PTですが。。。

そこで、

  • 海外では類型1②のようなケースをどのように考え、調整金が支払われているのか?
  • あるいは、類型1②のガイドラインのように、規制機関が制度化あるいはガイドラインのようなものを作成・指導しているのか?

ということで、DR資源調達パターンが類型1②に相当するネガワット調整金に言及している資料を調査したのですが。。。

前々回のブログをアップしてから、結構このリサーチに時間を費やしたのですが、欧州での関連資料は見つかったものの、米国での関連資料がなかなか見つかりません。
そこで、とりあえず、見つかった資料をいくつかご紹介します。

1) Designing fair and equitable market rules for demand response aggregation

欧州電力業界の利害関係者で構成される欧州電気事業者連盟(Union of the Electricity Industry –EURELECTRIC)が2015年3月に公開した、全24ぺージの資料。

2)Demand Response, Aggregation, and the Network Code for Electricity Balancing

Regulatory Assistance Project (RAP)という、クリーンで信頼性が高く、かつ、効率的なエネルギーの未来の実現を目指す、電力会社、環境保護団体、系統運用者、政策決定者など電力業界に携わってきたメンバから構成されたNPO組織が2015年5月に公開した、全13ページの資料。

3)Discussion of different arrangements for aggregation of demand response in the Nordic market – February 2016

Nordic Energy Regulators(NordREG)という北欧4か国のエネルギー規制機関の団体が2016年2月に公開した、全20ページの資料。

一応、すべてザッと目を通してみたのですが、3番目の資料が、類型1②のアグリゲータに相当する独立DRアグリゲータ(independent aggregator:IAと呼ぶことにします)が市場参加する形態を含めて、バランシンググループと実需給結果の精算についていくつかのパターンを検討しています。

日本での類型1②と比較する上で参考になるかと思い、この資料をベースに、そこで参照している資料や、別途調査した資料を交えてご紹介することにしました。
例によって、全訳ではないことと、個人的な見解含みの超訳になってしまっているかもしれないことはご承知おきください。 では、はじめます。

北欧市場でのDRアグリゲーションに関する異なる協定についての妥当性の検討 -2016年2月

本レポートで、NordREGは、DRアグリゲータが関わる4つの異なるモデルを分析し、バランシンググループ(原文はBalancing Responsible Party : BRP)と実需給結果のインバランス精算との関連について議論する。

近年、ICT技術の進歩により遠隔で直接需要家の負荷制御を実現するためのコストが低減し、かつ、出力変動の大きな再生可能エネルギーの大量導入に伴い、系統の需給バランスに柔軟性をもたらす「電源」としてDRに注目が集まるようになってきた。

欧州委員会(EC)のスマートグリッドタスクフォース(SGTF)は、2015年1月、「Regulatory Recommendations for the Deployment of Flexibility(柔軟性を進展させるための規制勧告)」と題する報告書を発表。その中で、アグリゲータの市場参入阻害要因を分析し、解決策の1つとして、電力小売事業者(サプライヤ)や、サプライヤが所属するBRPと、独立のDRアグリゲータ(IA)がうまくビジネス展開できるようにする必要性が示されている。IAについては、2015年9月の「Regulatory Recommendations for the Deployment of Flexibility – Refinement of recommendations(柔軟性を進展させるため、更に洗練化した規制勧告)」でも追求されている。

ところで、IAの市場参入を実現させるには、1つ大きな問題がある。
IAがDR資源提供を受ける需要家に電力供給を行なうサプライヤが属するBRPと、IAが属するBRPが同じとは限らないので、場合によっては2つのBRP間でインバランスの調整が必要になることである。送電事業者(TSO)も、IAがDR資源を調達した需要家へのサプライヤが属するBRPのインバランスに関して、どのように精算すればよいか検討が必要となるし、IAのDR発動によって需要量が減る(したがって売り上げが減る)サプライヤに対して、IAがどのように売上損失補償金を支払うかも考えなくてはならない。

以下では、DRアグリゲータが絡む4つのアグリゲーションビジネスモデルについて、BRPとの関係とインバランス精算の観点で分析・評価を行なうが、その前に北欧でのDRアグリゲーションビジネスにかかわるプレーヤと、その役割、そして電力取引結果の精算手続きを確認しておこう。


出所:Regulatory Recommendations for the Deployment of Flexibility

  • 電力卸売市場に参加するためには、すべての電力小売事業者(Supplier)、アグリゲータ(Aggregator)はいずれかのバランシンググループ(BRP)の傘下に入らなければならない(あるいは、自分自身がBRPであってもよい) 
  • BRPは、傘下の小売事業者、アグリゲータの発電量・需要量をまとめ需給バランスをとるために、発電事業者や卸電力取引所(Power exchange market:PX)の1日前市場/時間前市場で調達し、需給バランスをTSOに発電/需要計画として提出する 
  • BRPは、傘下のサプライヤ・アグリゲータからネガワット調達できる場合、バランシング市場でバランシングUPの「売り入札」を行なっておく 
  • TSOは、実需給においてインバランスが発生すると、ニュートラルな立場でバランシング市場に入札されていたポジワット/ネガワットの内、安いものから順に必要量を調達し、調達先に対して、バランシング市場決済価格での支払いを行なう(settlement function) 
  • BRPは、発電/需要計画と実際にBRP傘下の発電事業者や小売事業者、アグリゲータ等の実績にかい離が生じた場合、生じたインバランスに関してTSOとの間で決済を行なう(settlement function)。 ロングポジション(計画値より需要が少ない)の場合は、バランシング市場決済価格でTSOからの支払いを受け、ショートポジション(計画値より需要が多い)の場合は、バランシング市場決済価格でインバランス分を支払う

■ モデル1:サプライヤとアグリゲータが同一の場合
  (原文:one BRP-integrated)

上図は、モデル1における、情報、エネルギーおよび精算の流れを示したものである。 需要家(黄色)の負荷はDSOのメーター(茶色)で計測され、精算機能(Settlement function)を司るTSOに通知される。このモデルでは、BRP2として需給バランスをとるサプライヤ自身か、そのサプライヤに代わってアグリゲータ(いわゆるCSP:Curtailment Service provider)が、1C2~NC2の需要を制御して受け渡し可能なネガワット(A+B+C)合わせて10MWhをバランシング市場に「売り入札」し、TSOが、その10MWhのネガワットの調達を行なった(すなわち、TSOからDRが発動され場合、BRP2に対してバランシング市場価格で(A+B+C)MW分の精算が行われる。

■ モデル2a:アグリゲータがサプライヤに無断でネガワット調達する場合
 (原文:two BRPs-without adjustment)

これは、IA(BRP[independent aggregator])が、他のBRP(BRP[supplier])下の需要家から、そのBRPに断りなしに勝手にネガワット調達するモデルです。先の図(Figure no.1)でいうと、BRPxがBRP2に断りなしに、BRP2の需要家から(A+B+C)MWのネガワットを調達する形になる。

■ モデル2b:アグリゲータが提供するネガワットをTSOが調整する場合
(原文:two BRPs-with adjustment)

これは、IA(BRP X)が、他のBRP(BRP[supplier])下の需要家からのネガワット調達で生じる、当該BRPのインバランスに関して、TSOの精算機能(Settlement function)で調整するモデルとなっている。

上図の例でいうと、TSOは精算時点でBRP[supplier]の(BRP XによるDR実施で需要が減ることで生じた)供給過剰分はなかったこと(adjusted settlement position = 0)にするとともに、BRP X側の精算では、調達したネガワット(A+B+C)MWに関する支払いと、BRP[supplier]側で発生したインバランス分をBRP X側に付け替え(Reimbursement to supplier)、差額のみが支払われる。

ただし、BRP XからTSOに知らされるのはA、B、C合計のネガワット値であり、BRP1からA MW、BRP2からB MW、BRP NからC MWのネガワットを調達したという情報は知らされないので、精算時点でBRP1~BRP Nで計測された実需要に関してどれだけがBRP XのDRの影響かわからないというのが、赤の破線の矢印(Correction of <<?>> MW)の意味するところである。

■ モデル3:どのバランシンググループにも続さないアグリゲータがネガワットをTSOに提供する場合
(原文:one BRP – independent aggregator without balance responsibility)

ここまでの3つのモデルでは、IA自身がBRPもしくは、どこかのバランシンググループに所属している前提ですが、このモデルでは、IAがどのバランシンググループにも属さない。

ここまで読み進んでわかってきたのですが、北欧のバランシング市場の精算(Settlement function)では、計画値と実測値の差分をインバランス精算するにあたって、IAからのDR要請によって需要が下がり、結果的に供給量が上回ったBRPには、上回った分に対してバランシング市場決済価格での支払いが行われるようです。

図中、BRP1、BRP2、BRP Nは、IAからのDR要請で、それぞれ計画値よりA MW、B MW、C MW需要が落ち込むので、結果的に供給がその分計画値より上回ります。その結果、TSOから青の破線の矢印でBRP1からBRP Nに、それぞれA MW、B MW、C MWに対する支払いが発生しています。それと同時に、IAにもTSOから(A+B+C)MW分の支払いが行われており、その支払いの原資がどこにもなく、結論として、NordREGは、このモデルはあり得ないとしています。

■ 結論

もし消費者が快くDRを受け入れるなら、競争的電力市場はアグリゲータを介したDRを積極的に活用すべきである。
今回、1つのバランシンググループ(BRP)に複数のアグリゲータとサプライヤが属するモデル1と、その他3種類の独立したDRアグリゲータ(IA)が関わるモデルを考えたが、NordREGは、DRの実施にあたって、モデル1のパターンが1番効率的であると考える。
1つのバランシンググループ内に複数のサプライヤとアグリゲータがいると、消費者は、一番サービスのよいサプライヤとアグリゲータの組が提供する「パッケージ」を選択するだろう。DRサービスのないサプライヤや、DR資源提供の対価として価格競争力のないサービスしかできないサプライヤ/アグリゲータの組は淘汰されていくだろう。それにより最適なDRサービスが勝ち残るはずである。

IAにかかわる3種類のモデルのうち、モデル2aは北欧の電力市場では意味のないモデルである。なぜなら、IAも1つのBRPである限り、事前に手当てしていなかったネガワット(計画値=0)をバランシング市場で売った場合、精算段階で同量の電力をバランシング市場から買い戻す必要があり、結果的に何も利益を生み出さないからである。

モデル2bおよびモデル3も、モデル1と比べて致命的な欠陥がある。

モデル2bでは、個々の需要家が複数のバランシンググループに属することになるので、バランシングの責任分担を決め、分割する必要がある。コストと利益を公正で正確に分割するのは困難であり、また、サプライヤの需要家に対して実施したDRによりアグリゲータが得た利益の一部をどのようにサプライヤに還元するか制度面での検討も必要となる。

モデル3では、IAはBRPではないので、収集しTSOに提供したDR資源に対して支払われる原資がどこにもなく、いわば「ただ乗り(free-riding)」を許す結果となる。

いかがでしょうか?

モデル2bが日本の類型1②に相当しそうだと思い、ご紹介してみたのですが、 少なくとも、北欧の電力市場では、独立アグリゲータがいなくとも十分DRが機能するだろうから、わざわざ類型1②のような込み入った仕組みを導入しなくてもよいというのがNordREGの出した結論です。

北欧のバランシング市場決済メカニズムがたぶん日本の計画値同時同量に関する決済方法と異なっている?ため、結果的にあまり参考にはならないことだけがわかった感じです。折角、時間をかけて、調査してみたのですが結果がでず残念だったのですが、「ネガワット取引に関するガイドライン」改定版で説明されていた類型1②の4種類の「ネガワット調整金」の考え方のうち、いったいどれが「おすすめ」なのかに関する調査は、時間もたってしまいましたので、一旦終わりにします。

#時間的に寸断されての調査でしたので、また、北欧のバランシング市場決済に関して理解が不十分なまま読み進めたので、まだ消化不良の部分もあり、重大な思い違いや見落としがあるかもしれません。日本でいう類型2とは、実はモデル3ではないのか?と思ったりもしています。

読者諸兄のご意見をいただければ幸いです。

終わり

第四次産業革命とは何か?どう対処すればよいのか?

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WORLD ECONOMIC FORUMGlobal Agenda

The Fourth Industrial Revolution: what it means, how to respond

Written by Klaus Schwab
Founder and Executive Chairman, World Economic Forum

 

我々は、今、新たなる産業革命の波が押し寄せる波打ち際に立っている。その変革の規模、範囲、複雑さは、人類がこれまで経験したことのないものとなるだろう。 残念ながら、それがどのような展開を見せるかまだわからないが、まずは、これまで「産業革命」と呼ばれたものと何がどう違うのか考えてみよう(下図参照)

第一次産業革命では、蒸気機関の発明が、従来の手工業から機械工業に産業構造の転換を促した。第二次産業革命では、電力を用いて機械化がさらに推し進められ、大量生産が可能な工場制機械工業の形態になっていった。第三次産業革命(デジタル革命)では、エレクトロニクスと情報テクノロジー(IT)を駆使した生産の自動化が推し進められた。
現在進行中の第四次産業革命では、仮想空間(Cyber System)の高いコンピューティング能力と、実世界(Physical System)におけるセンサネットワークからのさまざまな情報を連携させて、より効率的な生産の実現が目指されている。また、人工知能、ロボティクス、IoT、自動運転車、3D印刷、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、マテリアルサイエンス、エネルギー貯蔵技術、量子コンピューティング等との融合に特徴がある。例えば、人工知能自体は以前から研究されていたが、近年の指数関数的なコンピューティングパワーの増大とビッグデータ処理技術により、新薬の開発から予測技術の精緻化まで、これまでの産業革命と比べて、様々な技術分野の交流が技術革新の速さを加速させており、今後のさらに大きな変貌を予感させるものがある。

第四次産業革命がもたらす可能性と課題

これまでの産業革命同様、第四次産業革命は、人々の所得水準・生活水準改善に貢献する可能性を秘めている。
すでに具現化されている最近の例としては、UBER(タクシーの呼び出しから料金の支払いまで、全てスマホアプリ上で済ますことができる)や、Airbnb(世界中のユニークな宿泊施設をネットやスマホ等で検索・予約できる)を挙げることができる。それ以外にも、例えば通販最大手のAmazonは「デジタル革命の申し子」として出現したネット通販の形態をとっているものの、商品を注文翌日に顧客の手元に届けるためには、実世界での配送センター拡充だけでなく、注文履歴に基づく顧客分析や、地域別・層別需要予測、それらに基づく最適な在庫管理など、バックエンドの仮想空間での処理に負うところが大きく、第四次産業革命のもたらしたサービスと捉えることができる。 今後も、効率・生産性向上で輸送と通信にかかるコストがますます低減してロジスティックスの改革が進み、経済成長が促されるものと思われる。

ただし、第4次産業革命がもたらすものが良いことずくめという訳ではない。
経済学者のErik BrynjolfssonとAndrew McAfeeが指摘しているように、この革命は、貧富の格差増大と、労働市場崩壊を招く危険性をはらんでいる。技術進歩がもたらす労働者の配置転換により、押し並べて見れば、人々がより安全で高収入の仕事に就く可能性もあるが、広く自動化が行き渡ることで、従来人手で行われてきた作業の機械化が進み、「低技術/低賃金」と「高技術/高賃金」に労働市場が2分され、中間層がなくなって、社会的緊張が高まる可能性もある。すでに、世界中で、いわゆる中産階級の人々が現状に不満を抱き、貧富の格差拡大に対して不公平感を訴えている。

第四次産業革命がもたらすビジネスインパクト

既存のニーズを満たす斬新な方法を生み出す技術が導入された結果、業界のこれまでのバリューチェーンが混乱に陥ってしまった-というのは、よくある話である。需要家側でも、昨今のモバイルネットワークの普及と、そこから得られる最新の透明性の高い情報が、新たな消費者行動のパターンを生み出し、製品・サービス供給者側は、デザイン、市場、配送および提供サービスでの対応を迫られている。
すでにAmazonの例を示したが、amazonプライムのような顧客目線のサービス提供、顧客分析や需要予測などにサイバー空間を最大限に活用した製品・サービス提供、ドローンを利用した配送など分野をまたぐイノベーション、翌日配送どころか当日配送を可能とするビジネスモデル志向、これらは全て第四次産業革命がもたらした技術の賜物と考えてもよいだろう。
単純なデジタル革命(第三次産業革命)から様々な分野の技術の融合に基づいたイノベーション(第四次産業革命)への移行が余儀なくされる中で、ビジネスリーダーには現業を見直し、ビジネス環境の変化に即応するための課題を把握して、たゆまず真摯に改革していく姿勢が必要である。

第四次産業革命がもたらす行政へのインパクト

第三次産業革命までは、行政による規制が新技術の採用と普及に関して決定的な役割を担ってきた。第四次産業革命により、単なる情報公開だけではなく、双方向の対話が可能となれば、業界・需要家は行政と向き合い、自らの意見を表明する一方で、積極的に協力するようになって、行政による規制は不要となるかもしれない。 一方で、第四次産業革命がもたらす新技術に関して、権限の競合の調停や再配分を実施する必要が減少すると、行政の在り方を変更する圧力に直面することになるだろう。
究極的に行政が生き残れるかどうかは、「規制」というトップダウンの姿勢ではなく、今後ますます多くなる創造的破壊を伴う様々な分野の新技術群に対してどのように折り合いをつけさせられるのか、透明性を担保しつつ効率的に捌く能力があるかどうかにかかっている。そのためには、行政がこれまで行ってきた「規制」は何のために必要だったのかを問い直し、急速に変貌する環境の中で、新技術に関して密接に業界・需要家と協力し、迅速にしかるべき施策を打ち出せるようになる必要がある。

第四次産業革命がもたらす人へのインパクト

第四次産業革命は、我々の生活だけでなく、我々のアイデンティティと、それに付随する問題(プライバシー、所有の概念、消費パターン、仕事と余暇に費やす時間、キャリアの積み方、技術の習得、他人との出会いと関係の構築)にまで影響を及ぼすだろう。
例えば、人体にセンサを埋め込んで活動レベルや血中成分をモニタし、「定量化された」情報を基にメンタルも含めた健康管理に利用したり、家庭や職場での生産性への影響を調べたりする研究が行われており、人間の特性や才能を強化する「人間強化」技術もやがて実用化されるだろう。
ただし、この領域では、プライバシーの問題や、バイオテクノロジーとAIがもたらすであろう人の寿命や、認知その他の素質の強化に関して、道徳的・倫理的な観点からの検討が必要である。

未来を築く

第四次産業革命の新技術、並びに、それがもたらす混乱を、人智が及ばぬものと手を拱いていてはならない。市民、消費者、投資家それぞれの立場で決断を下し、その進化を正しい方向に導く役割を果たす必要がある。そして、第四次産業革命を、我々の共通目的と価値を反映した未来に向かうよう仕向けなければならない。
しかし、そのためには、新技術がどのように我々の生活に影響を及ぼし、経済/社会/文化/人間環境を再構築するのか、グローバルで包括的な共通認識を持つ必要がある。
残念なことに、今の意志決定者は、ともすると伝統に基づいた直線的な思考に囚われすぎていたり、目前の危機に目を奪われていたりして、戦略的な対応ができないでいるが、明るい未来を築くには、「人」を第一に考える必要がある。さもないと、人間性が奪われたロボット化した人類の未来が待ち受けていることになりかねないが、逆に、第四次産業革命のもたらす技術は、想像力(creativity)/感情移入(empathy)/受託責任(stewardship)という人間性の中でも最高のパートの能力を補完して、人間性を運命共同体として道徳的な集合意識にまで高めることも夢ではない。
一人ひとりの責務である。

今回は、冒頭の挿絵の下にある通り、ジュネーブに本部を置く非営利財団の世界経済フォーラム(World Economic Forum)から、同フォーラム創始者である経済学者クラウス シュラブ氏の投稿記事:The Fourth Industrial Revolution: what it means, how to respondをご紹介しました。

これまで、ドイツ政府が推進する製造業の高度化を目指す戦略的プロジェクト:インダストリ4.0と同じくスマートグリッドとは少し遠い話題ではないかと思っていたのですが、お読みいただいた通り、第四次産業革命で話されている内容は、産業構造ばかりか、あらゆるビジネス、行政、そして我々自身にも影響するものであるということがわかりました。

なお、翻訳内容に関しては、例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。

終わり


電力自由化はこれからが本番

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Sunshine and sheep, Murton Pike

© Copyright Karl and Ali and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

はじめに

2013年4月、「電力システム改革に関する改革方針」が閣議決定され、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる改革の全体像が示された(図.1参照)。その第2段階である小売全面自由化が2016年に開始され、日本の電力自由化も最終フェーズに入っている。 今回は、日本における電力自由化の流れを振返り、現状認識するとともに、電力ビジネスの変容についても概観し、日本での電力自由化を成功裏に終わらせるためにはどのような技術的課題があるか検討する。

1.電力自由化

1995年の電気事業法改正で、日本の電力自由化が始まった。まず発電部門の規制が緩和され、IPP(独立系発電事業者)の卸電力入札が認められたのである。2000年には、「特別高圧」の電力料金が自由化され、それまでの電力会社(一般電気事業者)の他にPPS(特定電気事業者)の小売市場参入が可能となった。2003年に電力の一日前市場/当日市場を運営するJEPX(日本卸電力取引所)、2004年には連系線を経由した地域間の送電調整を行なうESCJ(電力系統利用協議会)が設立されたが、昨年4月に、ESCJの役割を継承するとともに、更に広域的需給調整を可能とするべく、OCCTO(電力広域的運営推進機関)が設立されている。また、電力小売部門は、2000年以降も段階的に自由化範囲が拡大され、2016年4月、ついに小売全面自由化が実現した。

出所:平成26年10月、経済産業省「電力システム改革の概要」
図.1 日本の電力自由化工程表

ただし、これで「電力自由化」が完了した訳ではない。かつて一般電気事業者10社と少数のPPSしかいなかった小売電気事業者数は、平成28年12月12日現在、様々な業界からの新規参入を得て372社となり、所謂「新電力」会社がひしめいている。JEPXは2016年4月から新たにザラバ仕法の1時間前市場取引も開始した。

ところが、一歩踏み込んで現状を調べると、全新電力を合わせた電力供給量は日本全体の8.0%(平成28年8月分電力需給速報)でしかなく、JEPXの電力取引量も、海外電力取引市場での取引量と比べると非常に少ない。容量市場、リアルタイム市場の創設に向けては、まだ検討中の段階である。すなわち、日本の電力自由化を成功裏に終えるためには、これからが正念場と言える。

2.電力ビジネスの変容

ところで、現在、世界各国で電力ビジネスの変容が起きている。その原因として、技術進歩に伴う電源の多様化と、系統運用の変貌があげられる。関連した政府の制度設計の影響も見過ごせない。これらは、電力自由化の目標達成にも大きくかかわるものなので、この節では、電力ビジネスがどのように変容してきたかについて確認する。

これまでの電力ビジネスは、大規模発電所で大量生産した電気という単一商品を、送配電線を経由して需要家に送り届ける、生産から販売までを一気通貫でやり通す垂直統合型のビジネスモデルであった。大規模発電の主役は水力発電から火力発電、更には原子力発電へと変遷してきたが、それと並行して、地産地消を目指す分散型電源も出現してきた。自家発と呼ばれる小規模ディーゼル発電機のようなものからコージェネ、燃料電池、そして、再生可能エネルギー(風力発電や太陽光発電)をベースとした電源が、環境対策から積極的に導入されるようになった。2003年、電力会社に一定量の再生可能エネルギーの活用を義務づけるRPS制度、2009年には、住宅用太陽光発電の余剰買取制度が制定され、更に、2012年、再生可能エネルギー特別措置法(固定価格買取制度:FIT)が制定されると、再生可能エネルギー、特に太陽光発電の導入が飛躍的に拡大した。

出所:2016年度版再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック
図.2 再生可能エネルギー設備容量の推移

ところが、初年度に設定された破格の太陽光発電固定買取価格(42円/kWh)は、太陽光発電を儲かるビジネスと捉えたプレーヤーの参入を許し(これは電力自由化が招いた悪い面でもある)、政府の制度設計時の予想を上回る太陽光発電所の系統接続申込みが殺到。その結果、送電網の容量オーバー問題が表面化した。系統への悪影響が懸念される場合には出力抑制を行なうことを条件に系統接続申請受理が再開されたが、これを契機に、出力抑制回避のための方策として、系統接続する大型蓄電池や、需要家側で個別に利用されていた蓄電池を群制御して再生可能エネルギーの過剰出力を吸収するための実証実験が行われている。また、固定買取に必要な費用は電気料金と同時に賦課金として広く国民から回収する仕組みであるため、予想以上のスピードでの太陽光発電増加に対して、高額買取を続行する場合の国民負担の増大も懸念されていたので、FIT制度自身について見直しが行われ、2017年4月から事業用太陽光発電に偏らず、コスト効率的な再エネ導入促進に資するとともに、国民負担の抑制も考慮された改正FIT法が施行される。

以上、電源に関する進展と関連制度から電力ビジネスの変容と、新たに出てきた技術的課題(下線を付けた部分)を確認したが、次に、系統運用面からの電力ビジネスの変容を見てみよう。

これまでの系統運用は、例えて言うと、川上のダムの放水量さえコントロールしておけば、川下の消費地に適量の水(電力)を届けることができるという、一方向の流れの制御を考えれば事足りていた。ところが、川の途中や川下に再生可能エネルギーという天候任せで制御の効かないものが流入し、そのまま放置するとあちこちで氾濫しかねない状況となってきた。

資本主義市場経済の中にあっても、電力ビジネスは、長期需要予測の下、発電所建設に必要な時間を見越して新しい発電所の建設/老朽発電所廃棄計画と系統設備の維持拡張計画を立て、できる限り計画通りに事を運ぶことを良しとする統制経済的な世界で生きてきた。ところが、民間のメガソーラーやウィンドファーム等の再エネ発電所が大量に系統に接続され、その出力変動に対応するための調整電源不足の問題や、下げ代問題(気象条件が良く太陽光発電や風力発電の発電量が増えた時,その増分に相当する火力発電機の出力を絞る必要があるが,各発電機は燃料,方式や機種の違いによって決まる低出力以下に出力を絞ることはできず,需要が少ない休日,夜間などの軽負荷時に出力調整できない事態に陥ること:NEDO 再生可能エネルギー技術白書より)が浮上。これらは、従来の電力供給側のみで需給バランスをとる方式の破綻を意味しており、電力ビジネスは、デマンドレスポンス(DR)に代表されるような、需要家側の協力を得て需給バランスをとる時代に入ってきたことを意味する。

この数年で市民権を得てきた「スマートグリッド」という言葉は、ICTを駆使した新しい系統制御技術と捉えられているが、それは表面的な理解でしかない。ICTを利用して実現しようとしているのは、系統上に分散配置された、様々な特性の電源(DRのような需要側資源を含む)や蓄電池を用いて、従来の川上から川下に向けての一方的な流れの制御ではなく、双方向への流れの制御を実現するところにある。もっと言えば、電力流通の根本的な仕組みを変えようというのがスマートグリッドの本質なのである。

加えて、日本の電力ビジネスの方向性を大きく変容させる出来事があった。2011年3月11日(3.11)に東日本を襲った大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は、原子力発電の安全性に対する不信を招き、以降定期点検で停止した原発の再稼働を難しくしている。2014年の第4次エネルギー基本計画は、従来の「安定供給」「経済性」「環境」に「安全性」を加えた「3E+S」を基本的視点とし、更に「国際性」「経済成長」を見据えた政策となった。そして、今後の電源ベストミックスのあり方としては、スマートグリッドの整備再生可能エネルギーの導入拡大を見据え、大規模電源と分散型電源とが有機的に連携し、最適なバランスを有するエネルギー供給システムを構築することが重要であるとされている。

2015年6月に閣議決定された『日本再興戦略』改訂2015で、「分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立する」という政策方針が固まり、2015年12月、産業競争力会議実行実現点検会合で、今後のアクションとして、VPP技術実証を2016年度から5年間の事業として実施することが決まった。

出所:経産省平成28年度経済産業省予算関連事業のPR資料: エネルギー需給構造高度化対策
図.3 バーチャルパワープラント構築事業費補助金

以上、系統運用面からの電力ビジネスの変容と、所謂3.11に起因して新たに出てきた技術的課題(下線を付けた部分)を確認した。

3.電力自由化の技術的課題

「発電・送配電・小売事業を分離し、発電事業および小売事業に新規参入を認め、市場メカニズムを導入して競争原理を働かせることによりコスト削減を図る」というのが電力自由化の目標と考えた場合、その目標達成のための課題は、発電・送配電の分離と、競争原理が機能する真の市場メカニズムの構築である。ところが、容量市場・リアルタイム市場創設に関してはまだ着地点が見えていず、更に、電力自由化を阻む2つの問題が横たわっている。1つは、「市場原理を働かせて電力調達コストを下げる」という電力自由化の目標とは真逆の、「再エネ導入促進のため電力会社に固定価格で再エネ買取義務を課した」統制経済的なFIT法。もう1つは「3.11」に起因する原発再稼働問題で、これらが電力調達コスト削減の実現を妨げている。この2つ問題と電力自由化の目標達成に向けて、どう折り合いをつけるかが最大の課題であるが、ここでは、技術面に絞って今後の課題を検討する。 

容量市場/リアルタイム市場創設における技術的課題

従来は、統制経済的環境下で粛々と長期予備力確保計画を立案・推進していけばよかったが、電力自由化で発送電分離が行われた暁には、発電事業者が目先の収益を優先して将来の供給力確保のための電源開発投資に消極的になる可能性がある。市場メカニズムの下で電源投資を促すには、容量市場を創設して電源に係る投資回収の予見性を高めることが必要である。現在、電力システム改革小委員会 制度設計ワーキンググループで調査・検討・制度設計が進められており、具体的な技術的課題が見えてくるのは、その後になる。

リアルタイム市場は、最終的な需給調整取引を行う市場であり、計画値通り需給バランスがとれない場合、リアルタイム市場での入札を通じて調整することになる。従来の電力会社(一般電気事業者)は、自社保有の調整電源を用いて最終的な需給調整、周波数調整を実施してきたが、電力自由化後は、これまでの一般電気事業者から分離してできた発電事業者以外の発電事業者を含めて系統運用者(これまでの一般電気事業者から分離してできた送配電事業者)から指令を出せるよう、リアルタイム市場取引システムと給電指令を発行するシステムを連動させた仕組みを構築する必要がある。また、連系線をまたいだ調整を行なうためには、OCCTOと、系統運用者のシステム連携が必要である。従来、発電指令には、電力会社ごとに独自のプロトコルが使われていたが、旧電力会社以外の発電事業者にも給電指令を出す必要があること、OCCTO-系統運用者間でも給電指令にあたる指示を出すことを考えると、これまで統一されていなかった給電指令のプロトコルを統一し、標準化する必要があるのではないかと思われる。また、その際、給電指令自体がハッキングされ需給バランシングが乱されないよう、必要な通信速度を確保しつつセキュリティにも対応した、通信インフラの整備が必須である。 

DRの実ビジネス化に向けての課題

古くは1990年代にNEDOでDR相当の実証実験が行われており、最近ではスマートコミュニティの4地域実証の一環で、主にCPP(Critical Peak Pricing)に代表される価格反応型DRの実証が行われてきた。これとは別にインセンティブ型DRの実証もここ数年間実施された。しかし、補助金事業としての実証期間が終了してもDRが実ビジネスとして独り立ちできる状況にあるかどうかに不安が残る。その原因の1つに、電力調達側がDR資源に対して発電機と同等の信頼を寄せていないことがあげられる。そして、価格反応型DRにしても、インセンティブ型DRにしても、これまでの実証実験結果を見ると、安心して電力調達手段として使えないと思うのは当然かもしれない。「ネガワット取引に関するガイドライン」が公開されているものの、電力調達側が安心してDR資源を利用できるようになるためには、DRの信頼性の分析・評価を行ない、インセンティブ型DRやPTR(Peak Time Rebate)で採用するベースライン算定ロジックの妥当性に関する更なる検証など、日本の風土に合った標準ベースライン、代替ベースラインを定めるため、まだ実証実験の必要な部分が残っている気がする。 

再エネ出力抑制回避のための技術的課題

系統接続する大型蓄電池や、需要家側で個別に利用されていた蓄電池を群制御して再生可能エネルギーの過剰出力を吸収するための実証実験として2016年からVPP構築実証が開始されている。

VPPシステムには、発電機の代替として給電指令に呼応して電力供給を行なうだけでなく、系統になだれ込んでくる太陽光発電などの再エネ発電所の電力を吸収し需給バランスをとるための系統用大型蓄電池を代替することも期待されている。まだ実証実験は始まったばかりなので、具体的な技術的課題が見えてくるのは、この後になるが、再エネ出力を最大限利用し、出力抑制量を減らすためには、従来の風力予測/太陽光発電予測モデルをより精緻なものにするだけでなく、膨大な気象用センサー情報をリアルタイムに収集・分析する技術の開発と、それを実現する通信インフラを含むセンサーネットワーク技術開発が重要である。ここでも、セキュリティの確保を大前提として、ビッグデータ、IoT、更に、リアルタイムBI(Business Intelligence)のような利用技術の進展に期待したい。 

 

謹賀新年

 

本ブログをご愛読くださり、ありがとうございます。昨年は忙しさにかまけてブログの更新が滞りがちでしたが、振返ってみると、以下の話題を取り上げてきました。 

  • MISOのDRRとDIR

日本では、米国の系統運用者というと東部のPJM、ISOニューイングランド、NYISOや、西部のCAISO、南部のERCOTが有名ですが、北はカナダのマニトバ州から南はルイジアナ州やテキサス州の一部まで北米大陸を縦断する形で系統運用を行なっている北米最大規模(取扱量ではPJMに次いで2位)の系統運用機関であるMISO(Midcontinent ISO)に関しては、あまり情報がありませんでしたので、一昨年から引き続き(その5~その8)、そこで採用されているDRの仕組みと、DIR(Dispatchable Intermittent Resources)の仕組みに関してご紹介しました。
特に、天候任せの再生可能エネルギー(=Intermittent Resources)を天候任せで終わらせず、最新の発電予測技術とリアルアイム市場を連動させて、従来の発電機同様に発電制御する(=Dispatchable)DIRの仕組みは、まだ日本ではあまり知られていないのではないかと思います。 

  • FERCオーダー745の顛末-その9

FERC(米国エネルギー規制委員会)がDR普及促進の一環として制定した規制(オーダー745)を「各州の規制機関の権限を無視した越権行為であり無効」とした高等裁判所の判断に関してオバマ政権が最高裁に上告したと報じたのが、2015年、当ブログでの新年のご挨拶に次ぐ2番の投稿でしたが、2016年1月、米国最高裁がFERCオーダー745を支持したというニュースをお伝えしました。
DR推進派?のインターテックリサーチとしては、米国におけるDR推進阻害要因となりかねなかった米国高等裁判所のFERCオーダー745無効判決に関して、非常に関心を持って顛末をフォローしてきましたが、昨年、年明け早々のGood Newsでした。 

  • VPPとエネルギーリソースアグリゲーション

このシリーズ(その1~その10)では、VPPの定義を紐解き、日本でのVPPに関連する動きとして、「エネルギーリソースアグリゲーション」についてご紹介しました。また、VPPの源流を遡って調査したところ、米国では、オレゴン州に本拠を置くボンネビル電力局(Bonneville Power Administration:BPA)のEnergyWebにたどり着き、それに携わっていた関係者の流れから、実はEnergyWebがトランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)にもつながっていることを発見したのは昨年の収穫でした。 

  • ネガワット取引ガイドラインとDRベースライン

ここでは、昨年9月に改訂された経産省の「ネガワット取引に関するガイドライン」について、3回にわたり、どこが改定されたのか?DR資源調達パターンとして記載されている「類型1②」とはどういうものなのか?海外では「類型1②」のDR資源調達パターンに関してどのように考えているのか?を調査してご紹介しました。 

  • トランザクティブエネルギーに関する新たな動き-その2

昨年、本来はTEの調査・ご報告をしたかったのですが、なかなかまとまった時間が取れず、米国NISTが開催するTEチャレンジのフェーズⅠ完了を祝うキャップストーンプログラム開催案内のご紹介だけとなってしまいました。このイベントにはWebからも参加できたので、一応参加したものの、日本時間では真夜中のため、後日、見た内容をまとめようと思いながら、そのままとなっています。

当日の資料の一部をご覧いただいていますが、詳しくは、最後のスライドのコピーにあるように、TEチャレンジのコラボレーションサイトをご覧ください。

また、日本で2017 TE Simulation Challenge Phase Ⅱに参加してみようと思っておられる団体がございましたら、インターテックリサーチとしても何らかの形で参加させていただければ幸いです。

米国調査会社ナビガントリサーチ(Navigant Research)の調査レポート「ブロックチェーン対応の分散エネルギートレーディング」では、P2Pトレーディングの促進要因の分析を行ない、トランザクティブエネルギーをサポートするためにブロックチェーンがなぜ魅力的な選択肢であるのかについて述べられているようです。

今年は、その辺り(ブロックチェーンと連動した仕組み)について、できれば時間をとって調査してみたいのですが、さてどうなるか、あまり期待はしないでください。

以上、昨年の弊ブログの総括と、一部今年度の抱負まがいのことを述べさせていただきました。

なお、冒頭の「はじめに」から「再エネ出力抑制回避のための技術的課題」までの文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会の機関誌「CIAJ JOURNAL」に投稿させていただいた原稿をベースにして、よくある年頭所感に代えさせていただきました。

終わり

デジタルグリッド

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Frost in Greensward Close

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前回は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会の機関誌「CIAJ JOURNAL」に投稿させていただいた原稿をベースに、「電力自由化はこれからが本番」と題して、これまでの電力ビジネスを振返り、この先数年の日本における電力ビジネスに関しての考えを述べさせていただきました。 今年(も)、個人的にはリサーチ対象としているTE(トランザクティブエネルギー)は、それよりもっと将来の電力流通のあり方を考えたものですが、日本にも、将来の電力流通に思いをはせた方がいらっしゃいます。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の阿部力也特任教授がその方で、本日は、阿部教授が将来の電力流通に関する構想をまとめられた著書「デジタルグリッド」の読書感想文です。

本書は、以下の5部17章で構成されています:

・第1部 電力システムを解剖する
・第2部 デジタルグリッド
・第3部 電力インターネット
・第4部 エネルギー主体の経済
・第5部 エネルギーシステムのパラダイムシフト 

では、第1部から見ていきましょう。

第1部「電力システムを解剖する」は電力システムに関する現状認識。そこから、第2部の「デジタルグリッド」の発想に至った経緯までを要約すると:

  • 電力流通は交流による同期電力系統技術を採用したおかげでここまで発展してきたものの、系統内に流入する電源をすべて同期させる必要が今足かせとなってきている。 
  • すなわち、同期化力のない再生可能エネルギー(以下、再エネ)の大量逆潮流を受け入れることができず、系統に流入する全電力の30%以上が再エネになると系統の安定性を失う。ドイツで再エネ比率を80%にするという目標を立てているが、これは、足りない場合、隣国のフランスが保有する大量の原発から供給を受け、再エネ出力が余った場合も、ドイツと連系している欧州系統の諸国が大型蓄電池のように作用して、余剰電力を吸収する余力があるからである。 
  • 現在もてはやされているスマートグリッド関連技術も、(DRも含めて)この同期系統技術の上で問題を解決しようとしている限り根本的な解決は得られないだろう。 
  • では、再エネ利用率80%というのは不可能かというと、そうでもない。 
  • かつ、そのために必要な技術はすでに存在している。直流伝送による非同期連系技術が、この問題を解決できる技術であり、例えば、北海道と本州間の連系(北本連系)には直流伝送による非同期連系技術が使われている。 
  • 北本連系では、50Hzの交流を非同期連系しているが、東京と中部の間にある周波数変換所は、50Hzと60Hzの交流同期連系を結ぶ非同期連系となっている。 
  • この周波数変換所は、概念的にみると50Hzの端子と60Hzの端子を持つブラックボックスで、50Hzのネットワークと60Hzのネットワークを結ぶ電力のルーターと考えることができる。 
  • 同期化力のない再エネ大量導入に起因する同期電力系統の問題解決手段として、この「電力ルーター」による非同期連系技術をベースとしたデジタルグリッドが有効となるのではないか?

そこで、第6章「デジタルグリッドの誕生」となる訳ですが、『再エネを大量に導入するには系統増強もスマートグリッドも解ではなく、電力系統の呪縛を開放する「非同期連系」という技術が必要になる』というのが「デジタルグリッド」を考える上でのキーポイントのようです。逆に言うと、「デジタルグリッド」というのは、単に再エネ導入を促進せんがための小手先の技術ではなく、真にスマートなグリッドの実現を目指す技術を志向していることがわかります。
そして、「電力をルーティングするデジタルグリッドの主要な装置」として、デジタルグリッドルーター(DGR)が登場しますが、ここからは、現時点で確実な裏付けのある話ばかりではなく、従来の同期電力系統と並行してDGR同士を結ぶ「自営線」ネットワーク網ができ、今後の商習慣や制度の変更ができたら実現するであろう世界の話が入ってきます。

その将来像を見る前に、デジタルグリッドの主要構成要素を確認しておきましょう:

デジタルグリッドルーター: DGR

  • 電気を交流/直流双方向に変換できるインバーターを複数組み合わせ、一方の端子で受けた交流電力をいったん直流に変換し、再度交流に戻して別の端子に出力することで周波数の非同期化を実現
  • この、DGRの端子(=DGR内のインバーター)を特定すルーターめにIPアドレスを使う

※ インターネットのルーターは、ルーター自体にIPアドレスを割り当てるのに対して、DGRでは複数あるDGRの入力端子/出力端子にIPアドレスを割り振るところがユニークですね

セル:CELL

  • DGRにより電力系統と非同期に接続する中小規模の電力系統で、常時系統連系していながら、電気的に自立可能なもの
  • 典型的なセルの例としては、従来の電力会社の配電線フィーダスイッチがDGRに置き換わり、そのフィーダ線にぶら下がる発電施設・需要施設すべてがセルに所属 ( 例えば、1つのフィーダ線に大量のPV出力の逆潮流が発生したとしても、それに起因する周波数の上昇はセル内にとどまり、非同期接続しているがゆえに、配電線より上位の系統に影響が及ばない?
  • 最小単位は需要家施設で、従来の配電盤や高圧受電盤のブレーカがDGRに置き換わるものと想定
  • 大きなセルとしては、直流送電線で北本連系している北海道全域も1つのセル

自営線DGR端子でセル同士を自営線で結び、電力融通を行なう (ただし、セルは同期電力系統への接続と並行して自営線での多重電気接続が基本のようで、最終的な同時同量制御は従来のメカニズムに任せるが、自営線によりセル同士の電力融通を行なうことで、ある程度セルは自立した存在となる?

DGクラウドDGRの持つ情報をやり取りするためのインターネット

なぜデジタルグリッドの方が今日の系統より再エネ大量導入に関して有利かに関しては、以下のように説明されています:

  • デジタルグリッドでは、再エネはどこかのセルに内包される
  • 系統は、DGRにより非同期連系されているので、セル内で発生する再エネの出力変動による周波数変動/電圧変動の影響を受けない。したがって、セル内でどれほど再エネが使われようとも系統側から出力抑制をする必要はない
  • その代わり、セル内の周波数変動/電圧変動に関してはDGRが制御する(必要ならセル内の再エネに出力抑制をかける)

※ ある程度広い地域に分散したメガソーラーやウィンドファームは、個々の発電機の出力変動は大きくても全体的に「ならし効果」があるといわれていますが、セルごとに電力需給バランスの個別最適化を行なうと、「ならし効果」に期待できず、出力抑制の頻度が高まる可能性もあるのではないでしょうか?
※ また、DGRというのが、基本的に複数のインバーターを組み合わせた非同期系統連系装置と思ってみていましたが、セル内の需給バランスをとるEMSの機能がなければならないようです

8章「中小規模自律分散型電力系統の台頭」では、デジタルグリッドを推進するために、セル間を自営線で接続して電力融通を可能とするよう配電網の自由化が提言されています。

第二部最後の第9章は、「エネルギー源もタイミングパルスも宇宙から」という壮大なタイトルが付けられていますが、この中で主張されているのは、以下の通りです:

  1. 人類の究極のエネルギー源は太陽(=宇宙)
  2. 地球上に分散して降り注ぐ太陽エネルギーを有効利用すると、分散型の電力系統とならざるを得ない(メガソーラーやウィンドファームに関しては否定的)
  3. セル内に大量の再エネを導入し、かつ交流で運用するには、それらのインバーター(=PVのパワコン相当)を並列運転させる仕組み(インバーターの動機情報を伝える仕組み)が必要
  4. そこで、GPS衛星からの信号(=宇宙)を利用してセル内での交流の再エネ出力を時刻同期させる  

第3部「電力インターネット」に入って、第10章「ユビキタスインバーターの世界」では、改めてインバーターの仕組みを解説した後、「プロトン」という開発コードで、ハードウェアとOSが分離した新しいインバーターのプロトタイプを開発中で、これが商品化されれば同じOSの下でソフト部分を変更することによってDC/DCコンバータや、PV/EV充放電用のインバーター等ができるので、今までのハードウェア/ソフトウェア一体型の専用パワコン開発に比べてインバーターの価格破壊が起きるだろうと予言しています。

そして、続く第11章「電力パケットと商品化」で、一気にfintechの世界が導入されます。
10章中に、すでに「インバーターを使って発電や消費あるいは貯蔵の取引記録(ログと呼びます)を保存すれば、それはあたかも銀行通帳に入金や出金あるいは残高の記録を記帳しているかのように…」という記述がみられたのですが、あるDGRの端子(=インバーター)に太陽光発電源が接続されていたとすると、その端子のIPアドレスとともに、どこでいつどれだけの電気が発生したかが記録できます。単に記録するだけでなく、他のDGRの端子を経由してセル外の系統側に逆潮流させて、電力取引を行なう際にもこの情報(=電力プロパティ)は重要です。更にデジタルグリッドの世界に関する想像を発展させ、電力の取引単位として「電力パケット」というものを想定し、1電力パケットを1kWhにしようとの提言が行われています。 IPアドレスにより、取引する電源を識別できるので、従来の電力取引では取扱商品が「電力」ただ1つだったものが、CO2価値を含めた「商品」や、再エネ商品が発電予測の元で売買されたとしても、発電予測が当たるとは限らないので、外れた場合の保険ということで気象予測の商品化やデリバティブ商品にまで言及されています。

第12章「電力インターネット」では、まずインターネットとデジタルグリッドの類似点・相違点を確認した後、デジタルグリッドの実現イメージが記載されています。

  • 電力の伝送路とは別に、電力情報をやり取りするためにインターネット回線も利用することになる
  • この電力情報のやりとりを行なうサービスプロバイダが現れる
  • 情報のやり取りだけでなく、電力取引をサポートするため、このサービスプロバイダは株式取引と同じようなソフトウェアの開発が必要になる
  • 日本卸電力取引所(JEPX)では、現在30分の電力取引だけだが、発電元のIPアドレスで電力が識別できるので、「クリーン電力」のような商品やCO2価値の取引を行なうスポット市場もできるだろう
  • 自営線を自治体などに設置保有してもらい、従来の同期系統と、セル間の自営線経由の二重受電構造とすることができる
  • 個々のセル内では、蓄電池の多用を避け、なるべくセル内の発電機を用いて需給バランスをとる(セル=バランシンググループ
  • デジタルグリッドでは、電力の欠損に相当することが起これば、基幹系統から速やかに切り離し、バックアップルートから瞬時に電力を融通し、何事もなく電力を供給し続ける分散型制御の仕組みとなる
  • セキュリティに関しては、ブロックチェーンのような、全体で認証する仕組みが役に立つだろう ・ セルが電力系統から電気を受け取ることをダウンロード、需要家からの電気を系統に送り込むことをアップロードと呼ぶことにすると、電力のアップロードとダウンロードは相殺され、差分の電力のみがアップ/ダウンロードされる
  • 同期系統連系を経由した電力のやり取りの他に、セル同士をつないだ自営線経由のP2P型ネットワークでの電力融通も行われる(相対取引になる?
  • セルは系統と非同期連系しているので、基幹系統側はこれまでのように高信頼性を保つ必要はなく、系統の一部で停電したり、回線工事が行われたりしても、関係するセル内で停電が発生することはない。セルの自律分散運転が進めば、基幹系統はベストエフォートな電力系統で良くなる

第4部「エネルギー主体の経済」第13章「生産者から消費者へのパワーシフト」では、すでにスマートグリッドでいわれていることですが、

  • 電力自由化で、従来電気を買う消費者と位置付けられていた人/法人が、どこから電気を買うかの自由度を得ただけでなく、PVの余剰電力等を売る生産消費者(プロシューマ)となった
  • また、現在の日本では、技術的な課題のため、風力/太陽光発電は真っ先に出力抑制をかけられることになっているが、欧州では限界費用がゼロの発電方式は最も優先的に発電させることが法的に義務付けられており、デジタルグリッドでは、欧州と同じ「優先接続」ルールが適用され、電力ビジネスも計画経済から脱却して資本主義経済に移行する
  • 更に、人々が協力してモノやサービスを生産・シェアし、管理する「シェアリングエコノミー」に発展するのではないか

と予想されています。

続いて第14章「都市集中から豊かな地方への分散」では、シェアリングエコノミーのモデルを拡張し、地方の企業や自治体、地方銀行を巻き込んだルーラルエンタープライズモデルについて紹介、第15章「巨大化する再エネ経済」では、デジタルグリッドを流れる電気が識別可能(例えば、IPアドレスからどこのDGRの電力端子につながっている太陽光発電出力かがわかる)であるとともに同質性を持つ(1電力パケットの電力は、原発で発電したものの太陽光発電で発電したものも同じパワーを持つ)という性質をうまく活用すると、仮想的な通貨の役割を果たすような大きなパラダイムシフトを起こす可能性があるという主張が展開され、デジタルグリッドとブロックチェーン技術の親和性について語られていますが、ブロックチェーン技術に関しては勉強不足のため、残念ながらこの部分は理解できていません。

第5部「エネルギーシステムのパラダイムシフト」第16章「潜在市場の巨大さ」では、日本から離れて世界中に存在するまだ電気の全くない地域(オフグリッド)や、電化されていても停電が非常に多い地域(ウィークグリッド)にいかにデジタルグリッドが展開できるかについて述べられています。

最後の第17章「デジタルグリッドの提言」は15ぺージくらいのまとめの章なので、それをダイジェストするのは難しいのですが、要点を列挙すると以下の通りです。

  • デジタルグリッドの本質は、基幹系統の信頼性に関する負担を大幅に軽減し、自立可能なセルグリッドとの共存により信頼性を大幅に高め、多様な参入者により劇的なコスト削減を実現し、化石燃料依存から再エネ依存に転換することにある
  • このインターネットのような新たな電力系統は、基幹系統とセルを非同期に連結し、更に必要に応じてセル同士を自営線で連結した、ハイブリッドな構造となる
  • セル内の需要を超えた過剰な発電は自動で再エネの出力を抑制し、不足分は系統や自分の持つ安定電源から供給する
  • セル内は再エネを主たる電源とするインバーター中心の電源構成となり、GPS等の正確な時刻信号による時刻同期電力系統となる
  • DGRを活用することにより非同期連系を行ないながら、電力の識別を可能とし、電力パケットの送受を行なって、無数の取引をブロックチェーンのような金融技術で実現する
  • この過程で、すべての取引を記録し、地方自治体や社会的に意義を感じるプロシューマ―達に自由な取引ができるようなプラットフォームを与える

また、以下の通りデジタルグリッドの実証が実際に行われていることが紹介されています。

  • 2011年DGR第1号機:マークⅠを開発
  • 2013年1月、米国中央電力研究所EPRIのノックスビル研究所でマークⅡの試験を実施
  • 2015年度、鹿児島県川内市のスマートハウスでマークⅢの試験を実施
  • 2016年度は、石川県和倉温泉で、太陽光や温泉バイナリ発電、蓄電池などを組み合わせた電力融通試験をDGR3台で実証中。また、福島県いわき市サンフレックス永谷園でもDGRを3台設置し電力融通する実証試験を福島県の補助事業として受託。

政策立案者への提言として、再エネの大量導入を実現させるには、送配電網の真の自由化が必要であると主張されています。

数十年後の姿として、従来の電力系統とデジタルグリッドのセルが協調する将来像が描かれています。 すなわち、

  • 従来の電力系統に加え、自営線による多重受電網を持つセルグリッドを無数に構築され、セルの中では多種多様な再エネ技術が開発され、太陽由来のエネルギーをふんだんに取り込み、様々な電力パケットと、その派生物が取引される。
  • 既存の電力系統は自立するセルと協調し、全体的には、ベストエフォートなシステムではあるが、総合的にみると高い信頼性をもたらすものが出来上がる。
  • メッシュ構造の電力ネットワークで膨大な電力取引を実現しつつ、最終的には日本の電力系統の再エネ比率を80%にまで高めることが可能となる。

以上、デジタルグリッドの発想の入り口は、非同期連系技術というハードウェア寄りのアイデアでしたが、最終形としては、現在の計画経済的な電力流通の仕組みを資本主義経済に基づいた仕組みに変更しようという点、および、数十年後にここで書かれた絵姿が実現すればよいというタイムスケールでも、トランザクティブエネルギーに通じるものがあると感じました。

冒頭でご紹介した書著の他に、東京大学阿部研究室ホームページTELESCOPE MagazineにScientist Interviewとして阿部教授へのインタビュー記事「電力をインターネット化するデジタルグリッド」もありますので、合わせてご覧いただければと思います。

今回、ここまで文字ばかりでわかりづらかったかもしれませんので、上記のインタビュー記事の中から、いくつかデジタルグリッド関連の絵を引用させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日は、以上です。

終わり

分散型エネルギー資源有効活用に向けたブロックチェーンの役割

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Farmland off Wigsley Road

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前回は、TE(トランザクティブエネルギー)と同じく、将来の電力流通に関する構想がまとめられた書物「デジタルグリッド」の読書感想文を掲載させていただきました。その第4部「エネルギー主体の経済」では、一旦、デジタルグリッドの技術的な観点から離れて、経済面から見た電力ビジネスの未来像が語られ、デジタルグリッドとブロックチェーン技術の親和性についても語られていましたが、あいにく、ブロックチェーン技術に関しては勉強不足のため、第4部は消化不良のまま残っていました。 今回は、NEMA(National Electrical Manufacturers Association:アメリカ電機工業会)の定期刊行物「electroindustry」1月号(January 2017, vol.22 No.1)がブロックチェーンに関する記事(Demystifying Blockchain: How It Will Grow Demand for Distributed Energy Resources)を掲載しているのを見つけましたので、その内容をご紹介しようと思います。例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。 では、はじめます。

最近、ブロックチェーン技術がエネルギーの取引、特に分散エネルギー資源(Distributed Energy Resources:DER)の取引に有効だというような話を耳にしたことがないでしょうか? ただ、ビットコイン利用者でもない限り、ブロックチェーンとは何か、あるいは、言葉は聞いたことがあっても、それが電力系統とどう結びつくのか、皆目見当がつかなかったのではないでしょうか?
実は、私もそうでした。
ここでは、ブロックチェーンとは何か?それが、太陽光発電のようなDERばかりでなく、マイクログリッド、エネルギー貯蔵装置、電気自動車、デマンドレスポンスその他の技術の普及にどのようにかかわるのかについてお話ししようと思います。

ブロックチェーンを一言で表すと、取引データを確実に記録するための方法を提供するテクノロジーということができます。例えば、ジェニーが自宅の太陽光発電装置で発電した100kWhの電力を2017年1月3日の午後1時46分にハワードに$10で売ったとしましょう。そのような電力取引情報は、従来だとクラウド側のデータサーバで一元管理されたことでしょう。ところが、ブロックチェーンでは、ネットワーク上に分散配置された複数のコンピュータにそのようなデータが保持されるので、ハッカーは、ある1つの取引について内容を改ざんしようとしても、「あるデータベースサーバのレコードを1件改ざんすれば事足りる」という訳にはいきません。ブロックチェーン・ネットワーク上の、場合によっては何千ものコンピュータのどことどこに該当するブロックがあるのか突き止め、しかも、それぞれのコンピュータ上の改ざんしようとした取引データを保持する情報ブロックにつながる(=チェーンされている)それ以降のブロックに含まれる改ざん防止情報をすべて元のブロックの改ざん内容に基づいて変更していかなければなりません。1つでもおかしいものが見つかると改ざんがばれてしまうという、ハッカー泣かせの仕組みとなっているのです。

ところで、このブロックチェーン技術がエネルギー業界にどのような恩恵をもたらしてくれる可能性があるのでしょうか?
米国では、現在すでに100万件以上太陽光発電設備があり、2年以内に2倍になると予想されています。これらの太陽光発電設備のオーナーは、自家消費できない電気を売りたいと思う訳ですが、その場合、現状では、電力会社に買い取ってもらうしかありません。しかし、ブロックチェーン技術を使えば、一般家庭の太陽光発電の余剰電力を誰にでも売ることができるようになるのです。 これは、夢物語ではなく、シーメンスとLO3 Energy社は、ブロックチェーン技術をベースとした電力小売取引が可能なマイクログリッドの実証実験をニューヨーク州ブルックリンで実施することをつい最近発表しています。この実証実験では、eBayで商品を購入するのと同じくらい簡単に隣人同士で電気の売買ができるでしょう。

いかがでしょうか?

ブロックチェーン技術に関しては、電力ビジネスとはあまり関係がなさそうだと思われていた方が多いのではないかと思うのですが、電力小売取引への応用の実証が始まっているという話題でした。 米国調査会社ナビガントリサーチ(Navigant Research)の調査レポート「ブロックチェーン対応の分散エネルギートレーディング」でも、P2Pトレーディングの促進要因の分析を行ない、トランザクティブエネルギーをサポートするためにブロックチェーンがなぜ魅力的な選択肢であるのかについて述べられているようで、無視し続けるわけにはいかないようです。

なお、今回も絵の少ない記事になってしまいましたので、ブロックチェーンを理解する上で参考にさせていただいた後藤あつし氏のビットコインニュース「ブロックチェーンとは結局何なのか」ビジネスパーソン向けに徹底解説&ブロックチェーンの衝撃・金融サービスへの応用補足説明』の絵を再掲させていただきます。

終わり

KNX関連イベントのお知らせと、欧州のスマートメータリングに関する状況のアップデート

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Houses on Plymouth Road, Buckfastleigh

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前回のブロックチェーンに関する話題はいかがでしたでしょうか? エネルギービジネスには関係のないフィンテック関連技術かと思いきや、TE(トランザクティブエネルギー)との相性がよさそうで、すでに電力小売取引への応用の実証も始まっているという話題でした。

本日は、来る3月24日開催予定のKNX Forum 2017についてお知らせします。

KNXに関して、これまで、このブログでいろいろご紹介してきました。

• 2013年  9月 5日: KNX、日本上陸に向けての動き
• 2014年 1月12日: KNXの相互運用性確保に向けた仕組み
• 2014年 3月21日: 日本KNX協会発足
• 2014年 7月23日: 2014年上期KNX活動報告
• 2014年 9月17日: DRとKNX-その1
• 2014年 9月22日: DRとKNX-その2
• 2014年 9月27日: DRとKNX-その3
• 2014年10月12日: DRとKNX-その4
• 2014年12月30日: 日本の中のKNX
• 2015年  5月 9日: KNX生誕25周年記念イベント開催予告
• 2016年11月22日: KNX関連イベント開催のお知らせ

昨年度(2015年)は、KNXが、その前身であるEIB(European Installation Bus)という規格が世に出て25周年ということで、10月20日に全世界36か国53会場でKNX生誕25周年記念イベントが開催され、日本でもイベントを開催させていただきました。

今回は、KNX協会が開発し2017年2月から提供を開始した「ETS inside」というソリューションのプロモーションの一環として、全世界22か国、34会場で3月から4月にかけて開催されるイベントの一環として開催させていただくものです。ただし、日本では、まだKNX自体が浸透していませんので、「ETS Inside」というソリューションにフォーカスしたイベントではなく、基調講演として、三菱地所設計の小笠原様より、「ビルディングオートメーションにおけるオープンプロトコルへの期待(仮題)」と題して、この分野で世界標準の1つとなっているKNXに絡めたお話をしていただき、広くKNXをご紹介するイベントとなっています。

また、日本KNX協会の一般社団法人としての登録完了が2014年11月25日ですので、法人登録完了からすでに2年4か月目に入っていますが、今回のKNX Forum 2017では、やっと、日本KNX協会員企業以外へのKNX適用事例をご紹介することができます。

プログラム詳細はこのとおりとなっております。

おかげさまで、残席はわずかとなっておりますが、ご興味をお持ちの方はプログラム詳細に記載させていただきましたURLより参加ご登録をお願いいたします。

 

本日は以上ですが、KNXイベントのご案内だけだと多少気が引けますので、以下、昨年10月パリで開始されたIEEE International Forum 「Smart Grid for Smart Cities:SG4SC」の講演資料から、欧州電気標準化委員会(Comite European de Normalisation ELECtrotechnique:CENELEC)Dr Bernhard THIES会長の「Promoting the interoperability of Smart Meters across Europe: the role of standards(欧州大でスマートメーターのインターオペラビリティを促進するにあたっての標準化の果たす役割)」の内容を抜粋してご紹介します。

※上記のハイパーリンクから資料をダウンロードしたのですが、背景色と文字色が重なって一部判読不能だったので、背景を消したバージョンンを作成しています。ご興味のある方は、こちらをご覧いただければと思います。

欧州におけるスマートグリッド関連関連施策に関しては、ブログ「DRとKNX-その1」の中でまとめさせていただいていますが、この資料の中でも、まず、CENELECの概要、位置づけと機能に関する紹介があった後、欧州におけるスマートグリッド/スマートメーター関連の施策が紹介されています:

  • 第三次EU電力自由化指令(Directive 2009/72/EC)で、スマートメーター導入の費用対効果を2012年9月までに行い、費用対効果が認められれば2020年までに最低80%スマートメーターを導入するよう要請された
  • また、拘束力はないがスマートメーター促進勧告(Recommendation2012/148/EU)も出された
  • 欧州標準策定機関(ESO)に対してスマートメーターに関する相互運用性を確保するためのEU標準化指令M/441が発令され、欧州標準制定機関ESO(CEN、CENELEC、ETSI)は、共同作業を実施するため、SM-CG(Smart Meter Coordination Group)を組織し、作業を開始した
  • M/441のアウトプットとして、2011年に、スマートメータリングシステムの通信アーキテクチャーに関するドキュメント「CEN-CLC-ETSI Technical Report 50572:2011 (Phase I)」がまとめられた
  • その後、M/441に関連して、インターオペラビリティに関する対応を盛り込んだ成果が2012年「SM-CG report」として公開された
  • SM-CGは、その後も活動を続け、プライバシー&セキュリティに関してPartⅠ~PartⅣのドキュメントを作成
    1) Smart Meters Co-ordination Group – Privacy and Security approach – part I
    2) Smart Meters Co-ordination Group – Privacy and Security approach – part II
    3) Smart Meters Co-ordination Group – Privacy and Security approach – part III
    4) Smart Meters Co-ordination Group – Privacy and Security approach – part IV
  • これらの作業と並行して、SM-CGでは、特にDRや分散電源運用に関連して、スマートグリッドの標準化組織(スマートグリッドに関する相互運用性を確保するためのEU標準化指令M/490に基づいて組織されたSmart Grid Coordination Group:SG-CG)と協調している

以前、「DRとKNX-その2」でSG-CGが作成した「DR機能アーキテクチャー(Demand Response functional Architecture)」の図を紹介しましたが、今回ご紹介した資料では、SM-CGとSG-CGのコラボレーションで、既存の標準をこのDR機能アーキテクチャーにマッピングした図が表示されています。

ご注目いただきたいのは、電力会社(Actor A)と消費者宅のDRイベントや分散電源制御の通信経路「General & commercial channel」に適用される標準としてIEC PAS 62746-10-1 (OpenADR)が記載されていることと、日本でいうスマートメーターからHEMSにわたるBルートの標準の1つとして、図中「H2」の上にEN50090(多分ペイロード中のデータ構造定義として、KNXのデータタイプの定義を使う?)が記載されていることです。 ここから、Bルート経由で負荷計測値を得ようとしているHEMSソリューションを欧州に輸出しようと考えている日本企業は、Bルートの通信プロトコルとしてIEC62056(DLMS/COSEM)とKNXの知識が必須ということがうかがえます。

最後に、欧州各国のスマートメーター展開スケジュールの情報がありましたので、再掲します。

欧州に比べて、日本のスマートメーター導入状況は、あまり早いとは言えません。DRの利用促進を図るためには、今一層の努力が必要です。

 

以上、今回は、3月24日開催するKNX Forum 2017の宣伝と、IEEEが昨年10月パリで開催したSG4SCのイベントからCENELECのThies会長の講演内容をご紹介しました。

 

終わり

RATES-カリフォルニア州におけるトランザクティブエネルギー実証プロジェクト

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HMNB Portsmouth and HMS Victory

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前回は、去る3月24日に開催したKNX Forum 2017のご案内ついでに、IEEEが昨年10月パリで開催した「Smart Grid for Smart Cities:SG4SC」のイベントからCENELEC会長の講演内容をご紹介しました。

KNX Forum 2017に関しては、おかげさまで、開催までのショートノティスにもかかわらず50名の業界(と、いっても、エネルギー業界ではなく、建築設備業界)関係の方にご参加いただき、無事終了することができ、日本KNX協会事務局として肩の荷を下ろすことができました。また、今回のフォーラムでは、日本でのKNX事例報告もあり、やっとKNXも日本で地に足をつけた活動が始まったことを実感できました。

SG4SCでの欧州電気標準化委員会(Comite European de Normalisation ELECtrotechnique:CENELEC)Dr Bernhard THIES会長の資料からは、米国発祥のOpenADRが欧州標準化団体の中でも認知されてきており、電力会社と消費者宅のDRイベントや分散電源制御の経路に適用される標準としてIECPAS 62746-10-1 (OpenADR)が記載されていることと、日本でいうスマートメーターからHEMSにわたるBルートの標準の1つとしてEN50090(すなわちKNX)が候補に挙がっていることがわかりました。

本日は、タイトルにあるように、RATESというカリフォルニア州のトランザクティブエネルギーの実証プロジェクトに関してご紹介したいと思います。

RATESは、カリフォルニア州エネルギー委員会(California Energy Commission:CEC)の 電力プログラム投資計画(Electric Program Investment Charge:EPIC)で「Grant GFO-15-311」として320万ドルの予算が付いた電力小売向け自動トランザクティブエネルギーシステム(Retail Automated Transactive Energy System:RATES)の構築実証プロジェクトです。

トランザクティブエネルギー提唱者であるEd Cazalet博士が創設したTeMIX社のニュース記事「Retail Automated Transactive Energy System (RATES)」によると、この補助金は、2016年6月~2019年3月までの期間、

  • 主に一般家庭や小規模商業顧客を対象として、
  • 小売電力価格の仕組みを含めた様々な運用戦略を試し、消費者が電力取引に参加するコストと複雑さを最小限にするような負荷管理システムの構築実証を行なう

ことを目的としたもので、電力会社の「Southern California Edison:SCE」, 独立系統運用者の「California Independent System Operator :CASIO」およびOpenADRアライアンスの協力のもと原文では、“Non-financial support letters were provided by ~” となっていたのですが、詳しくは調べていません。経済的な援助はしないというニュアンスだろうと推測しましたTeMIX社Universal Devices Inc.(UDI)が、以下の構築実証を行なうとされています。

(1) RATESプラットフォームの開発
(2) エンドデバイスの制御
(3) 革新的な双方向サブスクリプション電気料金(innovative two-way subscription tariff、後述)の試験運用

この構築実証には、SCEの一般家庭と小規模商業顧客合わせて200軒が参加する予定で、構築する実証プラットフォームはSCEの配電系統やDRアグリゲータ等を含むエネルギーサービスプロバイダ、更にCAISOの卸電力取引市場とインタフェースするようです。

「双方向サブスクリプション電気料金」とは、消費者の典型的な日負荷曲線に基づいた固定電気料金の他に、日負荷曲線より実際の電力消費が多い時間帯は、その時間帯のスポット価格に連動して追加利用分の電気代を支払い、日負荷曲線より実際の電力消費が少ない時間帯は、その時間帯のスポット価格に連動して差分の電力量に対してその時間帯のスポット価格での支払いを受けるというもので、UDI社は、実証参加者宅に無償で設置するデバイスで、スポット価格の高い時間帯は使用電力量を減らし、スポット価格の安い時間帯は使用電力量を増やすよう空調機器、電気給湯器、ポンプその他の設備を自動制御します。

本実証では:

  • 消費者生活の快適性・利便性を犠牲にせず、電気料金の低減を図り、
  • SCEとしては、「サブスクリプション電気料金」が、固定電気料金がベースとなっているので一応収益の安定化が期待できるとともに、スポット価格が高い時間帯に発電単価の高い電源を調達せずに済むのでコスト低減が図れ、
  • SCEの配電部門でも、「サブスクリプション電気料金」は配電網の混雑緩和につながるので、混雑緩和のための系統用蓄電池への過剰投資を抑えられることが期待できます(下図参照)。

以上、RATESに関して、TEMIX社のニュース記事「Retail Automated Transactive Energy System (RATES)」からご紹介しました。

RATESの詳細について今のところ、この実証プロジェクトからの中間報告はないようです。 UDI社がCECに提出した補助金申請書「タイトル:Complete and Low Cost Retail Automated Transactive Energy System(RATES)」の「Scope of Work」を見ると、まずOpenADRアライアンスの協力を得て、OpenADRのトランザクティブ・インタフェースとシグナルをベースとしたRATESの要件仕様書を作成し、TEMIX社のTEプラットフォーム「TeMIX Platform」をベースとしてRATESのシステムの設計・開発を行なうので、実際の実証に入るのは、まだ先のようです。

 

今回はカリフォルニア州のトランザクティブエネルギー関連の事象プロジェクトに関してご紹介しました。

終わり

分散型エネルギー資源有効活用に向けたブロックチェーンの役割-2

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The Unicorn, Barton upon Irwell

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前回は、カリフォルニア州でのTE(トランザクティブエネルギー)実証プロジェクトRATESをご紹介しました。
TEの実証実験なら、「トランザクティブエネルギー-その3」でご紹介したように、5年以上前から太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト(Pacific Northwest Smart Grid Demonstration Project)では、TEを交えた実証実験を行ってきたわけですが、これは、TEでも「トランザクティブコントロール」と呼ばれる「流派」(その6参照)。それに対して前回ご紹介したのは、「トランザクショナルEMIX(Transactional EMIX:TeMIX)」と呼ばれるトップダウンアプローチの「流派」の(その7参照)実証のご紹介でした。
TeMIXは、OASISが策定したエネルギー市場情報交換(Energy Market Information Exchange:EMIX)の標準をトランザクション環境下の取引に特化させたもので、これは、OpenADR2.0がOASISのエネルギーインターオペレーション(Energy Interoperation:EI)標準の「OpenADRプロファイル」に基づいているように、TeMIXも同様、EI標準の「トランザクティブEMIXプロファイル」に基づいています(その8参照)。EIとOpenADRとTeMIX両プロファイルの関係を以下で再確認してください。

※OASIS EI1.0仕様書よりインターテックリサーチが作成

 

さて、今回は「分散型エネルギー資源有効活用に向けたブロックチェーン」の第2弾として、LinkedIn内でTEに関して議論するグループTEA(Transactive Energy Association)から届いた話題『Sonnen and Tennet utilize home storage for grid stabilization using Blockchain technology』をご紹介します。 例によって、直訳/全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。 では、はじめます。

ブロックチェーン技術を利用した住宅用ソーラー蓄電システムによる系統安定化の実証実験

2017年5月9日 Simon Göß

ドイツ蓄電池メーカーのゾンネン社と系統運用者のテネットは、住宅用ソーラー蓄電システムを相互接続することで24MWの系統用蓄電池として運用し、風力発電の出力抑制を緩和する実証実験を開始した。

ドイツ北部の風力発電所では、風況が良いとドイツ北部の電力需要を上回る発電出力があるものの、ドイツ南部との間の系統の送電容量に限りがあるため、例えドイツ南部で電力が足りなくとも北部で余った電力を南部まで送れず、やむなく風力発電出力抑制が行われていた。

本実証実験は、下図のように、ドイツ北部で風力発電出力が需要を上回る場合、北部のホーム・ストレージ・システムに風力発電出力を吸込むとともに、南部で電力供給量が不足している場合、南部のホーム・ストレージ・システムの電力を放出して南北間の送電容量を超えないようにし、北部風力発電所の出力抑制を最低限に抑えられる可能性を検証するものである。

本年中頃までに6000件のホーム・ストレージ・システム所有者の参加を得て、平均4kW、合計24MWの蓄電容量での実証を目論んでいる。
過去1年間、テネットでは系統安定化に8億ユーロを費やしているが、その費用は電気料金のうち送電料金に含まれているので、この分散ホーム・ストレージ・システムの実証実験がうまくいくと将来電気料金の低下が期待されている。

特筆すべきことは、本実証に参加するストレージは、IBMの商用ブロックチェーン・ソリューションで相互接続され、個々の蓄電池の充放電電力量がブロックチェーンに記録されるので、それが充放電に対する報酬を支払うための透明性の高い記録として機能するということである。
エネルギー供給は、将来、何百万もの小規模分散型電源、プロシューマ(Producer+Consumer)、消費者で構成されることになると想定されており、ブロックチェーン技術は、それらすべての参加者の間で同時にデータ交換を可能にする鍵となるものである。 すなわち、ブロックチェーン技術は、「再生可能エネルギー+蓄電池」という将来のCO2フリーな電力供給において、正に要となるものということができる。

今のところ、エネルギー業界関係者はこの実証実験にそれほど興味を示していないが、住宅用ソーラー蓄電システムの市場浸透率がドイツ市場の10%くらいに達し、蓄電容量として数千MWになれば、このブロックチェーン技術を利用したフレキシブルな仮想の系統用蓄電池は、重要な役割を果たすことになると思われる。

テネットのアーバン・ケッセン会長は、「この革新的なプロジェクトを実施することにより、市民はエネルギー転換に積極的に参加する機会を得ることができる。これは、系統機能を補完する上で今後のエネルギー転換にとって必須要素となるだろう」と述べている。

短いですが、本日はこれで終わりです。

終わり

電気もフリーマーケットで売買する時代が来る?

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http://www.itrco.jp/images/Blchain2-0.jpg

The Old Black Horse Inn, Market Bosworth

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前回は、電力ビジネスへのブロックチェーン技術の利用でも、ピアツーピア型の電力小売決済への適用ではなく、家庭用に設置された蓄電池を超分散型系統用蓄電池として系統運用者が制御するにあたって、各家庭の蓄電池の充放電量の記録にブロックチェーンを利用する実証実験のご紹介でした。

今回は、LinkedIn内のトランザクティブ・エネルギーに関するディスカッション・グループに2か月くらい前にTEA(Transactive Energy Association)のCEO&FounderであるEdward Cazalet氏が投稿していた「Free Market Energy Act of 2015?」の記事を取り上げたいと思います。

Cazaret氏の投稿内容は以下の通りです。

FREE MARKET ENERGY ACT OF 2015?

http://www.utilitydive.com/news/maine-senator-unveils-unprecedented-federal-distributed-energy-bill/394599/

I don’t know the chances of legislation like this passing, but the title and content are very interesting. The One Pager Summary of the bill is at the following link:

http://s3.amazonaws.com/dive_static/editorial/Free_Market_Energy_Act_of_2015_One-Pager.pdf

Congratulations to Senator Angus for his leadership on this bill.

まず、投稿記事のタイトルが「エネルギーをフリーマーケットで取引できるようにする法案が2015にできていた?」という感じで目にとまったのですが、投稿中最初のURLにあるUtuilitydive.comの2015年5月6日付けの記事「Maine senator unveils unprecedented federal distributed energy bill」によると、メイン州のアンガス・キング上院議員が「エネルギーをフリーマーケットで取引できるようにする法案?」を2015年に提出しただけで、その法案が2015年に成立した訳ではないということがわかりました。 Cazalet氏が、「そんな法案が通る訳はないと思うが、タイトルと内容は興味深い」として紹介している同上院議員が提出した法案の概要を1ページにまとめたPDFのURLを見ると、確かに興味深いですね: 以下、投稿中2番目のURLの内容を簡単に紹介します(いつも通り、全訳ではないことと、著者の意訳が混じっていることをご承知おきください):

法案名:フリーマーケットエネルギー法2015

概要: トーマス・エジソンの時代から多くのものが変化しているが、米国の電力網は、過去100年間でほとんど変わらず、消費者に発電所からの電気を送り続けている。しかし、再生可能エネルギーを含めた今日の技術革新により、発電・送配電のあり方に関して見直す時期に来ているのではないかと思われる。すなわち、分散型エネルギー資源(DER)と呼ばれる自家発や蓄電池など、更に、デマンドレスポンスのような新たな仕組みが、より安全で柔軟な電源として、電力網内で消費者に近い周辺側に接続されるようになってきた。 これらは、フレキシブルな電源として、米国電力網の未来のための大きな可能性を有しているが、連邦政府の現行政策は、分散型エネルギーの電力網への接続を阻害している。例えば、系統接続料金が高すぎ、分散電源保有者は系統接続に二の足を踏んでいる。 本「フリーマーケットエネルギー法2015」は、各州固有の事情を認めつつも、分散型エネルギーがより自由に電力網に接続できることを促すものである。

以下略

ということで、まず、「フリーマーケット」というのが、日本での「フリマ」を意味するのではなく、中身は分散型電源の系統接続料金見直しや、分散型エネルギーを取りまとめる所謂アグリゲータの認可を促す、時代を先取りした?提案だったのですが、ひょっとするとCazalet氏も、(私同様)トランザクティブ・エネルギーを使った、消費者間のピアツーピアでの電力取引をスムースに行うためにも使える法案かと勘違いし、「そんな法案はまだ通る訳はないと思うが、タイトルと内容は興味深い」とコメントしたのではないかと感じたので、今回のブログに取り上げた次第です。

本日のブログはこれで終わりですが、私の関わっているKNXに関して1つご案内があります。

KNX協会本部では、アジア地域での更なるKNX普及拡大を目指して、この度、KNXロードショーアジア2017を企画。7月28日日本での開催を皮切りに、8月2日台湾-台北、8月4日香港、8月7日シンガポール、8月9日中国-深圳、8月11日韓国-ソウルでKNXフォーラムを開催する運びとなりました。
7月28日の「KNXロードショーアジア2017–Tokyoフォーラム」では、以下のプログラムを予定しております。

(1)【ご挨拶】 日本KNX協会会長:相原
(2)【基調講演】クラウド時代のMicrosoftにおけるSmart Buildingへの取り組み
  日本マイクロソフト株式会社第一インダストリー統括本部:清水 宏之様
(3)【KNX適用事例1】 仏リヨン市のスマートコミュニティ実証で導入されたOMOTENASHITM HEMSとKNX連携のご紹介
  株式会社東芝 研究開発センター:矢野 亨様
(4)【KNX適用事例2】KNX Award2016を受賞したKNXシステムのご紹介
      KNX協会本部 Marketing Department:Christian Stahn
(5)【KNX標準のご紹介】住宅・ビル制御の世界標準KNX
      日本KNX協会会長:相原
(6)【KNX最新技術動向ご紹介】KNX IoT、KNX SecureとETS Insideソリューション
      日本KNX協会事務局:新谷
(7)【KNX利用方法のご紹介】空間創造におけるKNXの可能性と実現方法
      ABB株式会社/日本KNX協会員:増野

すでに参加登録数が満席に近い状況ですが、もしご興味がおありでしたら、下記URLから参加登録していただければ幸いです。
http://eventregist.com/e/KNX_RS_Japan

以上、日本KNX協会事務局としてのご案内でした。

終わり


エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?- その1

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第4次産業革命と第四次産業革命

Quarry Bank House and Stone Footbridge

The large building is Quarry Bank House. This was built in 1797 for Samuel Greg, owner of the adjacent Quarry Bank Mill, and his family.

The stone footbridge over the River Bollin, in the foreground next to Quarry Bank Mill, was built for the Gregs in 1820.

Quarry Bank Mill, on the River Bollin in the village of Styal, was founded by Samuel Greg in 1784 for the spinning of cotton and, by the time of his retirement in 1832, it was the largest cotton spinning business in the UK. The mill was originally powered by a water wheel. During the 19th century, this was supplemented by steam engines as the water supply from the Bollin was inconsistent during the summer months.

In 1939, Quarry Bank Mill and the surrounding estate were donated to the National Trust and are open to the public. The mill is one of the best preserved textile mills of the Industrial Revolution period and now serves as a museum of the cotton industry. Commercial production at the mill continued until 1959.

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昨年末から今年の年頭にかけて、最近気になっている話題をいくつかブログで取り上げました:

  • 2016年12月30日:第四次産業革命とは何か?どう対処すればよいのか?
  • 2017年1月1日:電力自由化はこれからが本番
  • 2017年1月7日:デジタルグリッド
  • 2017年1月9日:分散型エネルギー資源有効活用に向けたブロックチェーンの役割

その後、3月、5月、7月にぱらぱらと話題を提供させてはいただきましたが、気がつくと10月。

早いもので、今年の3/4、今年度の半分が過ぎてしまいました。

今年は、籍を置かせていただいているエネルギー総合工学研究所で「第四次産業革命がエネルギービジネスにもたらす影響度調査」を担当させていただき、その関連の調査と、関係者へのヒアリングであっという間に時間が経ってしまいました。

その調査結果の一部は、10月8日に千代田放送会館で開催された第32回エネルギー総合工学シンポジウムで発表させていただきましたが、しばらく本ブログへの投稿ができていなかったので、これから何回かに分けて、このブログでも発表させていただこうと思います。今回の副題は、「第4次産業革命と第四次産業革命」です。

なお、10月8日の講演でも、エネルギー総合工学研究所の1研究員の見解として発表させていただいており、ここで披露させていただくものがエネルギー総合工学研究所としての見解ではないことにご留意ください。

では、はじめます。

1.第四次産業革命に関連した世界の動き

第四次産業革命という言葉は、日本ではインダストリー4.0という言葉と同時に耳にしだした言葉ではないかと思われる。
そこで、まずインダストリー4.0に関して簡単に振り返ってみることとする。

インダストリー4.0

独連邦教育研究省は、2005年に発表した「2020年のハイテクノロジー戦略」という⽂書の中で、既に生産プロセスをデジタル化する必要性を指摘している。そして、2009年に発表した「統合システムに関する国家ロードマップ2009」の中で、「生産プロセスのデジタル化については、個々の企業や研究機関が取り組んでいるが、横の連携が取れておらず、標準化が進んでいない」として、連邦政府が主導権を握って学際的な⼤規模プロジェクトを実施することの必要性を指摘。2011年のハノーバー・メッセで、経済界、連邦政府、学界の代表が共同声明を発表した際、このプロジェクトに「インダストリー4.0」という呼び名が与えられた。(出典:日経ビジネスONLINE インダストリー4.0とは何か?

ここで、「インダストリー4.0」の「4.0」は、 水や蒸気を動力源とし、機械生産が始まった、所謂「産業革命」を最初の産業構造の変化(=インダストリー1.0)と考えると、電力を用い、分業・流れ作業による大量生産に産業構造が移行したのが第二次産業革命、エレクトロニクスとITを利用したオートメーションへの移行が第三次産業革命で、今回が4番目の産業構造の変化の時期、すなわち第次産業革命であるとの考え方に基づいている。

出典: bcmpublicrelations.com 「What is Industry 4.0?」

ここから、インダストリー4.0と第四次産業革命が同義と捉えられることもあるが、インダストリー4.0は、独連邦政府が国家戦略として4番目の産業革命によってもたらされる将来の工業生産のビジョンを示すものではないかと考える。

2011年11月に独連邦政府が公布した「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(高度技術戦略の2020年に向けた実行計画)」の中で戦略的施策の一つとして記載された「Industrie4.0」の要点を記すと、以下のとおりである。

・インダストリー4.0は、産学官一体となって取り組む10 年から15 年、20 年といった長期を展望する戦略プランである
・インダストリー4.0が目指すのは、生産設備や部品、製品、⼈間が互いにつながり情報をやり取りすることで、結果的にコストや無駄を今よりも⼤幅に削減しながら、「Mass Customization(個別⼤量生産)」を実現することにある
・そのために、生産に関連するあらゆる生産機器や搬送機器、部品・半製品・製品に IDチップやセンサ(情報取得)、エナジーハーベスト機構(駆動源)、CPU(情報処理)、無線回路(情報送信)などで構成されるモジュールを装着して無線通信でつなぐほか、仮想と現実を融合した高度な生産を可能にするCPS(Cyber Physical System)を開発する
・また、多様な製品に対して柔軟に工場内の生産設備が対応し(スマート工場)、生産情報がサプライヤーとも共有されて必要な部品が必要なタイミングで納入される必要があるので、サプライヤーにおける生産システムも含めたバリューチェーン全体の最適化を行なう
・工場がスマート化されることにより、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン全体から膨大なデータが収集され、解析されて可視化することが可能になる
・こうした革命的変化をドイツが主導することによって、ドイツが強みとする製造業の産業競争力を一段と強固にし、高賃金国でありながら自国内に製造基盤を確保し、輸出力をさらに強化していく

以上、インダストリー4.0の特徴を列挙したが、インダストリー4.0の対象は、「考える工場」を中心に、その工場で使う部品・原材料や工場で生産される製品販売までのバリューチェーンに限定されている点を考えると、産業革命というよりは、「製造業革命」と言った方が内容を良く表しているのではないかと考える。 インダストリー4.0が、ドイツ発祥の、欧州における産業構造変革の捉え方であるのに対して、他の国ではどのようにとらえているのか?
日本の動きを確認する前に、米国の動きを簡単に振り返る。

インダストリアル・インターネット/IIC

GE(ゼネラル・エレクトリック)は、2012年、業界に先駆けて「インダストリアル・インターネット」のビジョンを掲げ、産業機器から得られる稼働状況データの収集、分析を行うソリューションの提供を始めた。

インダストリアル・インターネットは、すべての先端機器に予測機能を付与し、障害を予防することで、機器の性能を向上させ、より強く、迅速かつクリーンで安全な世界の実現を目指すものである。

インダストリアル・インターネットによって、航空機エンジンの燃料消費や長距離貨物列車の運行システム、火力発電の燃焼効率をわずか1%改善するだけで年間およそ200億ドルの利益を生み出すことになるとGEは試算している。

出典:GE社「インダストリアル・インターネット

インダストリー4.0では、現代が4番目の産業革命の時代と捉えているのに対して、GEでは、過去200年間で世界はイノベーションの波を3回経験したと捉えている。

第1の波が、蒸気機関の商業化によって18世紀中ごろ始まった産業革命。第2の波は、20世紀の終わり頃到来したインターネット革命。そして、第3の波がインダストリアル・インターネットで、「世界は産業革命の結果として可能となったグローバル産業システムとインターネット革命の一部として開発されたオープンコンピューティング /通信システムの融合によって、生産が加速され、非効率性と廃棄物が減少し、人間のワークエクスペリエンスを向上する新たな未知の領域が切り開かれたとしている。

出典:GE社「 Industrial Internet: Pushing the Boundaries of Minds and Machines

2014年3月27日、IoT技術、特にインダストリアル・インターネットの産業実装と、デファクトスタンダードの推進を目的としてインダストリアル・インターネット・コンソーシアム (Industrial Internet Consortium:IIC)が設立された。
設立時メンバは5社(AT&T、シスコシステムズ、ゼネラル・エレクトリック、IBM、インテル)であるが、現在ではコンソーシアムメンバーは250社で、日本からも、日立、東芝、三菱電機、三菱重工、富士電機、富士通、NEC、富士フィルム、横浜国立大学、横須賀リサーチパーク、アズビル、オリンパス、カブク、コニカミノルタ、トヨタ、ミドクラ、ルネサス、リコーがメンバとして参加している。

IICでは、IoT技術活用のために必要な問題を組織的・人的両面から解決していく「思考リーダーシップ活動」や、リファレンス・アーキテクチャ/セキュリティ・フレームワーク/オープン標準をベースにセキュアな相互運用環境を実現する活動、実証の場を「テストベッド」として提供する活動を実施している。http://www.itrco.jp/images/IR4-1-3.jpg

出典:Industrial Internet Consortium の最新状況と 日本への対応

具体的には、エネルギー、医療、製造、運輸、行政の5つの領域で、会員企業同士でプロトタイプを構築したり、外部の国際標準化団体に会員企業の要望を取りまとめ、標準規格として提案航空輸送ネットワーク、電力ネットワーク、医療ネットワークなどの社会システム領域までサービス事業として展開することが構想されており、産業構造ばかりでなく、ビジネス構造/社会構造にも影響を及ぼすものとなっている。

IICの活動範囲をインダストリー4.0と比較すると、インダストリー4.0を包含する関係にある。http://www.itrco.jp/images/IR4-1-4.jpg

出典:Industrial Internet Consortium の最新状況と 日本への対応

第4次産業革命と第四次産業革命

6年前、インダストリー4.0という言葉とともに日本に入ってきた第4次産業革命を、なぜエネルギー総合工学研究所で調査対象としたのか?

以下のGoogle Trendsサービスで作成した情報をご覧いただきたい。http://wwww.itrco.jp/images/IR4-1-6.jpg

すべての国を対象として過去5年間(2012年から2017年まで)の第四次産業革命の英語「Fourth Industrial Revolution」と、インダストリー4.0の英語及びドイツ語の検索頻度を表示させたところ、人気度の動向(上段のグラフ)が示すように、赤と黄色の線で示される「インダストリー4.0」検索頻度に対して、青い線で示される第四次産業革命は、2016年1月に突如ピークが立ち、その後も検索頻度が高い状態が続いていることがわかる。

また、地域別のインタレスト(下段の地図)を見ると、ドイツでは当然ドイツ語のインダストリー4.0、日本では英語のインダストリー4.0の検索頻度が高いのに対して、他の各地では、第四次産業革命の英語が検索されている。

ところで、2016年1月に何があったのか? 答が2つ見つかった。http://i2.wp.com/www.itrco.jp/images/IR4-1-7.jpg?resize=150%2C215

・毎年1月、世界経済フォーラムはスイスの保養地ダボスで年次総会を開催しているが、2016年の年次総会のテーマが第四次産業革命だった

・その世界経済フォーラムの創設者であるクラウス・シュワブ氏が、ダボス会議に先立って「第四次産業革命」という本を1月に出版していた。(因み日本語版は去年10月に発刊されている)

そこで、今再び脚光を浴びている?「第四次産業革命」に注目し、シュワブ氏の著書をベースに、「第四次産業革命」の特徴をまとめてみた。

余談になるが、日本語では、数字を表すのにアラビア数字と漢数字両方があるため、第4次産業革命と第四次産業革命の両方が用いられているが、本ブログでは、インダストリー4.0と同義で語られるものを第4次産業革命、シュワブ氏の書著の文脈で用いられる場合は、同氏の著書の日本語訳に即して第次産業革命とした。

 

以上、今回は、2016年1月に発刊されたシュワブ氏の著書「第四次産業革命」に注目したことを示すため、「第4次産業革命と第四次産業革命」というサブタイトルしました。

次回は、シュワブ氏の著書「第四次産業革命」の内容を簡単にご紹介したいと思います。

終わり

 

エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?- その2

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再確認-第四次産業革命の特徴

Water wheel, Water Lane

© Copyright Humphrey Bolton and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

前回は、「エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか? – その1」の副題を「第4次産業革命と第四次産業革命」として、インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット/IICの概要紹介と、世界経済フォーラム創設者:クラウス・シュワブ氏の著書「第四次産業革命」にたどり着くまでの経緯をご紹介しました。今回は、シュワブ氏の著書で示された「第四次産業革命」の特徴をまとめたものをご紹介します。

では、はじめます。

2. シュワブ氏の著書:第四次産業革命の特徴

第四次産業革命の特徴

シュワブ氏の著書で指摘されている「第四次産業革命」の特徴は以下のとおりである。

・第四次産業革命は、デジタル革命の上に成り立っているが:

① インターネットの利用において、より偏在化、モバイル化し、
② 小型化し、かつ、強力で低価格となったセンサーが利用されるようになっていて、
③ 高度化したAI技術が利用され、
④ デジタル事業の限界費用はゼロに近づきつつある。

・これまでの産業革命をはるかに凌駕する速度と範囲に拡大している。具体的には:

① 世界のデータ量は2年ごとに倍増し、
② ハードウェア性能は指数関数的に進化。
③ ディープラーニングなどによりAI技術が非連続的に発展した。

・技術的な推進力は、以下の3つのメガトレンドでとらえることができる:

① 物理的領域:自動運転車、3Dプリンタ、先進ロボット工学、新素材等
② デジタル領域:IoT、ブロックチェーン、Uber、Airbnb等
③ 生物学的領域:遺伝子配列解析ベースの個別化治療等
かつ、3Dプリンタにより細胞パターンを作成するバイオプリンティング等、それらの領域間の相互作用が生じつつある。

・なお、単に技術の進歩がもたらす産業構造の変化にとどまらず、第四次産業革命によって、社会構造、経済構造、文化構造、ひいては我々の暮らしにどのようなインパクトがあるのかが論じられている:

① 新しいビジネスモデルの出現、従来モデルの破壊や、生産・消費・輸送・配送システムの再編成等、あらゆる産業にわたり根本的な転換が起きる可能性が示唆されている
② 働き方やコミュニケーションの方法、さらには自己表現や学習、気晴らしの方法についてのパラダイムシフトが示唆されている
③ 教育、医療、輸送の各システム、政府関係機関にも変化があることが示唆されている

※「インダストリー4.0」や、それに続く「インダストリアル・インターネット」等では、それが成功した場合、どのような素晴らしい世界となるかにフォーカスされているが、クラウス・シュワブ氏の著書では、「第四次産業革命」の進行が、産業構造の変化だけではなく、社会構造、経済構造、文化構造、ひいては我々の暮らしまで影響することを示唆している点が最大の特徴ではないかと思われる。

第四次産業革命がもたらす近未来の世界

世界経済フォーラムの「ソフトウェアと社会の未来に関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」(Global Agenda Council on the Future of Software and Society)は、「今後10年以内に起きると予想されるテクノロジーシフト」として、第四次産業革命がもたらす近未来の姿をいくつか列挙し、情報通信テクノロジー分野の800名を超える企業の役員や専門家を対象に関するアンケート調査を実施した。
シュワブ氏の「第四次産業革命」の著書の巻末には、それらのアンケート21項目が、アンケート回答者にどの程度支持されたかのパーセンテージとともに掲載されている。

このうち、8割以上の支持を得た、今後10年以内(すなわち、2025年まで)に実現すると予想されたテクノロジーシフトは11項目あり、関連する技術要素ごとにまとめると、以下のようになる。

※()内の数値が、それぞれの近未来予測に関してアンケートで回答者の賛同が得られた割合である

◆ デジタル領域:

・10%の人々がインターネットに接続された服を着ている(91.2%)
・90%の人々が容量無制限の無料ストレージを保有している(91.0%)
・1兆個のセンサーがインターネットに接続される(89.2%)
・眼鏡の10%がインターネットに接続されている(85.5%)
・80%の人々がインターネット上にデジタルプレゼンスを持っている(84.4%)
・政府が初めて国勢調査の変わりにビッグデータの情報源を活用する(82.9%)

◆ 物理的領域:

・米国で最初のロボット薬剤師が登場する(86.5%) 
・3Dプリンタによる自動車第一号の生産(84.1%)
・消費財の5%が3Dプリンタで生産されたものになる(81.1%)

◆ 生物学的領域:

・体内埋め込み式携帯電話の発売開始(81.7%)

以上、「第四次産業革命」が日本のエネルギービジネスにもたらすインパクトと課題を検討するにあたって、シュワブ氏の著書をベースに「第四次産業革命」に関して再確認を行なった。

以上、今回は、2016年1月に発刊された、シュワブ氏の著書に記載された「第四次産業革命」の特徴を確認し、それがもたらす近未来予想の内容をご紹介しました。

第四次産業革命の影響を受けて2025年までに体内埋め込み式携帯電話の発売が開始されているだろうという予想を8割以上のアンケート回答者が支持しているのには多少驚きましたが、考えてみると、心臓のペースメーカーなどは、かなり以前から体内に埋め込まれてきました。自分の子供を含め、昨今の若い方たちの中には、「命の次にスマホが大切」と考えているような人達がいるので、そのうち、心臓のペースメーカー同様体内に埋め込もうという人たちが現れるのかもしれません。

次回は、第四次産業革命に関連した日本の取組みを概観します。

終わり

エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?- その3

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第四次産業革命に関連した日本国内の取組み

Horizontal Steam Engine, Quarry Bank Mill

The engine which was originally installed in this position was scrapped in 1906. It was a horizontal engine which is more efficient than a beam engine because the piston moves forwards and backwards rather than up and down which uses more energy.

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前回は、世界経済フォーラム創設者:クラウス・シュワブ氏の著書に記された「第四次産業革命」の特徴を確認し、それがもたらす近未来予想の内容をご紹介しました。 今回は、第四次産業革命に関連した日本の取り組みを概観します。 では、はじめます。

3.国内省庁の動き

シュワブ氏の著書では、「第四次産業革命」が、単に技術の進歩がもたらす産業構造の変化にとどまらず、社会構造、経済構造、文化構造、ひいては我々の暮らしにまで影響をもたらすものであると記されていた。

そこで、日本政府の機関で、産業構造の変化に直接かかわる経済産業省だけでなく、他に関係しそうな首相官邸、内閣府、総務省、国土交通省、文部省の各ホームページ上で、第四次産業革命/第4次産業革命関連のキーワード検索を行ったところ、様々な会議体やイベントが見つかった。
#他にも、農林水産省や厚生労働省等、関連する部署があったかもしれないが、今回、調査期間が短かった(4月~6月)ので、割愛した。

どのような会議体が、いつ頃どのような議論をしていたかの詳細を見るにはここをクリック

そこから、部門ごとに、第四次産業革命に関連して議論している主な会議体同士の関連と主な成果物を図にまとめると、以下のようになった。
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以下では、これらの政府関係機関の内、内閣府、日本経済再生本部と経済産業省の第四次産業革命に関連した動きを紹介する。

内閣府:ソサエティ5.0 (Society5.0)

「ソサエティ5.0」とは、「超スマート社会」の実現に向けた一連の取組に関する名称で、内閣府内に設置された総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)で検討され、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で使われているものである。

「第5期科学技術基本計画」は、2016年度から5年間の科学技術政策の基本指針をまとめたもの。同計画の「第2章 未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組」の目次に、「(2)世界に先駆けた「超スマート社会」の実現(Society 5.0)」として、ソサエティ5.0の名称が使われている
「超スマート社会」とは、「必要なもの・サービスを、必要な⼈に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる⼈が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、⾔語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」と定義されている
「ソサエティ5.0」の5.0という数字に関しては、①狩猟社会、②農耕社会、③工業社会、④情報社会に続く、5番目の「科学技術イノベーションが先導する」社会という意味が込められている
具体的には、サービスや事業の「システム化」、システムの⾼度化、複数のシステム間の連携協調が必要であり、産学官・関係府省連携の下、共通的なプラットフォーム(超スマート社会サービスプラットフォーム)構築に必要となる取組を推進するとしている

そのプラットフォームとして、当面、総合戦略2015で定めた11システムのうち「高度道路交通システム」「エネルギーバリューチェーンの最適化」「新たなものづくりシステム」をコアシステムとして開発し、他システムと連携協調を図り、新たな価値・サービス創出の基となるデータベースの整備と基盤技術(AI、ネットワーク技術、ビッグデータ解析技術等)の強化を図るとしている。

出典:内閣府 CSTI「我が国の科学技術イノベーション戦略-Society5.0実現に向けてー」

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また、官民対話や他省庁プロジェクト等と連携を強化するとともに、以下のように産業界とともに、推進策を具体化しているとしている。  
出典:内閣府 CSTI「我が国の科学技術イノベーション戦略-Society5.0実現に向けてー」

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内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が中心となってまとめられたソサエティ5.0に関して、関係省庁の対応を概観すると、以下のとおりである:

・総務省:情報通信審議会の情報通信政策部会およびIoT政策委員会が調査・審議を⾏ない、施策目標、検討・実施の主体、スケジュールを明確化した上で整理した「IoT総合戦略」としてとりまとめ
・ 文部科学省:平成28年版科学技術白書第1部第1章で『「超スマート社会」の到来』というタイトルで、ソサエティ5.0の目指す未来像を示すとともに、第2章で『スマート社会の実現に向けた我が国の取組(Society 5.0)の方向性』で「超スマート社会」で活躍する人材の育成・確保まで含めて検討

※ ソサエティ5.0は、まとめられた時期から見て、ダボス会議で再定義された「第四次産業革命」ではなく、インダストリー4.0で考えられていた「第4次産業革命」を参考にしたものと考えられる。

日本経済再生本部:日本再興戦略中の第四次産業革命の捉え方

「日本経済再生本部」下に設置された「産業競争力会議」では、日本経済の『失われた20年』を取り戻すべく、2013年以降、毎年「日本再興戦略」を立案/改定し、実行に移しているが、2016年6月に発表された「日本再興戦略2016」では、副題が「第4次産業革命に向けて」となっている。

その中で『GDP600兆円を実現するための「官民戦略プロジェクト10」』が定義され、トップに「第4次産業革命の実現」が挙げられている。http://www.itrco.jp/images/IR4-3-3.jpg

出典:首相官邸:「名目GDP600兆円に向けた成長戦略

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  • このプロジェクトのタイトルは「第4次産業革命の実現」となっているが、内容的には、「スマート工場」や「サプライチェーン全体の在庫ゼロ」、「即時オーダーメード生産」といった、インダストリー4.0/インダストリアル・インターネットの色合いの濃いものから、クラウス・シュワブ氏の提唱する「第四次産業革命」でも取り上げられている「個別化健康サービス」、「介護ロボット活用」や「自動走行」、「FinTech」などが「データ活用プロジェクトの推進、中堅中小企業への導入支援」の項目に入れられているとともに、「新たな規制・制度改革メカニズムの導入」、「イノベーションの創出」から「チャレンジ精神にあふれる人材の創出」まで、広く第四次産業革命の実現に必要な分野がカバーされている
  • ただし、「第4次産業革命は、技術、ビジネスモデル、働き手に求められるスキルや働き方に至るまで、経済産業社会システム全体を大きく変革する」という認識のもと、「新たな社会システムや産業構造、就業構造の将来像を共有し、それに向けた目標を目指」して何をすべきかに主眼が置かれており、第四次産業革命が既存業界にどのような(悪)影響をもたらす可能性があるかについては言及されていない  

経済産業省:Connected Industries

経済産業省内に設置された「産業構造審議会」の下部組織である「新産業構造部会」では、第四次産業革命へ的確に対応するための官民の羅針盤を示すべく、2016年4月27日に「新産業構造ビジョン-中間整理」を公開した。

中間整理を実施した背景として、『「第4次産業革命」とも呼ぶべきIoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)等による技術革新は、従来にないスピードとインパクトで進行しています』と述べられており、日本が欧米のインダストリー4.0やインダストリアル・インターネットに後れを取っていることへの焦りが感じられる中間整理となっている。

出典:経済産業省「【60秒解説】第4次産業革命-日本がリードする戦略-」

  • この時点では、第四次産業革命はインダストリー4.0やインダストリアル・インターネットと同義と捉えられている
  • ただし、「3.第4次産業革命による社会の変革と産業構造の転換」では、シュワブ氏が言及しているように、第四次産業革命が雇用にどのような影響が出そうかも検討されていることが判明した

2017年5月30日、中間整理以降の議論を反映した「新産業構造ビジョン - ⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来」が公開された。
その中では、「成⻑戦略第2ステージの課題は、第4次産業⾰命の技術(IoT、ビッグデータ、⼈⼯知能、ロボット)を社会実装し、ソサエティ5.0を実現すること」とし、「技術⾰新をきっかけとする第四次産業⾰命を踏まえ、⽬指すべき未来社会像であるSociety 5.0を実現するための産業の在り⽅、多様な⼈、組織、機械、技術、国家がつながり、新たな付加価値を創出し、社会課題を解決していく」新たな産業構造として、Connected Industriesというものを導入している。

出典:経済産業省:「新産業構造ビジョン - ⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来」

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この図から、「新産業構造ビジョン」の中では、第4次産業革命は、技術の面からしか捉えていないことがわかる。

以上、今回は、第四次産業革命に関連する日本政府関係機関の主な動きをご紹介しました。

次回は、第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか検討するにあたっての前提条件を整理しようと思います。

終わり

エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?- その4

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第四次産業革命の影響を検討する上での前提条件

Quarry Bank Mill Textile Museum

Steam boiler, dated 1880.

© Copyright David Dixon and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

前回は、第四次産業革命に関連した日本の取り組みを概観しました。今回は、第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか検討するにあたっての前提条件を整理しようと思います。 では、はじめます。

4.第四次産業革命の影響を検討する上での前提条件

今から何年後のエネルギービジネスを想定するのか?

「その1」で説明した通り、本ブログシリーズは、筆者が籍を置いているエネルギー総合工学研究所での「第四次産業革命がエネルギービジネスにもたらす影響度調査」に基づいている。

シュワブ氏が「第四次産業革命」の特徴として指摘している技術的、産業構造的、社会構造的、経済構造的、文化構造的局面から具体的に第四次産業革命がエネルギービジネスにどのような影響をもたらす可能性があるのかの仮説を立てるにあたって、

・今から何年後のエネルギービジネスを想定するのか?
・その頃、エネルギービジネスを取り巻く環境がどうなっているのか?

をはっきりさせなければならない。

 「コンピューティング・パワー」の利用からのアナロジー

極端な話をすると、例えば、1日の電力需要を満たす容量の10倍の発電量の太陽光パネルと、自家消費できない太陽光発電の電気を充電することで雨や曇りの日が続いても一か月くらいの電力需要を賄える容量の蓄電池の初期導入コストとランニングコストの合計が、現在の電気代より安くなれば、電気に関する人々の暮らしは、自給自足がベースとなり、その頃には、エネルギービジネスと言えば、太陽光パネルと蓄電池の製造メーカー、修理メーカーと、設置事業者だけになってしまうかも知れない。

個人的にコンピュータを所有することがまだ夢のような世界だった1970年代前半、人々はタイムシェアリグ機能を用いて、「大型コンピュータ」が提供する「コンピューティング・パワー」を時分割で共同利用していた。これは、大規模発電所で発電した電気をみんなで使っている従来の「エレクトリック・パワー」、すなわち「電力」の利用形態に相当するのではないかと考える。

しかし、今や、当時の「大型コンピュータ」の性能をはるかにしのぐパソコンを各個人が保有・利用する時代となり、スーパーコンピューターを用いなければできないようなよほどの高度な用途ではない限り、個人所有しているパソコンの「コンピューティング・パワー」で「自給自足」の生活を我々はすでに行っている。因みに、今現在使っているデスクトップ型WindowsPCでタスクマネージャを立ち上げパフォーマンス・タブを指定してCPU使用率を見ると平均10%程度で、残り90%の「コンピューティング・パワー」は捨ててしまっている。

この「コンピューティング・パワー」の利用形態の変化から、遠い将来の我々のエネルギー利用形態を類推すると、エネルギーの利用形態も、やがては「自給自足」が当然で、「余れば使わなければよい」という形になるのではないかと思われる。
ただ、エネルギーの利用形態がそのような時代がいつ頃来るかわからない。ずいぶん先の話だと、そこに、現在進行形の第四次産業革命の痕跡を見出すことは難しいかもしれない。

そこで、第四次産業革命のエネルギービジネスへの影響を考える上での大前提条件として、シュワブ氏の「第四次産業革命」の著書で、テクノロジーシフトが起きる時期として想定した「2025年」を採用することとする。

日本のエネルギーを巡る環境を激変させる5つの「D」

さて、「今から何年後のエネルギービジネスを想定するのか?」に関しては、「2025年」と定めたが、「その頃、エネルギービジネスを取り巻く環境がどうなっているのか?」を考えなくてはならない。
NPO 法人 国際環境経済研究所のホームページで竹内純子氏が執筆されているものの中に「2050 年のエネルギーを考える思考実験」の記事があり、その中で、日本のエネルギーを巡る環境を激変させる要因として、「五つの D」(下記)が示されていた。

D1:Depopulation(人口減少)
D2:Decentralization(分散化)
D3:Deregulation(自由化)
D4:De-Carbonization(脱炭素化)
D5:Digitalization(デジタル化)

である。

2050年のエネルギー環境想定なので、その中で示されている環境変化をそのまま借用することはできないが、2025年時点でのエネルギービジネス環境の変化を考える上で、参考にさせていただいた。

D1:Depopulation(人口減少)

2025年ごろまでは、日本の総人口は、2050年の総人口推計値ほど顕著な減少がなさそうである。

D2:Decentralization(分散化)

大規模発電所に対して、分散電源や、デマンドレスポンスのような負荷抑制により作り出す、所謂ネガワットも含め、それらを集約して仮想的な大規模発電所(バーチャル発電所:VPP)とするビジネス実証が、現在経産省による実証事業が行われており、2025年にはエネルギービジネスを構成する1つの要素に成長していると思われる。

D3:Deregulation(自由化)

出典:資源エネルギー庁「電力・ガス・熱システム改革について(報告)」

石油、熱供給の自由化はすでに完了しており、現在進行中の電力システム改革を更に詳細にみても、2025年というのは、電力・ガスの自由化も一段落した状況ではないかと考える。

出典:経済産業省「電力システム改革専門委員会報告書」

また、上記の電力システム改革工程表によると、送配電部門の分離だけでなく、リアルタイム市場も創設されて競争的な市場環境が整ってきた状況になっているものと思われる。

そこで、電力のスポット取引ばかりでなく、リアルタイム取引でも、「メリット・オーダー」の市場メカニズム、要するに安いもの順に電力調達が行われるようになり、燃料代のかからない太陽光や風力発電が優先的に調達される結果、大規模火力発電所に取っては厳しい事業環境になりつつある状況が予見される。

D4:De-Carbonization(脱炭素化)

パリ協定で日本政府は日本の温室効果ガス排出削減目標として2013年比で2030年までに26%削減を掲げており、この削減目標をベースとして、電力業界が定めた2030年度0.37kg CO2/kWhのCO2 排出係数目標を達成するためには、様々な再生可能エネルギー導入促進が図られているものと想像する。太陽光や風力発電は、D2の分散型電源であると当時に、脱炭素化電源として導入が進むものと思われる。

D5:Digitalization(デジタル化)

竹内氏の「思考実験」の説明の中では、IoTやAIなどデジタル技術の進展で交通・物流の電動化・自動化などを通じてインフラ間の相互補完性が高まり、すべてのインフラを総合してコミュニティを支えるための最適な配置や運用を目指し、エネルギーのスマート利用が進むことが予想されている。2050年での想定と2025年での想定では進み具合に差はあるものの、同じ方向性でエネルギービジネスの環境変化が起きているものと考える。

以上、今回は、第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか検討する上での前提条件を整理しました。

先ほど言及した竹内氏が、伊藤 剛氏  (アクセンチュア)、 岡本 浩氏 (東京電力パワーグリッド)、 戸田 直樹氏 (東京電力ホールディングス)と共著で、表紙(下図)にあるように「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」という書籍を先月(2017/9/2)出版されています。

http://i1.wp.com/www.itrco.jp/images/IR4-4-3.jpg?resize=204%2C287実は、この「エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?」について、戸田様にご意見を伺おうとコンタクトしたところ、同書をいただき(戸田様、どうもありがとうございました)、このブログシリーズの後半で披露させていただこうとしていたものと内容がかぶってしまっている(もっとしっかり書かれている)ことがわかったのですが、シュワブ氏の第四次産業革命に対する視点(産業構造の変化に加えて、社会構造、経済構造、文化構造や我々の暮らしの変化)から検討したエネルギー産業の2025年の絵姿には、Utility3.0の世界では見落とされている変化もあるかもしれないということで、気を取り直して、本ブログをしたためている次第です。

次回から、いよいよ、第四次産業革命が日本のエネルギービジネスにどのような影響をもたらすのかを考えていきます。

終わり

 

 

 

 

 

 

エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?- その5

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第四次産業革命の影響の検討対象と運用・生産面での影響

Samuel Greg’s House, (Quarry Bank House)

© Copyright David Dixon and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

前回は第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか検討する上にあたっての前提条件を整理しました。 今回は、いよいよ第四次産業革命がエネルギービジネスにどのような影響をもたらすかを検討するわけですが、エネルギービジネスといっても色々あります。そこで、検討対象ドメインを定めるところから始めたいと思います。 では、はじめます。

5.第四次産業革命の影響を検討する対象

エネルギービジネスのどこに焦点を当てて第四次産業革命の影響を検討するのか?

その3」で、第四次産業革命に関連した日本の取り組みを調査し、主な動きの1つとして、Society5.0について概要を述べたが、その内容を再掲すると:
総合科学技術・イノベーション会議が策定した第5期科学技術基本計画画(平成28年度〜32年度)では、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が⾼度に融合した「超スマート社会」の実現に向けた⼀連の取組を「Society 5.0」とし、同計画に先んじて策定された「科学技術イノベーション総合戦略2015」で規定された 11のシステムの内、「エネルギーバリューチェーンの最適化」、「高度道路交通システム」、「新たなものづくりシステム」の 3 システムを「超スマート社会」の実現に向けた中心的なシステムと位置付けている。

「エネルギーバリューチェーンの最適化」に向けたSystem Of Systemsの検討について』というエネルギー戦略協議会の平成29年3月33日付けの資料では、
・ICTや蓄エネルギー技術を活用して生産・流通・消費をネットワーク化
・エネルギー需給の予測・把握、総合的な管理・制御
・分散型電源の導入による地域活性化、
・リアルタイム取引
・デマンドレスポンスによる効果的な需要制御
のようなキーワードが見受けられたので、エネルギーバリューチェーンを構成する運用、生産、流通、消費のドメインごとに、上記のキーワードをに関連して、どのような第四次産業革命の影響が考えられるかを検討することとした。

出典:内閣府 エネルギー戦略協議会

また、「その2」で指摘したように、シュワブ氏の著書にある第四次産業革命の特徴として、それが単に技術の進歩がもたらす産業構造の変化にとどまらず、社会構造、経済構造、文化構造、ひいては我々の暮らしにもインパクトをもたらすものであることが論じられていた。そこで、従来のエネルギービジネスに対して、社会構造、経済構造、文化構造の面からどのような影響をもたらすかも検討することとした。

6.第四次産業革命のエネルギービジネスへの影響

 エネルギーバリューチェーンの運用面への第四次産業革命の影響-その1

予測技術の進歩

予測技術は、第四次産業革命の恩恵を受けている技術分野の1つで、古くは過去データの統計をベースにしたものから、AIベースになり、ニューラルネットを経て、現在はDNN(ディープニューラルネットワーク)に注目が集まっている。

出典:http://xml.kishou.go.jp/seminar/pdf20140319/09.pdf

 

出典:https://www.chuden.co.jp/resource/corporate/news_123_N12325.pdf

その間にコンピューティングパワーが飛躍的に増大し、ビッグデータのデータ処理も、これまでのオフラインで収集したデータを対象とするバッチ処理からインタラクティブクエリ処理を経て、無数のIoTデバイスから時々刻々送られてくるストリームデータや、インターネット上のSNSデータにディープラーニングを適用する予測技術が今後の主流となると思われる。

出典:http://markezine.jp/static/images/article/24185/24185_02.png

需要予測業務への影響

電力会社は、従来の予測モデルで十分精度の高い需要予測ができていたと思うが、今後、消費者宅への太陽光発電や蓄電池の普及、DR/VPPアグリゲータの参入で、需要予測は複雑になり、従来の予測モデルの変更が余儀なくされると思われる。 一方で第四次産業革命を構成するAI/ビッグデータ/IoT技術により、より多くのセンサーから大量のデータを収集して、蓄積したビッグデータを利用してAIツールが自己学習を行いながらリアルタイムに需要予測を行うことで、需要予測業務は、需給運用業務と一体化することが考えられる。

 エネルギーバリューチェーンの運用面への第四次産業革命の影響-その2

発電プラントの保全業務への影響

発電プラントの運用を問題なく遂行する上で、運用状態の診断・監視、すなわち、予防保全は重要である。異音判断など経験と勘に頼っていたプラントの点検作業が、プラントの状態を監視する各種センサーの運転でデータついて、それぞれ閾値を(運用者が経験と勘で?)設定し、自動的に異常を検知するようにはなってきているが、安価でかつ性能が良くなったIoTデバイスをセンサーとして発電プラント内に数百のオーダーで設置し、それらのIoTデバイスからのリアルタイムデータをとって、正常運転時のパターンと、異常発生に至る運転パターンに分けて、AIを利用した運転監視システムに機械学習させた後、24時間体制で監視しAIで不具合を早期検出する「予兆診断」が可能となってきた。

出典:中部電力プレスリリース

電力各社もすでに第四陣産業革命を推進する技術構成要素であるAI/ビッグデータ/IoTを利用した「予兆診断」に注目しており、中部電力は、2016年6月のプレスリリース記事「火力発電における運転支援サービス事業」で、センサーデータとAIを組み合わせ、いつもと違う挙動を「サイレント障害」として検知する2017年完成予定のシステムを紹介している。

 エネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響―その1

石炭火力発電所のCO2排出削減問題

CO2削減に向けて石炭火力で少量の木質バイオマス混焼は行われていたが、電力業界が定めた2030年度0.37kg CO2/kWhのCO2 排出係数目標を達成するためには、様々な再生可能エネルギー導入促進とともに、混焼率を高める必要がある。しかし、石炭火力の運用経験は豊富にあったとしても、混焼率を高めてCO2排出削減と発電コスト最小を同時に満足させるような最適運転は容易ではない。

石炭火力発電所の混焼運転への影響

そこで、発電所のシステムをサイバー上で「デジタル・ツイン」として構築し、従来の石炭・バイオマス混焼時に採取した運用データと、混焼率をあげて実験的に採取した運転データを用いて、混焼率やバイオマスの種類など運転条件を変更した際の影響をサイバー上で検証できれば、短期間に最適運転に持ち込める可能性がある。

出典: http://biz-it-base.com/blog/wp-content/uploads/2017/01/827aa4f50ab623ab504dc6a6012be398.png

電力各社もすでにデジタル・ツインの有用性を認識している。下図は、関西電力が2017年9月プレスリリースした「AIを活用した次世代火力運用サービスの協働開発について」の記事の別紙に示されたもので、正にデジタル・ツインを構築して、ボイラー燃焼調整等の最適運用に利用する計画を立てている。
出典:関西電力プレスリリース

 エネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響―その2

将来の大規模火力発電所への影響

太陽光発電や風力発電の再生可能エネルギーは、出力変動の大きな取り扱いにくい電源とされてきたが、第四次産業革命の技術革新がもたらす予測技術の進歩で、再生可能エネルギーに関しても数分後の発電量予測が正確にできるようになると、スポット市場ばかりか、リアルタイム市場にも単価の安い再生可能エネルギーの入札が増加し、結果的に調整電源/ピーク負荷対応電源として火力発電所の役割が変化してくる可能性がある。

※ 例えば、米国MISO管内では、2013年3月1日以降、基本的にすべての風力発電設備は、DIR(Dispatchable Intermittent Resource)として登録することになっている。
DIRとは、通常の電源同様、MISOの1日前市場およびリアルタイム市場の入札に参加できる電源で、入札にあたっては、風力発電設備の設備容量に基づく値ではなく、風力発電予測値を指定する。(一日前市場では翌日1時間毎の風力発電予測値が最大出力として取り扱われ、リアルタイム市場では、5分毎の短期発電予測値が5分毎の最大出力として取り扱われる)
※ MISOのDIRに関する詳細は、ブログシリーズ「MISOのDRRとDIR-その7」、「その8」参照

四六時中一定容量の確保が難しい再生可能エネルギーは、容量確保の観点からは当面火力発電に置き換わることはできないが、デマンドレスポンスのような需要側の技術革新を進展してくるので、調整電源やピーク負荷対応電源としても将来的に価値が低下することが想定されるので、火力発電事業者は、電源ポートフォリオを組み替えていく必要がある。

※ すでに、ドイツの発電事業者の中には火力発電部門を子会社化し、再生可能エネルギーにシフトしているところもある
※ ただし、再エネが今後どれほど普及するかは、経済面だけでなく、国としてどれほど再エネを重要視するかによるので、日本でどうなっていくのか、今後も注視する必要がある

 

出典:http://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport007.pdf

長くなってきたので、今回はひとまずエネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響の検討までとし、次回は、エネルギーバリューチェーンの流通面への第四次産業革命の影響の検討から開始します。

終わり

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